第165話 負の思考遺産
異常気象、中でも水害は中酷に甚大な被害を齎していた。一体一道政策を成功させるため債務の罠に落とし込めようと多額の融資を行う大盤振る舞いはあっても、自国のインフラには勿体なくて一元も使いたくない秀欣平は、自国の被害など眼中になかった。農業、漁業など都市戸籍を持つ者にとっては、中酷産などに金を出して毒を喰らう程にしか考えていない。言い換えれば、中酷産などを食卓に並べるのは強酸党の中の底辺としか捉えていない。只でさへ食糧難の中酷に災害被害が加わり、人民の胃袋を満たせない。秀欣平にとってそんなことにはまったく興味がない。劣等人民など社会保障を貪る害虫としか考えていなかった。灯の消えた国内の情勢責任を負わされた秀欣平には台湾統一しか道はなかった。海産物の輸入禁止を台湾に仕掛ける。不足分を禁止していた日本の海産物で補う。恥も外聞もない。あれ程、日本の海産物は危ないと人民に危険視させておいて…。
琳 鄭「日本の海産物を悪者にした印象をどう払拭させるのですか」
秀欣平「強酸党が許した物だぞ。食い意地の張った人民には関係なかろう」
琳 鄭「補助金でも当てますか」
秀欣平「それは無理だ。漁業関係者の怒りを買う。奴らには危険を冒しても世界各国
の漁場を荒らしてもらわなければならないからな」
琳 鄭「売れるでしょうか」
秀欣平「そんなのはどうでもいい。強酸党が人民のために用意した事実だけでいい」
琳 鄭「手は打った、後は勝手にしろ、ですか」
秀欣平「言い難いことをあっさり言う奴だな」
琳 鄭「失礼しました」
そこへ電話が入った。琳鄭が内容を聞くが表情が浮かなかった。
秀欣平「どうした」
琳 鄭「深圳で日本人学校に通う生徒が襲われました。犯人は中酷人です」
秀欣平「愚かな…」
琳 鄭「日本人学校へのヘイトを放置した結果ですかね。六月に起きた同様の事件は
数ある事件のひとつだと思われましたが、根が深そうですね」
秀欣平「ああ、直ちに日本学校へのヘイト投稿を削除しろ。この国には神や仏はいな
いのか。自然災害で人民の多くの命を奪うのはいいが、こういう奴らを一網
打尽にしてもらいたいものだ」
琳 鄭「亡くなっているのは田舎ですからね。厄介な奴らはそこにはいません」
秀欣平「泣きっ面に蜂か。この事件は世界にも知られただろうな。離れた外資を呼び
戻さなければならな大事な時期に邪魔ばかりされるな」
琳 鄭「主席の前ですが、これが我が人民の民度ですよ。馬鹿は馬鹿なりに大人しく
してくれればいいのですが、騒がずにはいられないんでしょうね」
秀欣平「その馬鹿さ加減が、強酸党に向けられるのが一番厄介だ」
琳 鄭「南京事件ですか。当時の政府の気持ちが分かりますよ」
秀欣平「そうだな。不都合な情報を流す者を密かに粛清するか」
琳 鄭「冗談ではなく、そうなされるのが良いのかと思われます」
秀欣平「そうか、そう思うか。考えておこう」
日本人学校を閉鎖された日本人によるスパイ活動拠点という偽情報を、本国の学校と比べられ劣っている点を問題視されるのを嫌って放置した結果、愚かな人民の嫉妬心に火を点ける結果となり、秀欣平の焦りは隠せないでいた。中酷国内では、今回の事件を受けて、禁止していた日本の水産物の輸入を認めた、日本に屈したと観る中酷人が少なからず出てきた。秀欣平にとってこの事件の対処方法によっては、強酸党批判へと発展しないように細心の注意を払いつつ向き合うしかなかった。
秀欣平の怒りからくる考えは、真相を闇に葬るため、犯人を獄中死させることだった。
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