第22話:生徒会と買い出し


 本日の生徒会は『お疲れ様パーティ』を開くため、臨時休業。

 放課後――俺・白雪・桜の三人は駅前へ繰り出し、お菓子とジュースを買い込んだ。


「さて、と……こんなもんでいいのか?」


「他に何か必要になるものはありますか?」


 俺と白雪は『打ち上げの作法』的なものにうといので、基本的なセッティングは全て、経験豊富な桜に任せることにした。


「お菓子よし! ジュースよし! パーティゲームは、私が持ち込むのでよし! 後はやはり打ち上げの定番――ラックバーガーでしょう!」


 彼女はそう言って、赤と黄色のポップな看板を指さした。


「ほぅ、なるほど……」


「確かに、それっぽくなりますね」


 バーガーやらポテト片手にウェイウェイ言うのは、かなりパーティっぽい感じがする。


「さすがは桜、遊び慣れているな」


「そ、その言い方はやめてください! なんか軽い感じがして、とても嫌です!」


 そんなこんなで入店。


 桜は慣れた足取りで受付に向かう。


「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」


「えーっと、ポテトLとチキンナゲットを1つ、後それから……メロンソーダのLをお願いします。あっ、ケチャップは2個で」


 こいつ、正気か……!?

 最も原価率の高いハンバーガーを注文せず、粗利率あらりりつの高いサイドメニューオンリー、しかも原価ほぼ0円の清涼飲料水をLサイズ、極め付きには全て単品注文だと!?


 あり得ない、これでは企業の思うツボだ。


 いやその前に……。


「おい桜、そんな贅沢をして大丈夫なのか? 学校の金だろ?」


 俺が小声でそう問い掛けると、彼女は不思議そうに小首を傾げた。


「えっ……白凰うちの打ち上げの中じゃ、めちゃくちゃ質素な方だと思いますよ? ねぇ、白雪さん?」


「はい。他の部活では、都内の有名ホテルを貸し切りにしたり、レクリエーションに著名人を呼んだり、もっと派手にやっているところはザラにありますね」


「そ、そうなのか……」


 さすがは『天下の白凰』。

 各部活動に割り当てられる予算が、並一通りのものじゃない。


(……まぁ私立白凰高校ここは本来、俺のような貧乏人が来るところじゃないからな……)


 とある調査によると、白凰に通う生徒の平均的な世帯収入は――約5千万円だそうだ。


「予算的には全く問題ありませんので、葛原くんも遠慮せず、好きなものを頼んでくださいね」


 白雪はそう言って、隣のレジで注文を始めた。


(……『遠慮せず、好きなものを』か……)


 俺はゴクリと唾を呑み、震える右手でメニューを指さす。


「だ、ダブルチーズバーガー……セット・・・でお願いします……っ」


「はい、ダブルチーズバーガーのセットですね。サイドメニューとドリンクをどうぞ」


「ポテトとたっちゃんの白ぶどうで」


「かしこまりました。サイズはS・M・Lとありますが、どうなさいますか?」


「……え……」


「え?」


「Lサイズで……お願いします……ッ」


「ありがとうございます」


 ダブルチーズバーガーのLセット――税込780円なり


 気が付けば、豪遊ごうゆう・・・・!

 理外りがいの散財、原価率しばりからの脱却・・・・!


(は、はは……っ。凄い、凄いぞ……。Lのセットだ、Lのセットを頼んだんだ……!)


 束の間の至福・・・・!


 しかし、その直後に訪れるは――圧倒的後悔・・・・!


(ぐっ、ぉ……俺はいったいなんてことを……ッ)


 コストパフォーマンスの観点から見れば、選ぶべきは絶対にこっち・・・・・・・。


 チーズバーガー単品×2と無料の水――税込260円!


 フルセットと単品、両者の差額は実に3倍!


(確かにセットの方は、ポテトとジュースが付く、付くけれど……っ) 


 そこに果たして、3倍の価値を見い出せるだろうか!?


「白雪さん……葛原くんは、どうして一人で悶絶もんぜつしているのでしょうか?」


「あれは、彼の数少ない弱点の一つ『無駄遣い』による禁断症状ですね。別に今回のこれは、無駄遣いじゃないと思うのですが……おそらく独自の基準があるのでしょう。あまり気にしないであげてください」

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