第152話 クーデター抑止のロックダウン。

 経営再生中の中酷大手不動産会社・広大集団に清算命令が下された日、香港特別行政区が中酷の軍門に下った日でもある。これによって香港は独自の民事・商事に関する判決が出せなくなり、今回のように中酷に不利に働く判決が下せなくなった。秀欣平政権への最期の抵抗だったかもしれない。 広大集団が本拠地を置くのは秀欣平が甲拓民の推奨した上海に変わる中酷のシリコンバレーにしようと推奨してきた広東州深圳市だった。深圳には国が大胆に食い込んだ民間企業が半ば強引に集結させられていた。その広大集団を追い詰めたことは、秀欣平の顔に泥を被せたのと同じであり、求心力の低下を浮き彫りにしたものだった。秀欣平の反逆を示す唐翔平・李哭凶路線が香港の高等法院のバックに見え隠れする。権力争いの臭いが漂う。秀欣平が急がせた中酷の威光を組んだ香港の採決は、中酷に於いても相互承認・執行するという意志を逆手に取ったような出来事だった。罰せず有耶無耶に時間を費やし、問題を先送りしたい秀欣平の首を絞める判決だということだ。

 香港高等法院が清算命令を下したのは広大集団だけではない。隻敬園も同じ穴の狢だ。中酷の不動産会社は資金繰りに苦しみ、海外に保有する不動産の売却を急いでいる。

 出身国を聞かれると上海人と答える程、プライドの高い地区・上海が急激に衰退している。上海成り立ち時に住民の多くが多額の立退料を手にし、成金が多く誕生し、金に群がる者がビジネスチャンスと群がり、水運に恵まれた地理的優位性もあり、船舶の建造・修理の中心地となり造船業に端を発し、その関連企業が発展し中酷最大の工業基地となり、海外投資も積極的に受け入れた。その結果、高層ビル、高級住宅、証券取引所、国際会議施設などが建設され、国際都市となっていった。

 感染症によるロックダウンの裏で繰り広げられていたクーデター計画。秀欣平による上海のロックダウンは、厳格さが強調されていた。この情報は、日米の情報局が掴んでいた。中酷の顔である上海をロックダウンした際、中酷全土から医療関係者を上海に集結させた。その中に武装警察や人民解放軍を紛れ込ませて。加えて、夥しい数の装甲車や戦車、銃を持った兵士まで動員された厳戒体制が取られていた。

 前年、上海閥の元公安省次官・崔喧が規律違反と違法行為で首になっていた。その後、公安のドンと呼ばれていた僊政華せんせいか前司法相が失脚させられた。僊政華前司法相は上海閥を裏切った振りをし、秀欣平に近づいていた。拘束された崔喧・僊政華は、拷問と激しい取り調べから秀欣平を亡き者にする計画とクーデーター計画を吐露させられた。これにより、関わったメンバーの名前を手に入れた当局は、ロックダウンを利用して上海派閥の粛清に掛かった。必要以上にロックダウンを厳格化し、幾度もPCR検査を行い、疑わしい者を陽性とし隔離・処分していった。

 上海閥は政府が上海市に送った食料を輸送中に破棄させ、上海市民を飢餓へと追い込み、反政府への反乱を誘発させようとしていた。秀欣平の思惑は期待道理の結果を齎した半面、海外企業からは出口の見えないロックダウンや政策に愛想を付かされ、中酷離れを加速させた。外資にさせられていた製造業は一気に衰退の道を転げ落ちた。成金たちは街に溢れる農民工のホームレスを無視し、資産保持に躍起になっていた。

 常に命を狙われていると言う魑魅魍魎に憑りつかれた秀欣平は、自分だけの利権を守って、敵対する勢力の力を削ぐことに勤しみ、国全体の事など自分が政権を確固とたるものにした後、財力・資源力・魅力的なマーケットがあればどうにでもなると考えていた。その思惑が大きく外れた。敵対勢力の利権を奪うために不動産融資を引き締め、人民の資産を大きく目減りさせた。そこへ米国が中心となり欧州諸国に広がる中酷リスクからの回避が各国自国国民の不満の捌け口として勢いを増していった。

 この構図は、露西亜・北朝鮮の愚行を中酷と重ね合わせ見る方向性が確立し、民主主義対共産主義の構図が着々と顕在化していった。

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