第27話 お気の毒ですが、友人同士で争うみたいです。

「長い付き合いだ…お前の思考くらいは読めて当然だろう」


睥睨し、レグルスがそうアルスに告げる。

そうだろう。アルスは思った。

ジャック以外の人間を思い浮かべれば。

他にアルスと共にし、友人として接する事が出来た人間はレグルス唯一人。

氷解しつつある自らの心には、その二人が自らの心に住んでいる。


「だからこそ、一度は許してやる…本物を渡せ、そうすれば」


「そうすれば?一足先にグレイ様の下に向かい、一足先にグレイ様にお慰めの言葉を掛け?そして抱擁したり愛の言葉をささやき、その先の人生を我が物にしようと?…うふふ、レグルス様ならそうする…いえ…そうはしない…レグルス様は激昂するでしょう。彼を立ち直らせるために声を上げるのでしょう。そしてグレイ様はそれに感銘を受けて立ち上がるかも知れない…そうなれば、悲哀に満ちた心は立ち直ってしまう…それじゃあ駄目なんです。心と言うものは重要なのです…彼の心を救い、奪うのは…私でなければなりません…彼が私の心をどうにかしたように…私も彼の心をどうにかしなければならないのです」


だから。

アルスは指を伸ばす。


「…友に手を掛ける道を選ぶか」


「お互い様ですよねぇ」


そう笑みを浮かべ。


聖霊神魂デウスソウル伝承フォークロア…―――『故郷変貌せし黄金魔境ミダス・レ・ミゼラブル』」


指先から滴る黄金の水。

その水が地面に接着すると同時、黄土色の地面は黄金色へと輝き出す。

侵蝕していく黄金、レグルス・レオンハートは彼女の能力を理解している様子であり一歩ずつ後退しては侵蝕から逃れようとしている。


「うふ、ふふふ…レグルス様、どうか前へ、貴方様を黄金に変えて、我が屋敷の黄金像としてお飾りしますわぁ」


笑みを零すアルス・マーキュリー。

平然とした表情をするレグルスは腰に佩いたナイフを抜くと同時に彼女に向けて投擲する。

すると侵蝕は終わり、即座に黄金の地面が蠢いて壁となった。


「怖い怖い…ふふ」


嬉しそうに笑みを浮かべているアルスは指を振るう。

彼女の人差し指には、指の根元に指輪があり、指輪は円を描いて第二関節の腹に巻いて、そのまま爪を覆う様に、獅子の如き爪の様な装飾であった。

その指先から滴る黄金の液体が地面に触れると、黄金の大地は動いて、壁から人の姿へと変わる。


「黄金を制す者は万物を制する―――嘗て黄金錬金を志した錬金術師が残した言葉…黄金を作るその工程を至難であるが故に、その様な言葉が作られました…その通りだと私は思います…黄金を制す、それすなわち万物を制する…」


『故郷変貌せし黄金魔境ミダス・レ・ミゼラブル』は万物を黄金に変える。

変えた黄金は彼女の意志通りに姿かたちを変える。

それが、彼女の聖霊神魂の能力であった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

戦場帰りの最強騎士はお気の毒ですが精神を病んでしまいました。仕方が無いので故郷に帰るらしいですが、ヒロインが出迎えてくれたり追い掛けてきたりしてるみたいです。 三流木青二斎無一門 @itisyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