Idol
西牧瀬
視点
7:15分小林倫起床。
「おはよう母さん。今日の朝ごはんは何?」
パジャマ姿の倫はぼさぼさ髪の様子でそういった。
「おはよう倫。今日はベーコンエッグトーストですよ。」
たわいもない朝の会話。朝はご飯はなのだが、とも思いつつ机の上のトーストに手をかける。昨晩読んだ小説、あれはいまいちだったなどともの思いふける。僕はそんな頭の中でしかできない自由が僕は好きだ。
途端にテレビがついた。僕の自由な朝を無に帰すような落ち着いた暗い声がテレビから流れだす。
「約1.2億人の日本の皆さんおはようございます。Idolです。今日も一日よく働きよく食べよく動き、幸せな生涯の糧にしましょう。ですが悪いことはいけません。神は見ています。」
何が神は見ているだ、なんて倫は思うが言葉には出さない。言葉に出したときに私たちがどうなるか、私たちは知っている。
私たちは物理的に監視されている。右斜めから赤く点滅したランプと共にカメラがのぞき込んでいる。我が家だけが特殊な例ではない。どこの家にもついているし、なんなら電柱にもついてるし、薄暗い路地裏だって監視の対象である。
Idolの放送が終わると先ほどまで流れていた朝のニュースの続きが流れ出した。
「昨晩未明、治安警察により60代の男が現行犯で逮捕されました。」
いつからか、テレビで逮捕事件の詳細が語られることはなくなった。誰がなんの罪で捕まったかは明らかにされない。みんな最初は気にしていたがその興味も歳月とともに薄れていった。
19XX年9月我々日本国は戦争に負け敗戦国となった。そして戦争による反省から日本は平和路線へと切り出した。
日本の知識人は戦前はもれなくみんな兵器研究に充てられたのだが、戦後はそれらの優秀な人材を様々な分野に分散させた。そのおかげで日本は世界でのGDPも著しく、高度成長を果たし晴れて先進国の仲間入りとして世界に名をとどろかせた。
Idol 西牧瀬 @Soshy55
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