第23話:生徒会とパーティ


 買い出しを終えて学校に戻った俺たちは、エレベーターに乗って時計塔を登っていた。

 それというのも……「せっかくのパーティですし、白凰で一番高いところでパーッとやりましょう!」と桜が言い出したのだ。


『馬鹿と煙は高いところが好き』ってのは、どうやら本当のことらしい。


 まぁ別にこれといって断る理由もなく、展望教室もちょうど空いていたようなので、今回はそこで打ち上げを行う運びとなった。


「――おーっ、なんかいい感じの部屋ですね!」


 時計塔の最上階、特別展望教室。

 そこは生徒会室より一回りほど広く、高機能プロジェクターや巨大スクリーンといった映像設備もあり、視聴覚室のようなにおいがする。


「ばっさぁ!」


 手荷物を長机に置いた桜は、元気よくガラスの扉を開き、意気揚々と展望テラスへ飛び出した。


「おい、落ちんじゃねぇぞ」


「桜さん、テラスは危険ですから、あまりはしゃいじゃ駄目ですよ」


「大丈夫大丈夫! それより二人とも、早くこっちに来てください! すっごくいい眺めですよ!」


 ぴょんぴょんと跳びはねる桜にかされ、俺と白雪はテラスへ移動。


(これ、は……っ)


 爽やかな風が春の香りを運び、雲一つない青空がどこまでも広がっていた。

 眼下には無数のビル群、少し眼を上げれば整備された森林、遠目にはかすかに青い富士ふじが見える。


「……贅沢な景色だな」


「はい、とても綺麗です」


 俺と白雪が肩を並べて、素晴らしい眺望ちょうぼうを堪能する中――桜の視線は何故か下、校庭にいる部活中の生徒たちへ向けられていた。


「ぐっふっふっ、本当にいい眺めですねぇ。まるで人がゴミのようです……!」


 ……お前、変なところこじらせてるよな。


 時計塔からの景色を満喫した俺たちは、簡単にセッティングを済ませていく。

 会議用の長机ながづくえを中央へ寄せ、お菓子・ジュース・バーガー類を広げ、紙コップにそれぞれの飲み物を注げば準備完了。


 生徒会長である白雪が席を立ち、コホンと咳払いをした。


「葛原くん、桜さん、各種書類の整理作業、本当にお疲れさまでした。みなさんのお力添えに感謝しつつ、また第99代生徒会の健全な発展を祈り――乾杯」


「かんぱーい!」


「乾杯」


 紙コップをコツンとぶつけ合い、ささやかなパーティが始まった。


「いやぁそれにしても、今年の生徒会は、『白凰史上最大の超ビックリ人事』でしたねぇ……。まさか葛原くんが副会長だなんて、絶対に誰も予想していませんでしたよ」


「だろうな。俺も驚いた」


「葛原くんはあまり目立とうとしませんからね。知名度が低くても仕方ありません」


 お菓子やバーガーを摘まみながら談笑しつつ、トランプ・三人麻雀さんま・ボードゲームなど、定番の室内遊戯ゆうぎを楽しむ。


 そうして一通り遊んだところで、桜が突然そのアホ毛をピンと立たせた。


「――た、大変です! すっかり忘れていました! アレ! アレやりましょうよ、アレ!」


 確かにこれは大変だ、桜の語彙ごいが死んでいる……いや、いつものことか。


「落ち着け、アレだけじゃ何も伝わらんぞ」


「ほら、あの……っ。お題を決めて、手をパンパンってして、リズムよく言っていくあの遊び……ッ」


「もしかして、山手線ゲームのことか?」


「そう、それです! やりましょう、山手線ゲーム!」


 桜はそう言って、キラキラと眼を輝かせる。


「白雪さんと葛原くんは、山手線ゲームの経験ありますか?」


「一応ルールは知っているが、実際にやったことはねぇな」


「私も同じですね」


「それでしたら、ぜひやりましょう! みんなでやれば、大盛り上がり間違いなし! これを抜きにしては、打ち上げを語ることはできません! 超定番のパーティゲームですので、ぜひ、ぜひ、ぜひ……!」


 なんか、いつにも増して押しが強いな。

 そんなに好きなのか、山手線ゲーム。


「まぁせっかくの機会だし、ちょっとやってみるか?」


「はい、やってみましょう」


「ぃやったー!(ふぅ、危ない危ない……っ。せっかく昨夜、寝る間も惜しんで『必勝のお題』を暗記してきたというのに、うっかり全て水の泡にするところでした……。葛原くん、『覚悟の準備』はよろしいですね? 副会長争奪戦のときの雪辱せつじょく、今ここで果たさせてもらいますッ!)」


 俺たちはその後、オフィスチェアを円状に並べ、山手線ゲームの準備を整えた。


「それでは時計回り、私→葛原くん→白雪さんの順番で行きましょう! 今回のお題は――『ん』で始まる地名! ンジャメナ!」


 二拍手した後、


「ンザイパン国立公園」


 パンパンと音が響き、


「ンゴロンゴロ保全地域」


 一巡したところで、


「ん、ンズワニ島……!」


 僅かにテンポを乱しつつ桜。


「ンガミ湖」


「ンガウンデレ」


 俺と白雪がテンポよく答え、


「ん、ん……んーッ!?」


 桜は奇声を発しながら、押し黙ってしまった。


「「はい、アウト」」


 俺と白雪が同時に指摘し、ゲーム終了。


「なんかあっけなかったな」


「思いのほか早く終わりましたね」


「ちょ、ま、待ってください……! 二人とも、何か適当な言葉で誤魔化していませんか!?」


 桜はこちらの不正を疑うが……。 


「そんな安いズル、スマホで調べれば一発でバレるだろ」


「全て実在する地名でしたよ」


「ぐっ……。つ、次です……! 次のゲームに行きましょう!」


 その後、『四国地方を通る国道』『南半球の世界遺産』『元素の名前』など、ちょっと変わったお題が出されたけれど……。


「マイトネリウム」


「ダームスタチウム」


「ぇ、あ、え……っ」


 結局、桜の一人負けは変わらず……。


「こ、この……超絶鬼スペック夫婦!」


 よくわからない罵倒の声が響き、本日のお疲れ様パーティは、無事に幕を下ろすのだった。

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