Lv17.絶対零度変数魔法



「隠れた変数魔法……?」

「そうだ。それを見つけろ。いまのキミは剣の力に振り回され過ぎてる」


 エタルの肩に乗った子猫のシュレディがエタルの握っている世界樹の剣を見て言っている。


「この剣……いやに軽いんだ」

「それを軽いと感じるならキミの技量は相当なものだ。この時点でキミは既にあのD10の地域フィールドまで足を踏み入れることができるだろう」


(さっき聞いた……世界樹がある領域まで行ける……?)


「だが油断するな。いまのキミは剣の力に振り回されている。キミはこれからその剣の力を制御しなくちゃいけない。わかる?」

「剣の力を……制御する……?」

「何をブツブツ言っているゥッ」


 エタルの肩に乗る子猫の姿が見えないトロールが棍棒を振り回した。それを避けながらエタルは子猫シュレディの言葉に耳を傾ける。


「この剣の力を制御するには隠れた変数魔法というのが要るのか?」

「制御するっていうか、力を使いこなすためだね。キミ、あのトロールを殺したくないんだろ?」


 シュレディが試しに言うと、エタルの表情が曇る。


「気落ちするな。本心を隠してたってしょうがない。トロールはキミを殺しても何も感じないがキミは違うんだろう。ならその方法を探す事だ。むしろキミは凄いことを考えている。アリを潰すなんて簡単なことだ。そうだろ? でもキミはアリを生きたまま外へ逃がしたい」

「でも確かアリって……」

「そうだ。一度でも家に迷い込んだアリは外へ逃がすと大群を連れて戻ってくる」


 その為に、一度でも家に侵入したアリは一匹残らず確実に命を絶たなければならない。


「でもキミはそのアリを逃がしつつ、更にもう家にも来させないようにもしたいんだろう? それはアリを殺すことよりも遥かに難しいことだ。エタル。ヘタをしたら、それは神さえもできない神業だ」

「神にも……できないことなのか?」

「ああ。できない。それでもやるんだね?」


 子猫の問いにエタルは頷く。


「なら隠れた変数魔法を見つけ出せ。それがキミに答えを与えてくれる」


 肩に乗るシュレディは簡単に言うが、エタルはその隠れた変数魔法に心当たりがカケラもない。


「ヒントは上げよう。答えは言えない。ボクは隠れた変数魔法が何かを知ってるけど、その正体をキミには教えられないんだ。この魔法はキミ自身が見つけないと使いこなせない」

「おれが自分で見つける? あのエインステンでも見つけられなかったものをか?」


 頷くシュレディから視線を外してトロールの攻撃を剣で受けるとそれを弾き返し、次に放たれてきた二発、三発の打撃を紙一重で躱して飛びのくと距離をとる。


「隠れた変数魔法って一体なんだ?」

「概要だけ教える。この世界には時計の針のように規則的に動く数字が一つだけ隠されている。その動いてる数字を見つけろ。その数字はこの世界のどこかで自動的に動いている。今のこの瞬間にもだっ。そしてキミはそれに何度か気づいた事がある。だからキミはボクの存在に気付く事ができた」

「でもオレには隠れた変数魔法なんて」

「落ち着いて考えろ。今日の喫茶店カフェに居た時にキミは何か調べ物をしようとしていただろ? キミは初めから、この世界には疑問を持っていたはずだ」

「何を調べていたかって、それは……」


 棍棒を何度も振り回して突進しててくるトロールからの攻撃を、覇気がないままなし続けるエタルが、戦場に向かう前の自分が考えていたことを思い出そうとする。


「……3.14……」


 エタルが呟いた数字を聞いた瞬間に、シュレディは鋭く目を据えた。


「……。それかい? キミがここへ来る前に調べようとしていた物は?」

「……あと、マイナス273.15……」

「その数字。円周律と完全零度だね。それを調べて何をしようとしていたの?」

「……たぶんんだ。この数字……」


 エタルの言葉に、シュレディは驚く。


「動く……?」

「そう。動くと思うんだ。でもその動かし方が分からなくて……」


 エタルが剣を持っていないほうの手で魔法陣を出現させた。数字などを計算するための簡単な電卓の魔法陣アプリだった。


「……だから3.14という数字に、いつも同じ桁の分だけ他の数字を足していて……」

「どこまでオレをバカにする気だァッ」


 戦闘中に別の光学魔法陣を出して他ごとに集中しだした少年にトロールは咆えた。しかしエタルはそれさえも無視して魔法陣の中で3.14という数字に他の小数二位の数字を当てて足し算を繰り返してくと、そのどこかでゾロ目になった数字を見つけて手を止めた。


「なんだ? 3.14が……11.1になった……?」


 慌てて計算を止めたエタルが、3.14を11.1に変化させた数字を魔法陣に求める。


「7.96……?」


 魔法陣の中で浮かんだ7.96という数字。そして11.1という意味不明な数字の意味。


「7も9も6も、3と1と4を足して10になる。なんだこれ? まさか273.15でも?」


 試しにエタルが273.15と同じ性質と思われる837.95を足して1111.1という数字に変化させる。


「1が羅列している……? この数字に何の意味があるんだ? でも……綺麗に揃ってる。この綺麗に揃った1に何の意味があるんだ? だって1っていう数字は……っ」


 そう言ったエタルは今も突撃してくるトロールを見た。このたったで、たったの人間であるエタルに何度も攻撃を加えてくる巨人の魔物。この巨体自分の位置が、世界の中で急激に


「変動する数……? もしかして変動する数字っていうのはっ」


 世界同時的に変動する数。それを見つけたエタルが上昇するが1として動いて成り立っている世界の真理に辿り着く。


絶対零度変数魔法ヱターナルフォースヴリザードッ!」


 思いついたエタルが唱えると握っていた剣に凍てつく冷気が帯びていった。




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