第5話 おやすみなさい。

〔後は消すだけですね〕

神様の声がした。

「…はい。そうですね…」



〔良いんですね?〕

「はい…」


〔後悔は出来ませんよ?〕

「はい」





本当はかれんから気持ちが移りそうになった夏輝も、

学校なんか行かなくていい、と背中を押した麗奈も、

かれんの望んだ、特別な餞別だった。





高校生活で、疲れ切ったかれんが夢ではない夢を見た。



〔あなたには二つの選択肢があります。一つ。只このまま自殺してあらゆる人を傷つけたまま死んでゆくか…。それとも、一時いっときの天使となり、風間夏輝と野中麗奈を諭し、二人を絶望の淵から救ってから死ぬか、どちらかを選ぶ権利をあなたに差し上げます〕



「え?」



〔もう、あなたは死にました。記憶をごらんなさい。これがあなたの最後です。〕

「!」

(そっか…。私、自殺したんだ。高校生活が苦しくなって、いろんな事がどんどんプレッシャーになって…)

一時いっときの天使となり、二人の傷みを癒し、前へ進めるように会いに行きますか?〕




「…行きます。私、二人にある弱さと優しさが好きだったから。夏輝はこのままじゃ、蓮井さんに向かえない。麗奈は、私の感じた事のある何にも勝る傷みがある。私は、人の事なんて考えられなくて、前日まで笑ってたけど、朝には、ロープ、首にかけてたわ…」




〔ですが、条件、覚えてますよね?〕

「…はい」

〔あなたは、もう死んでます。そのあなたが、生きている者と接するに対して、あなたの記憶は世界一人残さず消去されます。それで、良いんですね?〕







一か月が経ち、夏輝は蓮井に告白して、OKをもらった。

夏輝の愛でる瞳はかれんの涙を誘った。


いつか、あぁいう目で私の事を見てくれてたなぁ…と。



麗奈は、通信へ行ってから、一週間に一度登校すればいいので、家で好きな事をしながら、辞めた高校はかなりの進学校だった為、授業も、テストも簡単だった。

友達も一人だけ出来た。それで十分だった。



良かった…頑張ってね、二人とも…。



こうして、一時いっときの天使でいられただけのかれんだったが、後悔はなかった。




普通なら自分の死だけが餌になったようなこの出来事に、悲しみや、憤り、悔しさが入り混じるだろう。

しかし、かれんは違った。

自分が死んで助かる誰かが居るのなら、この苦しい想いから連れ出してくれるのなら、自分の記憶などどうでもいい。




私は、また生まれ変わるまで、もう少しだけ、





休みたい。

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あなたはあなたの幸せを見つめて。あなたはそんな場所に縛られないで。幸せになってね。 @m-amiya

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