Lv19.三つの悪魔
疲れ果てた身体を引き摺って歩いていたエタルは、町外れの深い森の真ん中で倒れ込んだ。
「なんとか……終わった」
それだけが今のエタルの感想だった。
「ギリギリ勝てたね」
「勝てた……のか?」
地面につけた頬から森の中の木々の根が蔓延る地肌を感じながら、眠気が襲ってきた目を閉じそうに言う。
「勝ったでしょ。エタル。キミは戦いに勝ったんだ」
「そうか。勝ったのか。どうでもいいな、勝敗なんて」
生きて帰って来れた。それ以上に重要なことがこの世にあるのだろうか。
「欲がないな、キミは」
「欲……ないのかな。オレ」
「ああ。キミは欲がないね」
「寝たい」
「こんな所で寝たら風邪ひくよ」
「モンスターが出たら……教えてくれ」
「わかった。爪で起こしてやる」
「痛いからやめて」
「だったら起きろ」
「……だめだ。……眠……ぃ……」
「エタル。キミが眠る前に言っておくことがある」
「……ん……?」
「ボクは確率の精霊だ」
……確率の……精霊……?
猛烈に襲ってくる睡魔に抗いながらエタルはシュレディの言葉に耳を傾ける。
「ボクの本当の名前はシュレディンガー。確率を司る最古の精霊シュレディンガーだ。ボクはある目的の為にキミに近づき、これまでの関係を築いていった」
子猫が、風になびくエタルの髪を見ながら言う。
「
子猫の言葉にエタルは答えられない。
「ボクが言った変数とは
子猫の声に、少年は何も答えない。
「そんなキミにお願いがある。この世界には現在、三つの悪魔が存在している。ボクはその三つの悪魔を探しているんだ。だから、その悪魔たちがいる所までボクを連れて行って欲しい。これがボクの真の目的。三つの悪魔にはそれぞれ名前がある。マクスウェルの悪魔、ラプラスの悪魔、そして最後の三つ目が……いや、これを言うのは他の二体の悪魔が揃ってからにしよう。アイツだけは強大だ。でも他のマクスウェルとラプラスは気の良いヤツラだ。きっとボクたちの仲間になってくれる。ボクもアイツらとは別れる直前まで仲の良い友達だったんだ。でも今は離れ離れになってしまった。そうさせたのは、その三つ目の悪魔さ。この悪魔はボクの敵だ。でも、もしかしたら……キミだったら仲間にできるのかもしれない。だってアイツもキミみたいな
瞑らな瞳を据えて言う子猫に、少年は寝息を立てようとしている。
「もう眠いかい? なら休むといい。キミが起きるまでその姿は隠しておくよ。ボクは確率の精霊だ。ある程度の範囲までなら対象物を確率的に見えないようにすることができる」
尻尾を振る子猫が周囲を見渡しながら、寝息を立て始めた少年を見て言う。
「……本当に寝ちゃったんだね。話を聞いてくれてありがとう。この話はまた起きた時にでも思い出してくれるとうれしい。ボクは本当に探していたんだ。このボク、シュレディンガーの猫にやっと気付いてくれる人間の存在を……」
そして小さな白い子猫は、ついにそんな存在を見つけることができた。
「それは本当に祈るような旅だったよ。誰に話しかけてもボクの存在を分かってくれない。でもエタル・ヴリザード。キミだけはボクを見かけて無視してくれた。わかりやすかったなぁ。
子猫は現在に感謝し、そして過去の出来事に怒りを向ける。
〝お前に気付く人間は、全くと言っていいほどいないだろう〟
「でもいたよ」
過去に聞いた声に、子猫は今さらながらの返事をかえす。
〝もしそんな人間がいたら、それはワタシの足元が掬われる時だ〟
「その為に今から会いに行く。首を洗って待っていろっ」
子猫が、誰もいない空を見つめて言った。
〝そんなに他の
「必ず見つけてやる。一人残らずだ」
〝時間は用意してやる。お前の無意味な旅をワタシはここから見守っているよ〟
「ちゃんと見ておけ。これからボクたちがお前の
そう言って、白い子猫の小さなシュレディは自分の背後に投げかけた。
「……だから待ってろ。挫刹ッ」
かつて三体の悪魔と一匹の子猫による創世紀が、一人の少年の登場によって再び幕を開ける。
異世界ランキング戦の極意《原典》 挫刹 @wie
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