Lv18.ヱターナル・フォース・ヴリザード
灰色の金属のような剣に白い冷気が纏って漂っている。
「なんだ? 今度はなんの魔法だっ」
先ほどから攻撃を弾かれているばかりのトロールがエタルに目掛けて棍棒を振るう。
「エタル。わかってる?」
「ああ。たぶん」
十字や斜めに振り回される棍棒の攻撃を躱しながら、エタルが灰色の樹製の剣をトロールの緑色の左肩に振り降ろしてから、何事もなく背後に着地した。
「ん? ……ッぬぐぅッ」
エタルがトロールを飛び越して地面に着地した瞬間、激痛を感じて膝をついたトロールが肩を押さえて呻いた。
「な、何っ。キサマ、何をやったっ?」
膝を突きながら顔を歪めて訊いてくるトロールに、エタルも振り返って見る。
「な、なんとか言えッ。お前、オレに何をしやがったっ」
それでもエタルは何も答えずにトロールの背後を見る。するとトロールもエタルが向けた視線が気になって、また自分の正面に向き直した。するとそこには横に整列した騎士たちの姿があった。
「見つけたぞっ、トロール。これ以上お前の好きにはさせんっ。総員、配置につけっ」
そう言って集まった騎士たちが重厚な白銀の鎧を着たまま最前列に
「なんだ。王国の騎士団かッ。お前ら先兵の出払い騎士どもの攻撃なんぞがこのオレに通用するとでも思ってるのかっ?」
「
自分の背後でまたもや唱えたエタルを振り返って見て、トロールは訳も分からず再び集まった三十人ほどの騎士たちを睨み直すと、まずは騎士たちを片付けようと決めて息を荒くさせる。
「お前たちヒョロヒョロの騎士どもなんぞが何人来ようと……」
そう言ったところで、ヒュンと飛んできた
「……お?」
「やった当たったぞっ!」
「騒ぐなっ、まだ一発当たっただけだ。トドメをさせっ」
騎士長格の騎士が目標物であるトロールに剣の切っ先を向けると、堰を切ったように
「なんだ? やっぱりさっきの一発はマグレだったじゃないかっ。見ろっ、オレの体に傷一つもつけられてないぞっ」
大声を放つトロールが地面を響かせて、緑色の肉体の厚さで刺さる事もできずに弾かれていく無数の弩弓の矢を見て言う。
「
また背後でエタルが何言かを唱えた。その瞬間、降り注がれていた弩弓による矢の中の二本がトロールの腕にドン、ドンと突き刺さる。
「……グッ? こ、これは……」
エタルの唱えた魔法で、騎士たちの
「……に、逃げる気か? エタル」
「
今度は、茫然と振り向いてガラ空きとなった背中に二本の矢が突き刺さった。
「ぐぁっ? まさか……お前は逃げて……、オレは騎士団に殺してもらう腹か……?」
トロールの絶望した顔が、エタルの顔から笑みを消していた。
「……オレを……見殺しにする気か?」
トロールの問いにエタルはさらに距離を離す。その行動を見てトロールは全てを悟った。目の前の
「ふざっ、ふざけるなぁッ! オレを倒したのはお前だぞッ? オレはお前に敗れたんだッ! だからオレを破ったお前だけがオレにトドメを差す権利があるッ! それをここで放棄する気かッ!」
しかし、そんな怒声も戦場から遠のこうとするエタルには届かない。
「そんなに
逃げ足だけは残してやる。
そう言いたげに、エタルが
「く、クソッ。ゆ、許さん。許さんぞぉッ。この恨みは決して忘れんッ! 惨めな敗者をここまで屈辱的に侮辱した罪。絶対に許されるものではないッ。勝者は敗者にその手で引導を渡さなければならないッ! それが勝者の義務だッ!」
勝手に勝者と敗者のルールを押し付けてくるトロールを振り返って見ると、既に帰る気満々のエタルは決定的な一言を放って別れを告げる。
「勝者の義務? 敗者をどうしようが勝者の権利だ。そう言ったのアンタじゃないか」
だからエタルは好きにした。敗者を更に晒し者にする為に敗者よりも遥かに弱い格下に殺されるように仕向けたのだ。もちろんその勝者の選択肢に対しての敗者に拒否権はない。なぜなら敗者は勝者に敗れたのだから。
それが嫌ならば負けなければいい。それがこの世の絶対の掟だった。
「ぬ、ぬぅおッ、ぬぅあぉっぉっぉぉぉっぉぉォぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっォォおぉっぉおっぉぉぉおぉぉぉぉぁァッぁぁァッぁおぉぉおぉおぉぉぉおぉおっぉッッ!」
トロールが叫ぶと、放たれる
「オレはお前ら騎士団に負けたわけではないッ! いいかッ。オレが負けたのは決してお前らではないからなッ!」
醜い言い訳を喚いて、力を溜めたトロールが渾身の棍棒を地面に振り下ろすと、爆発と煙と砂嵐を巻き起こして紛れこみ、跡形もなく自分の巨体を消して逃げていった。
後に残ったのは武器を持って構えていた騎士たちと廃墟と化した通りの真ん中にできたクレーター。そしてトロールと同時に姿を消した少年の足跡だけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます