第18話 バーブノウンの本当の姿1
アーティカは1つ思い当たるものがあった。
彼女はマカルの情報はある程度持っている。
というのも、このムスターヒ村は少ないながらマカルとの交易も行っている。
そのため、マカルの情報も伝わってくるのだが、その時に聞いた話を思い出した。
それは、この村で暮らしているある男から聞いたものだ。
『あの都市には勇者パーティと言って、国が称え、『守り神』とも言われる存在がいるんだ』
『へぇ〜! その、勇者パーティっていうのは、どんな感じの人なの?』
『確か……ロレンスという人をリーダーとした5人パーティだったな。ただ噂なんだが、その中の1人は滅多に顔を出さないらしい』
『そうなの? なんでだろう……』
『さあね。俺の知り合いにも聞いたことがあるんだけど、全く知らないらしい。それにその人の顔も見たことない人がほとんどだからなぁ……』
(その人が、まさかバーブノウンくんだっただなんて……。でも、何で……)
行き着いた答えは、やはりフィーダと同じ疑問だった。
フィーダが言っていた通り、バーブノウンは最近まで自分の魔力について全く知らずに過ごしてきた。
しかし、この村を救ってくれた時はとてつもない魔法を見せてくれた。
そんな実力者の持ち主なのに、何故追放されることになったのか……。
全く理解できなかった。
「ロレンスパーティっていうのは、それくらいすごい人達が集まったパーティなの。とにかく、そこに所属していたバーブノウンくんは、すごい実力の持ち主ってことになるよ!」
「そう、だったんだ。知らなかった」
倒れているバーブノウンを見つけ、その後、彼から追放の話は聞いていた。
しかし、そこまで詳しくは説明されていないため、彼がそこまで有名な場所に所属していたのが驚きだった。
ただ、バーブノウンは幼い頃から病弱だと勘違いしたまま過ごし、ベットに寝たきりの生活だったと聞いている。
と考えると、彼の実力を見るのはなかなか難しいだろう。
(じゃあ、何でバーブノウンは勇者パーティに? 寝たきりだったら実力を知れる機会だってないはず……)
考えれば考えるだけ、さらに違和感と疑問が増えていく。
聞いてみたい気持ちはあるが、おそらくバーブノウンの中にトラウマが植え付けられているため、簡単に聞くことが出来ない。
もし安易に聞いたら、またあの時のように自分を責めるように、怯えるという事態に陥ってしまうだろう。
「バーブは……ずっと苦しかったんだね……。今になってやっと分かった気がする。ありがとうアーティカ」
「う、うん!」
「――――じゃあお話が一段落したところで、続きやりましょ!」
「「はーい!」」
婦人の声掛けで、2人は作業に戻った。
まだまだ慣れない手付きではあるものの、フィーダは婦人たちの家事を手伝いながら学ぶ。
食器の洗い方や家庭菜園、衣服の縫い付けなど、様々な仕事をすることに楽しさを覚えつつ合った。
(これを覚えて、バーブに見せてあげたら喜んでくれるかな? 褒めてくれるかな?)
そんな期待を込めながら。
そして、彼女の顔を見ると……ちょっとだけ頬を赤らめながら微笑んでいた
◇◇◇
それからフィーダは、婦人たちに教えられながら仕事をこなしていく。
彼女は覚えることに少しだけ時間を要してしまうが、その分他の人よりも丁寧、そして慎重だ。
婦人たちの目から見て、フィーダはゆっくり丁寧に教えてあげれば、上手に出来る子だと感じたのであった。
「――――あ、帰ってきたみたいだよ!」
アーティカの声で、婦人たちは一斉に村の入口の門を振り向く。
フィーダもそちらを見ると……狩りに出ていた男たちの姿があった。
手を振りながらこちらまで来る男たちに、婦人たちも手を振りながら駆け寄った。
「フィーダも一緒に行こう! この村の習慣で、狩りから帰ってきた人たちを歓迎するの。だからフィーダもバーブノウンくんのことを迎えてあげて!」
「――――?」
フィーダはアーティカに手を引かれ、一緒に婦人たちが集まっている場所へ向かった。
だんだん近づいてくると、男たちの中にバーブノウンの姿が見えた。
「ほら! バーブノウンくんのところに行っておいで!」
「――――!?」
アーティカに背中を押され、フィーダはバーブノウンの近くまで来た。
すると、バーブノウンは彼女の存在に気づき、手を振った。
フィーダも手を振り返しながら、恐る恐るバーブノウンに近づく。
「フィーダ! ただいま!」
「お、おかえりバーブ……」
「――――ど、どうしたの? 大丈夫?」
「――――な、何でもない……」
ぎこちない顔と話し方になってしまったフィーダに、バーブノウンは心配そうな表情を浮かべた。
思わずフィーダは視線をそらして誤魔化す。
「そ、そういえば……何を捕まえたの?」
「これだよ!」
バーブノウンは狩りで手に入れたものを指差した。
そこには、巨大な牛が横たわっている。
「これは――――もしかしてビックバカラ?」
「うん! 滅多にいないらしくて、すごいご馳走なんだって!」
「お〜、それは楽しみだねバーブ」
「うん、僕も楽しみだよ! それに今日の夜は宴だってさ!」
「また勝負しないと……!」
これからの酒の宴が楽しみなバーブノウンと、男たちと大食い競争を楽しみにしているフィーダ。
お互い楽しみにしている目的は違うものの、目の輝きは同じだった。
「おお、これはこれは……。久しぶりに見たのぉ」
「あ、村長! バーブノウンがまたやってくれました! ビックバカラですよ!」
「ふむっ、これを見たのはいつ以来か……。バーブノウンくん、お見事!」
「いやっ! これは僕だけじゃなくて他のみんなのおかげで……」
「何言ってるんだ? 俺たちは本気で死ぬかと思ったんだぞ!? だけど、お前のおかげで、こんなに大物を持ち帰ることが出来たんだ! まさに英雄だ!」
そう言うと、周りの人達もうんうんと頭を縦に振る。
この反応の通り、ビックバカラは野生の牛が突然変異で巨大化し、さらに凶暴化したものである。
ビックバカラが生まれる確率は5万頭に1頭とも言われるほど、滅多にお目にかかれない珍しい牛なのである。
巨大なのに俊敏性があり、尚且つ凶暴――――そんなものに遭遇したら、ほぼ命がないと思ったほうが良いと言われる生き物相手に、バーブノウンは勝利してしまったのだ。
ということは、英雄扱いになるのはごく自然なことであって……。
「まさに英雄だ、バーブノウンくん!」
「あはは……みんなありがとうございます」
男たちに背中を叩かれながら、もみくちゃにされるバーブノウン。
ただ巨大な牛を倒しただけなのに、こんなにも喜ばれるのは初めてだった。
(でも……こういうのも悪くない、かも)
そう思うだけで、自然と笑顔が溢れるのであった。
確実に、自分の実力を掴んで来たと感じ始めたバーブノウン。
それに気づいてくれたのは紛れもなく、今もみくちゃにされているバーブノウンを嬉しそうに見つめるフィーダだ。
(何度も言ったけど、本当に……本当にありがとうフィーダ。君のおかげだよ)
心の中で、何度も感謝の言葉を伝えたバーブノウンだった。
「よし、今日は皆で宴会じゃな! 久しぶりにわしも気分が上がっとるわい!」
「村長! となれば、早速支度しようぜ!」
「「「「わああああああ!」」」」
村中に歓声が響き渡った。
そして、村人たちは一斉に散り散りになり、それぞれの仕事に取り掛かった。
そのせいで、バーブノウンとフィーダは取り残されてしまった。
思わず、2人は顔を合わせた。
「――――みんなさっさと行っちゃったね。じゃあ、僕らもみんなの仕事を手伝おう!」
「ん! じゃあバーブ、わたしは多分料理とかすると思うから、練習してきた成果見て欲しい!」
「フィーダが料理するの!? ちょっと新鮮かも……」
「うん、だからバーブも見て欲しい。わたしがちゃんと家事とかしてるとこ」
「――――! うん! 僕もフィーダが料理してるところ見てみたい!」
「ん、じゃあ早速行こう」
「おー!」
バーブノウンが拳を天に上げたところで、2人は早速婦人たちが仕事をしている場所まで向かうことにした。
バーブノウンに、自分の練習の成果をやっと彼に見せられる事が出来たフィーダ。
彼女は、頬を少しだけ赤くして、そして嬉しそうな顔をしていた。
追放者の冒険 うまチャン @issu18
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