第150話 雪隠詰めの中酷

 中酷国内で米国が派遣した大学の講師4人が刺された。命に別状はなかったのは不幸中の幸いだ。米国は被害者の様態を見ながら米大使館と連携し、中酷からの脱出を手配している。4人は中酷への外国人観光客や企業進出が激減したことに焦った政府が打開策の一環として積極的に招い入れたものだった。この事件の詳細は一切出て来ないばかりか検索さへ出来ない状態に陥っている。それでけ事件が意味する重要性が伺える。

 中酷社会の一部は、国家主義感情と被害者意識に晒されてきた。缶酷も日本を敵視、幼いころから反日教育にどぶ付けされ、無意識に日本と聞けば苛立ち、悪態をつくことは珍しくない。ただ、中酷との違いは、SNSの規制が中酷程厳しくなく、訪日する旅行者も少なくなく、政府の仕掛けるプロパガンダに疑問を募らせる若者が多い事だ。ただ、目上を以上に尊ぶ儒教の教えから中高齢者の目を気にして発言できないのは悲しいことだ。

 SNSの厳しい中酷では、世界で最も優秀な民族である。その中酷は世界が羨み、妬むと言うプロパガンダが侵透している。その結果、直接被害を受けていなくても、自分たちが苦しい状況に陥っているのは政府のせいでなく、政府の動きを邪魔をする外国が悪いと言う考えが育っている。極度な外国人排斥に向かわせる危険な思想の傾向は、中酷国内の経済的不安定により拡張されている。

 中酷人民は、中酷政府の失態の責任を全て海外軍の責任し、海外軍は我が国を滅ぼすことを決意していると毎日のように垂れ流している。嘘もつき続ければ本当になる。人民はネガティブな出来事は外国勢力のせいだと考えている。これは、強酸党の公式メディアの国内の対立から目を逸らさせ、西側脅威論を意図的に流しているのが大きな要因であり、海外勢力に誤解と恐怖を植え付け、極端な国家主義感情が高まる土壌を作り上げている。

 中酷には義和団事件がある。キリスト教の進出に反感をもった民衆は,宗教結社しの義和団に入って鉄道や教会を襲った。運動は山東省しゃんとんから北京に及び、外国公使館を包囲し、各国に宣戦を布告。日本とロシアを中心にイギリス・アメリカ合衆国・フランス・ドイツ・イタリア・オーストリアの8か国は連合軍を送って北京を占領し,当時の政府・朝を屈伏させて,巨額の賠償金や外国軍隊の駐屯権をとり、中酷の半植民地化を進めた。この出来事は北信事変とも呼ばれている。

 外貨が今すぐにでも欲しい中酷にとって、強酸党の指示には都合のいい外国人排斥も今となっては高みの見物とは行かなくなっている。米国人が公園で暴漢に襲われた事件は、瞬く間に世界に広まり、中酷が発令したビジネス環境にも大きな影響を与えた反スパイ法と相まって、訪中の危険性を高めた。

 中酷は、思わぬところから米国に世界も共感できる中酷へ喧嘩を売る要件を与えてしまった。犠牲者の中には米国下院議員の身内も含まれており、米国議員の過激な反発も予想される。中酷は内々に米国に連絡を取り、適切な対応を面子を度返しでも願い出る工作に必死な思いで勤しんでいた。

 中酷の各国への挑発行為は、威嚇だけではなく、戦争の切っ掛けを相手のせいにするためのもの。成長著しい時は、イケイケゴーゴーだったが、兵や公務員に給与が払えない状態で軍や政府機関の士気が下がっている今では戦えるわけもなく、戦えば必ず強酸党の崩壊・消滅、外国による植民地化も視野に入るのは避けられないでいた。

 悪運の尽きたように惨事が強酸党に襲い掛かる。台湾有事が世界の注目を浴びる中、中酷の高速船が台湾防衛を突破し、台北の淡水河河口に侵入する事件が起き、中酷人が逮捕された。逮捕された男は、元中酷軍の少佐であり、台湾の防衛ラインの弱点を探るために派遣されたスパイではないかと疑われている。男は強酸党批判をしたため、迫害を恐れ、台湾に亡命してきた言う。亡命先が台湾であることは、内部情報提供の見返りを含んでのものか。しかし、知られたくない台湾の防衛ラインの弱点を明かす行為は当事者の必死の思いか。もし、そうだとすれば、国に残された家族や関連の者への処罰は北朝鮮に引けを取らない。そのリスクを冒すには、あまりにも白日の下に晒される大胆な行為だ。

 これには中酷政府も焦った。公園での暴漢事件が解決しない中、起きたこの事件に中酷は顔面蒼白状態となった。本人の意思は兎も角、台湾側は、戦争を仕掛けられてきているという意識が高まったのは確かだ。

 戦浪外交で高飛車の発言は鳴りを潜め、今回の出来事は個人の行動で台湾は冷静に判断して欲しいと低姿勢だった。ただ、いつもの中酷。冷静に対応しなければ輸入品の関税を大幅に引き上げるとの恫喝は定石だった。

 しかし、台湾側では防衛ラインを突破された重大な事案とされ、関係者は懲戒処分にされている。台湾政府は、この事件を台湾有事の危険性をより濃くするものに利用し、中酷との融和運動に歯止めを掛けることを忘れないでいた。

 米インド太平洋軍司令官は、中酷の十八番の戦浪外交ばりに、中酷が台湾に侵攻すれば、数千の無人兵器を台湾海峡に展開し、地獄絵図を作り時間を稼ぎ、米軍本体を投入してやると豪語した。バイト大統領も常々、状況により米国の軍事力を使うことは排除しない、述べているように単なる戦浪外交ではないは確かだ。

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