27話 授業

10月も半分ほど過ぎになり、木の葉も少し色好き始めた今日。

今日もまたいつもと同じように一日が始まる。

「あきらー!」

『んー?なに?』

ヘアアイロンで髪の毛を整えながら玲が気の抜けた返事をする。

「行ってきますのキスしよー」

『しーくん…きもいよ』

「マジトーンで言われるのは流石にきついんだけど…もしかして倦怠期?」

『うっさいなぁもう』

「ツンデレムーブは一歩間違えると俺が瀕死になっちゃうから」

『うっさい!ばか!はやくいかないと授業遅れちゃうよ!』

「行ってきまーす」

今日は気分がいいのか、頬にキスをしてくれた。もうこれで一日頑張れる。けど今日は金曜日だし、バイト終われば…二週間くらいなかったし…うん。今日の予定決まり。

最近は家庭教師の仕事にも慣れてきたし、綾ちゃんも慣れてきたのかよく質問してくるようになったし、自分がどこが得意で、どこが苦手なのかも把握できる様になってきたから、授業もしやすいし、何より自分から話してくれるようになった。

鼻歌交じりに学校へ向け歩を進める。

今日の授業は教授の自慢話で大半が終わるので、この時間に今日の授業の準備をすることにした。

教室に着き全体を見回すといつもの席に透の姿が見える。今日も彼はけだるげで、どこを見ているのか分からない虚ろな目をしている。

「よっ」

「おう…来たのか、おはよぉ」

「そりゃ授業だから来るだろ」

「まあそうなんだけど…それよりどうだ?家庭教師」

「まあそれなりに上手くはやれてる…と思う」

「ならいいんだけど」

「生徒は男?女?」

「女だよ」

「え!まじか!かわいいの?」

「まあ…客観的に見れば、可愛いんじゃない?」

「そうか、そんなにかわいいのか」

「そんなこと言ってないだろ」

「いいや、俺にはそう聞こえるね」

「まあいいか」

「家庭教師と生徒かー…そそられるねぇ」

「きもい…ってかそんなこと聞かれたらまずいんじゃないか?」

「別に、あいつこの教室にいないし…これはこれ、それはそれ」

「一途になったかと思えばそんな考えばっかでやってられんわ」

「いいことを教えてやるよ」

「おう、しょうがないから聞いてやるよ」

「今の世界の法律やルールは守らなきゃいけない、けどそれが、目に見えているものが全てとは限らないんだよ」

「は?意味わからん、哲学か?」

「違う違う」


「要は柔軟に生きろってことだよ」

「お、おう」


柔軟に生きろ、か。シャーペンを右手でくるくると回しながら透の言葉を反芻する。

まあ俺は不器用にしか生きられてないからわからねえわ。

誰もが、これまでの透の様な生き方が出来たら、世界はとっくに崩壊しているであろう。

適当に空欄を埋めたプリントを教授に提出し、教室を出る。

今日は久しぶりに食堂で昼食を摂った。

「それで今日はバイトあるんだっけ?」

「まぁ、それはあるよ」

「ヤるにしてもゴムは着けろよー」

「やらんわボケ」

「そういえば、お前の生徒は女の子なの?」

「いいや?男だよ?」

「え?」

「え?」

「キレたりしてない…よね?」

透の性格から年下の多感な子はあまり得意そうではないと思っていたので、念のため聞いてみた。

「たまにカチンとは来るけど、まぁ言われたことはやるし、仕事だしな…」

一応そういった揉め事は起きていないようなので良かったが、これから受験生は少々精神的にキツくなり始めるころなので、少し心配ではあるが、それは俺も透も同じく乗り越えてきたはずなので、大丈夫だろう。

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