【蒼いクローバー】

たから聖

第1話

 麻未は変わらない日常を過ごしていた。


~その日までは~


麻未は深夜にうなされていた。

『わたし…わたしの足!』

カバっ!と飛び起きると、微動だにしない足が固まっていた。麻未は小学6年生の夏…交通事故に巻き添えになり…両足の自由がきかなくなっていたのだ。

それからの麻未の荒れようというと、母親や父親…さらには2つ下の弟にまで食事の用意を投げつけては八つ当たりしていた。当然、麻未は中学校にも行きたがらなかった。

なぜなら小学校時代の友達に気を使われ…気の毒な視線を送られること事態…麻未の神経を逆撫でしていたのだから。


学校の友人達は麻未の家にたまに顔を出しに来ていた。その友達の中に…一番の親友、梨夏の姿も毎回あったのだ。梨夏は麻未に対して…今までと変わらず優しく接していた。宿題の解らないところがあると、わざわざ麻未の家まで訪問しては…麻未の教え方に梨夏は感心していた。


ある暑い夏の日、梨夏は麻未にそれとなく…『ね?麻未…?私と夏祭り行かない?』と思いきって誘ってみた。きっとダメだろうな?と梨夏は思っていたのだが、返事は意外にもOKだった。


梨夏は麻未の返事に驚いた。思わず


『え!いいの?ホントにホント?やったー!』と梨夏はまるで自分の事の様に喜んでいた。


じゃあ!浴衣着ようよ!という梨夏の提案に『べ…別にいいけど…』と麻未は賛成した。意外と素直な麻未に梨夏は少し拍子抜けしていた。麻未はなぜ梨夏に素直な姿を見せたのか?もちろん梨夏を信じていたのもあるが…ある日梨夏が、何気にポツリと話した本心に…麻未は未来が明るく感じていたのだった。その言葉とは?


『あ~勉強無理~。麻未はホントに教え方上手ね?麻未が先生だったらいいのになっ。』と宿題を教えていた時に、梨夏が何気なく放った一言で………

麻未は少しだけ自信がついて、性格が明るくなってきたのだ。

夏祭りの日、浴衣に着替えた2人とさらに友人3人を誘ってみた。皆が麻未の変わり様に驚いていた。梨夏の信じる力…また諦めない心に友人達は感激していた。友人3人はよく話していた。

『あの2人…いいよねぇ?きっと前世でも縁があった!って位、仲良しだよね?』

『うんうん!分かる~。』あはは!3人の話は盛り上がっていた。


そんな時…麻未の弟が、羨ましがって入り口のドアから覗いては落ち着かない様子だった。梨夏はこの際だから、

『晃くんも…行く?』と誘ってみた。麻未の弟は


『だって、お姉ちゃんの友達だもん。僕…』

晃が悩んでいると…麻未は

『晃?お姉ちゃんが悪かった。もう大丈夫だから。』

晃は少し驚いた。麻未の態度が交通事故の当初と違うのが…明らかに分かる程であったから。晃は梨夏に目をやった。

梨夏はニコニコしていた。晃は嬉しくなって父親と母親にこういった。『お母さ~ん!お父さーん!お姉ちゃん達が夏祭り行かない?だって!僕…行きたい!』

家庭の中がほんのりと氷が溶けていく様な感じだった。そのきっかけは梨夏の存在だった。


友人3人と…梨夏に麻未…そして、麻未の弟と全員合わせて6人で夏祭りへ出掛けていった。麻未は久し振りの外出に友人らと話が盛り上がり、笑いころげていた。車椅子は弟の晃と梨夏が、一緒に押していた。車椅子でいる事が少しだけ引っ掛かったのだが、梨夏がいるから。余り気にしない様にした。夏祭り会場に着くと友人らは歓声をあげていた。

