第24話:生徒会の激震


 時刻は18時。


 お疲れ様パーティを終えた俺たちは、部屋の後片付けに取り掛かっていた。

 菓子袋かしぶくろやら空のペットボトルをポリ袋に詰め、持ち込んだボードゲーム類を回収、中央に寄せた長机を元の位置に戻せば――原状回復完了だ。


「さて、と……こんなもんか?」


「はい、ばっちりですね」


 そろそろ生徒会室へ撤収しようかというそのとき、


「――あっ、流れ星!」


 桜は窓の外を指さし、トテテテと展望テラスへ走って行った。


「なんかあいつ、蝶々ちょうちょとか追い回して、迷子になりそうだな」


「確か去年、珍しい色のを追って、池に落っこちていましたよ」


「そいつはひでぇな、もはや蝶ですらないのか……」


 俺と白雪がそんな話をしていると、


「白雪さん、葛原くん! 早くこっちへ来てください! お星さま、とっても綺麗ですよ!」


 外にいる桜から、お呼びの声が掛かった。


「いや、もう下校時間が迫って――」


「――三人で星を見る機会なんて、そうそうありませんし、ちょっとだけ見て行きませんか?」


「……ったく、仕方ねぇな」


 俺と白雪はテラスへ移動し、揃って大空を仰ぎ見る。


 するとそこには――文字通り、『満天の星空』が広がっていた。


「へぇ……こりゃ凄いな」


「……綺麗」


 二人で肩を並べながら、感嘆の息をこぼすと同時――桜がおもむろに右手を伸ばし、夜空の星々を指さした。


「あれがデネブ、あっちがアルタイル、最後にベガ。……綺麗ですね、『夏の大三角形』ですよ」


 彼女はどこか遠い瞳で、少し乙女おとめチックことをつぶやくが……。


「いや、全部ちげぇぞ。あれはスピカ、あっちがアルクトゥールス、最後にレグルス、『春の大三角形』な?」


「こ、こういうのは雰囲気が大事なんです! ……白雪さん、助けてください……っ。意地悪な天体オタクくんがイジメてくるんです!」


「はいはい、大丈夫ですよ、桜さん。葛原くんはこう見えて、とても優しい人ですから」


 それからしばらくの間、三人で夜空を見上げていると――ふいに桜が呟いた。


「私、この生徒会が大好きです。優しくて頼れる白雪さんがいて、意地悪で眼の腐った葛原くんがいて……なんだかとても居心地がいいです」


「はい、私もそう思います」


「えっ。二人とも俺のこと、お邪魔虫にしか思ってないの?」


 その後、特別展望教室に鍵を掛け、いつもの生徒会室へ戻る。


「――少し急ぎましょう。下校時間まで、後10分しかありません」


 それぞれが自分の荷物を持ち、最後に忘れ物チェックをしていたそのとき――生徒会室の扉が、勢いよくガラガラガラッと開かれた。


「よっ、入るぞ!」


日取ひとり先生……ちゃんとノックはしてください」


 白雪にとがめられたのは、日取ひとりかおる


 俺たち二年一組の担当教師だ。

 背まで伸びた黒い長髪、身長は170センチほど、年齢は確か29歳。

 非常に整った綺麗な顔立ちをしており、とても男前おとこまえな性格をしている。


「っとすまんすまん、今日はちょっと急ぎの用事があってな」


「急ぎの用事、ですか?」


「あぁ。諸君らにとっては、おそらく『バッドニュース』だろう」


 彼女はそう言って、とある書類を突き出した。


「つい先ほど、選挙管理委員会から連絡があってな。――葛原くずはら葛男くずお、キミの弾劾だんがい裁判を実施することが決まった」


「「なっ!?」」


 白雪と桜が驚愕の声をあげる。


「だ、弾劾裁判って、そんな……っ。生徒会が発足ほっそくして、まだ一か月も経っていませんよ!?」


「大した活動もしてないのに、どういうことなんですか!?」


 二人は眼の色を変えて問い詰めたが、先生は静かに首を横へ振る。


「そんなこと、私に聞かれても知らん。ただ一つ確かなのは――そこにいる葛原くずはら葛男くずおが、他の生徒たちから全く認められていないということだ」


 彼女はそう言って、鋭い視線をこちらへ向けた。


「……というか、葛原……。当の本人が、どうして一番落ち着いているんだ?」


「まぁ、いずれは来るだろうなと思っていましたから。予想よりもちょっと早かったですけど」


「まったく……相変わらずというかなんというか、本当に可愛げのない生徒だな。……まぁいい。弾劾裁判は、週明け月曜日の放課後に実施される。葛原の対戦相手――すなわち本裁判を起こした発起人ほっきにんの情報や本番当日の進行スケジュールなどについては、全てこの書類に記されている。きちんと目を通しておくように」


「うっす」


「最後に先生っぽいことを言っておくとだな……。まだ後二日ある。この土日を有効に使い、しっかりと弾劾裁判の対策を立てるといい。――それでは失礼する」


 日取ひとり先生は軽く右手をあげ、生徒会室を去っていくのだった。

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