第133話 韓流に北朝鮮が興奮

 缶酷に対し、北朝鮮の金鄭云総書記が「最も有害な第一の敵対国家で有事にはその領土を占領すると決定したことは極めて妥当な処置だ」と強調したのには独裁政権を揺るがす理由があった。金鄭云が国民に神と崇められている父・祖父が作った南北統一のモニュメントを破壊。国民に動揺が走った。そこには缶酷の工作員と脱北者が大きく関係していた。彼らは缶酷の良さをあらゆる方法を用いて流布している。北朝鮮での結婚相手は安定した収入が得られる兵士だ。それが今は、脱北者から仕送りを受ける関係者が第一候補となっている。これは同時に缶酷への憧れが増大し、北朝鮮こそ缶酷に吸収されるべきだと思う国民が思うようになり、仕送りを受ける関係者は北朝鮮では裕福な生活者となり、北朝鮮より缶酷が素晴らしい場所だと言う認識が広がった。これに激怒した金鄭云は、融和路線ではなく如実に敵として缶酷を位置づけ、国民の目を覚まさせるしかなかった。

 国民が缶酷の良さを知った以上それを強制的に否定するわけにはいかなかった。そこで国民が憧れるなら缶酷を支配下に置けばいいと考え、GPSを装備した戦術核弾頭の搭載を想定した巡航ミサイルの開発に力を注いでいる。射程距離が100kmに到達すれば、北朝鮮は缶酷の標的をピンポイントで攻撃できてしまう。対応するには距離が短く防御は困難でしかない。当然、日本も例外ではない。それだけ地球上最も速いレールガンの性能・配備の向上が急がれる。

 金鄭云は敢えて今、北南関係は、同族関係、同質関係ではない敵対的な両国関係、戦争中にある両交戦関係だと強調し、缶酷を交戦中の敵国家と位置づけて見せた。

破壊したモニュメントには金鄭云の祖父の直筆の言葉が刻まれた物も含まれていた。これには平壌市民も指導者が平常心を失ったのではないかと驚きを隠せないでいた。

 脱北者活動家や情報機関関係者たちは、缶酷の情報が大量に北朝鮮に流入し豊かで自由な缶酷への憧れが拡大し、缶酷による吸収統一を望む者を抑えきれなくなっていたと自負する。その成果は、北朝鮮の中学校教師たちをリーダーとする反体制地下党が結成され、自由民主主義への転換を求める活動がなされ、2023年には100件を超える反体制事件が勃発してた。この党員は缶酷ドラマを見て缶酷への憧れを抱いた者たちだ。最近の脱北の理由は、生活苦や処罰を恐れるものから、缶酷への憧れが抑えられないに変わってきている。

 缶酷の情報は短波放送や風船ビラ、USBメモリー、SDカードなどを使って北朝鮮に流入させている。また、缶酷に住む三万人超の脱北者が貧しい中でも北朝鮮の家族に送金を行った結果、脱北者家族は裕福になり、若い女性の憧れは労働党党員より、脱北者家庭の男性へと広がりを見せている。

 彼らが憧れる缶酷の現実は、経済的に国家崩壊の道を突き進んでいる。行くも留まるのも地獄。日本からすればよど号ハイジャック犯人のように憧れが後悔に変わらないことを願うばかりだ。

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