『ねー?これすごいよ』『わぁ!面白そう!』口々に…ああでもない、こうでもない…と話が盛り上がっていた。

晃はヨーヨー釣りがしたいと…梨夏に甘えた。麻未は晃に200円渡した。麻未はリンゴ飴を500円で買い大事に持っていた。


夏祭りの想い出として…梨夏はヨーヨー釣りに真剣になる晃を見て…

『晃くん!そうそう!その調子!』

晃はヨーヨーが取れそうで取れなかった。その時見知らぬ男性が晃のヨーヨー釣りを手伝いにきた。

『よし!取れた。やるじゃんか!』

晃は手伝ってくれた人にお礼を言おうと振り向いた。

『あ!克也兄ちゃん!』麻未の幼なじみの克也だった。

克也は学校1モテる男なのだが…麻未にとっては…そのモテぶりが少し寂しく感じていた。梨夏と克也は初対面だった。


克也は梨夏の浴衣姿を見るなり

『お!みんなお揃いで…麻未…良かったな?』と麻未の頭をくしゃっとした後、梨夏にお礼をいった。『ありがとう。』克也はなんとなく照れくさそうにしていた。麻未の友人3人と梨夏…晃、そして克也のグループで夏祭りをめぐろうぜ!と話になっていった。


麻未は克也と一緒に時間を過ごせれるのが嬉しかった。だが…梨夏は違っていた。

『うん…麻未がいいなら。』とみんなで夏祭りをめぐり始めた。麻未は気が付かなかったのだ…


梨夏と克也は…そのヨーヨー釣りの時から、お互いが気になる存在になっていた。しばらくして麻未が梨夏の方に目を向けると…梨夏がなぜか頬を赤らめて…うつむいていた。麻未の知らない内に、梨夏と克也は車椅子の後で手をつないでいた。


梨夏は克也の事が日増しに気になる存在になっていった。 克也は克也で梨夏の為に放課後時間を見付けては…ゲームセンターに行って、プリクラをしたり……カラオケを楽しんで毎日が2人にとって、幸せだった。


梨夏がある時…克也に疑問を投げ掛けてきた。『ねぇ?麻未とどんな関係なの?』不安げな表情をする梨夏に、克也は…つないでいた手を強く握り返した。克也にとっては麻未は…ただの幼なじみだと。

『俺は…梨夏が好きだ。だから…』梨夏は梨夏で克也に告白されて、とても幸せを感じていた。

2人は木の影で、寄り添って座っていた。梨夏が克也の肩に頭を寄せた。克也は梨夏の頭を優しく撫でていた。こうして…梨夏と克也は付き合う様になり…2人の関係はあっという間に、友人達の間で噂になった。


梨夏と克也はお似合いで並んで歩いていても…美男美女カップルとして友人達に祝福されていた。そんなある日の事…梨夏が克也とのデートで忙しく…麻未の家に近頃出向いてなかったので、2人で麻未に報告しようよ?


と仲良く並んで歩いていた。と…麻未の家まで数10メートルという所に差し掛かった時…ふいに2人は視線を感じた。


梨夏が振り向くと…そこには麻未が車椅子で買い物から帰ってきた所だった。麻未は2人の様子を見るなり固まってしまった。麻未は…克也を取られた。と瞬時に思った。


それにしても梨夏の変わり様とはなかった。

無垢で色気も、少しだけ手伝って前よりさらに可愛くなり…あか抜けていた。克也は麻未に声をかけた。

『よ!麻未…元気か?』克也にそういわれ…麻未は車椅子の方向を急いで変え始めた。梨夏が驚いて麻未を呼び止めると…『麻未…私達!付き合ってるの!黙っててゴメン!』

ストレートに梨夏は麻未に謝り走って麻未を追いかけた。

『麻未!待って!ねぇ?どうしたの!』梨夏がやっと追い付くと息を切らしていた。梨夏が麻未の肩に手を置くと…麻未は振り払った。麻未は情けなかった。車椅子にボロい部屋着、そして買い物袋………


『はなして!梨夏のバカ!』

そうして…麻未は2人が気を使うのが…余計に腹が立ってさらに麻未は続けた。

『梨夏なんて!親友じゃない!』そう言い残し…車椅子は速度をあげ麻未の知らないうちに、いつの間にか坂の上に車椅子がきていた。麻未は…『私の知らないうちに…2人は…2人は。』


悲しくなり車椅子を前も見ずに坂を急スピードで下り始めた。その時…梨夏の目には、坂を下った所に踏み切りがあるのを見ていた。克也は2人が揉み合いになっているのを止めに入ろうとした。麻未が買い物の荷物を梨夏に投げつけていた。『梨夏なんて大キライ!』


梨夏が、あ!と思った瞬間………麻未の車椅子は坂を転げ落ち踏み切りに落ちてしまった。


梨夏は、とっさの判断で『麻未!麻未が危ない!』

梨夏は自分が何をしているか分からなかった。踏み切りに車椅子が挟まり車椅子から、落ちた麻未を梨夏が抱き上げ様と思い切り、力を出していた。


『麻未!麻未!頑張って!後少し!』麻未が列車の姿を見るなり、急に現実に戻り、顔から血の気が引いていた。


『嫌ーーーーっ!』


克也が梨夏と麻未、2人を助けようと踏み切りに入ってきた。克也は2人を助けようと必死だった。

『カンカンカンカン…』梨夏は最後の力を振り絞って麻未を線路の外へ出し…克也を突き飛ばした!


『りか!?りかぁーーっ!』

克也は叫んでいた。周りに人だかりが出来ると…克也と麻未はショックが大きすぎて、動けなかった。克也は麻未の肩を抱いて

『麻未!麻未大丈夫か!』克也は動揺していた。


『梨夏は?ねぇ梨夏?』


2人は走馬灯の様に今、起きた出来事を呆然と思い返していた。警察に事情を聞かれても、克也と麻未は現実と空想の合間にいた。


ただ…そこには…シートに被われた梨夏のボロボロの遺体が横たわっていた。


梨夏が抱き上げ様としてくれなかったら?麻未は自分の存在の小ささに嗚咽を吐きながら涙を流していた。


『梨夏…ゴメン、』

克也は短い間だったが…、とても幸せだった。。話し出すと哀しみが溢れ自分を見失いそうで怖かったから…。克也は押し黙って記憶に蓋をしようとしていた……。



【事故から1ヶ月後】

梨夏の事故現場には…数々の花束が手向けられていた。お供え物をおきに行く為に…麻未は時間がかかっても、杖をついては毎日毎日、梨夏の好きなCDやキャラメルカフェオレ……。

花束は克也が持ってきていた。克也と麻未は梨夏にいつもお礼を伝えていた。

『梨夏…悲しいけど、前を向かなきゃな?俺達。』


梨夏は17歳でこの世を去った……梨夏の両親は2人に会うたび…

『自分をどうか責めないで、梨夏の為に…梨夏は今でもあなた達の親友よ』

梨夏の両親は…いつしか、他府県へと越していった。やはり2人を見ていると辛いのであろう…と…克也と麻未は大人になるにつれ自覚していった。


それから3年後、麻未は国家試験を受け田舎町の教員になっていた。克也は海外へ生活の拠点をおき…梨夏の為にお揃いの指輪を買い…梨夏の写真の前に片方の指輪を置いていた。


克也は生涯…梨夏しか、愛せないと思っていたのだが…出張先のニューヨークで運命的な出逢いをして籍を入れたのであった。克也の妻…は梨夏の勇気に感謝をし…毎日毎日祈りを捧げていた。


麻未と克也そして克也の妻…いつも梨夏の存在に感謝をしながら、麻未はたまに克也に…お呼ばれになり、ニューヨークでクリスマスパーティーをしていた。


克也の想い出になりつつある梨夏は………


麻未の部屋の中の……机の上に…500円で買ったリンゴ飴と小さなクローバーが、


その存在を大切そうに飾ってあったのだ。


写真たてには…。

夏祭りの全員集合の一枚の写真があり…梨夏と

麻未のブイサインで……2人揃って…溢れんばかりの笑顔を


とらえていた。

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