第153話 独裁者を導く「推背図」

 中酷には的中率百%と謳われる最強の預言書がある。推背図すいはいずだ。千三百年以上前の唐代に書かれた本書は、中酷歴代王朝の支配者が読んだ際、あまりに的中率が高い予言書として、宋代の太祖は禁書にしてしまうほどのものだ。勿論、解釈の仕方で如何様にも読めるが、相談できる相手がなく、過去の出来事を見事にまで予言している思われる記述がみられる以上、陶酔し、妄信し始めた者にとっては逆らえない厳格な神の手引書となる。これに妄信しているのが中酷の国家主席・秀欣平だ。妄信するが余り、秀欣平は最近、表舞台に姿を見せないか、見せてもその警護は度が過ぎる程、厳重なものとなっている。

 国の代表として国際舞台での存在感を示すG20をも欠席する有様。国際的影響も顧みず雲隠れしているのは推背図の影響であると噂されている。秀欣平は歴代王朝の支配者が歩んだ道を信じ、任期中の自らの死を極端に恐れている。その一例が、秀欣平自らが立ち上げたロケット軍の度重なる幹部の粛清だ。ロケット軍は、通常の陸・海・空の軍団に加え、ロケット兵器やミサイルなどの大陸間弾道弾を扱う軍団だ。粛清に関して表上は、汚職や秘密漏洩、クーデターの疑いが原因とされているが、実は推背図の預言を秀欣平が恐れての事だとされている。

 予言には、弓矢を引いている人々の絵があり、それが王を殺す、と書かれている。その書かれた弓がロケット軍を指していると秀欣平は考え、粛清を行ったと噂されている。妄信した者には、現実が虚偽・歪んで見える。書物は自身が読み、理解するもの。理解の行程で影響するのは、経験が生み出す危機管理の対応・回避のトリガーとなる猜疑心だ。

 推背図の第四十六象にこんな記述がある。「弓を持った軍勢がいて、ちんは白頭の男だ。東の門に金の剣を隠し、勇士は裏口から皇居に入る」。これを秀欣平はロケット軍が自分を襲うと解釈した。また、「鉄板図」には、二つの山の谷間の上を黒い鳥が四羽飛んでいき、一羽の白い鳥が右の山の中腹で矢に射られて落ちて死んでしまい、血が岸壁に飛び散ると記されている。

(習近平の習の字は、羽と白から成り立っている。黒い鳥、四羽は毛沢東・鄧小平・

 江沢民・胡錦涛を表していると習近平は考えた説)。

 秀欣平は予言を恐れ、ロケット軍を粛清し、自らは隠れた。ロケット軍には精密誘導ミサイル、9k37とHQ-16がある。旅団長の一声で居場所を空爆して、暗殺することを恐れての行いだ。秀欣平は猛沢蕩を敬愛している。その猛沢蕩が予言を信じていたのも大きく影響している。2015年、秀欣平が台湾の馬英久総統と会談した際、「二羽四脚」で歓迎されたと報じられた。これは第四十四象~四十八象に記されている聖人が現れ、兵が戦う気を失くすというものだ、聖人は秀欣平を指し、兵は台湾や日本であり、その兵が聖人の偉大さに平伏ことを意味する。更に一国二制度が堅持され、台湾は中酷のものと知らしめられ中酷が、世界的リーダー国家になると秀欣平は読み解いていた。既にこの時点で予言が現実とは異なっていることに気づけば傷口を広げずに済んだろう。

 秀欣平は「龍脈」に触れていると違法建築を理由に秦嶺山脈の別荘街を全て撤去させたり、他の地域の洪水を放置して多数の被害者を出してまで、龍脈の尾である雄安新区を守ったりと国内外で孤立するほど予言を重視する行動が目立ち始めていた。被害を受けたのはロケット軍だ。三人の司令官、二人の副司令官、政治委員、軍師団級の幹部も失脚させられ、退役した軍副司令官は亡くなっている。

 予言に盲目になったの奇妙な行動は預言書の内容を受け、災難を回避するためだ。ただここまで粛清されてはロケット軍は機能不全になっている。BRICS首脳会議出席した際、家具を一式持参し、ホテルのスイートルームを一ヶ月を掛け、自分用に改造する奇行も暗殺を気にしているものだ。

 予言書を信じる秀欣平は、外国訪問や自ら会議を催す回数が減っている。秀欣平は就任以来クーデターや暗殺を恐れている。死と権力の喪失を恐れ、奇妙で常軌を逸した行動を取る可能性が高く、中酷経済と人民の生活を破壊し、海外訪問を避け、攻撃的な策を続け、国際的に孤立し、対外貿易が困難になり、外交を氷河期へと向かわせている。

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