第25話:生徒会の黒雪姫
パーティ後の楽しい雰囲気はどこへやら……生徒会室の空気は、かつてないほどに重かった。
「……とりあえず、この
「お、おう……っ」
「そ、そうですね!」
白雪は言葉の端々に
その間、まったくの無言。
「「「……」」」
ピンと張り詰めた緊張感が、生徒会室を支配した。
(……こ、
白雪の瞳は氷のように冷たく、しかしその奥には、抑えようのない怒りが
彼女にしては珍しく、本気で怒っていた。
「なるほど、
課外活動連合組合、通称『
プリントの記述によれば……陸上部のエース的な存在で、最も得意とする400メートル走において、東京都の高校生記録を持っているらしい。
「ふふっ、無事に本番当日を迎えられるといいですね……
白雪――否、
「白雪、ストップ。気持ちは嬉しいが、ちょっと落ち着いてくれ。悪いところが出ているぞ?」
「……! ……すみません、少し熱くなっていたようです……」
正気を取り戻した彼女は、申し訳なさそうに頭を下げた。
凍り付いた空気が雪解けを見せ、生徒会室に春が訪れると同時、桜が明るい声をあげる。
「
彼女はそう言って、士気をあげようとしてくれたのだが……。
「あ゛ー……悪い、それはちょっと無理だ。バイトが入っている」
最近はただでさえ、ひったくり騒動や風邪で欠勤が続いている。
これ以上、店長や他のバイト仲間に迷惑を掛けるわけにはいかない。
それに何より、あんまり休み過ぎると家計が回らなくなっちまう。
俺のささやかなバイト代は、葛原家にとって、文字通りの『生命線』なのだ。
「いやいや、何を言っているんですか!? 裁判に負けたら、副会長を追放されてしまうんですよ!? バイトぐらい別に休めば――」
「……それなら仕方がありませんね」
「白雪さん!?」
驚愕する桜をよそに、白雪は視線をこちらへ向けた。
それに対し、俺は軽くコクリと頷く。
事業の破綻・両親の離婚・極貧の生活、別に隠していることじゃないし、なんなら近隣住民はみんな知っていることだ。
こういう不幸話ってやつは、あっという間に広がっていくからな。
「桜さん、大事な話がありますので、真剣に聞いてもらえますか?」
「は、はい、なんでしょうか……っ」
それから白雪は、重たい口を開いた。
五年ほど前、葛原家の営んでいた事業が経営破綻。
両親は離婚し、母親は行方不明&父親は放蕩生活。
長男である葛原葛男は、無茶な量のバイトをこなし、なんとか家計を支えている。
……改めて整理すると、中々ハードモードの人生だな。
「そ、そうだったんですか……。知らぬこととは言え、本当にすみませんでした……」
桜はアホ毛をしおらしく垂らし、こちらへペコリと頭を下げた。
「気にすんな。なんとも思ってねぇよ」
そんな程度で怒るほど、小さい男じゃない。
すると――桜は白雪に身を寄せ、小さな声で耳打ちを始める。
「白雪さん……葛原くんってもしかして、とても立派な人なんですか?」
「はい。よく誤解されがちですが、彼は
「『たった一人の男性』って……白雪さん、まさか!?」
「『まさか』とは、どういう……~~っ!? ご、誤解です……! 最後のは少し軽率な表現でした、『大切な友人』に訂正させてください!」
……おい、そういう
思いっ切りこっちに聞こえているし、どう反応すればいいか困るだろうが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます