第15話:葛原葛男の実力


「では、生徒会の勝ちということで、グラボの予算申請は却下しますね」


 ヘッドセットを外し、座席から立ち上がると、


「ま、待ってください……!」


 柚木ゆずき先輩が、ガッチリと俺の両腕を掴んだ。


「なんですか?」


「今のはマグレです! あんなラッキーショットじゃ、真の実力は測れません! スナイパーライフル以外での、中・近距離での再戦を要求します!」


「はぁ……別に構いませんが……」


 その後、アサルトライフル・サブマシンガン・ショットガンなどなど……。先輩の指定したありとあらゆる武器で1VS1を行い――その全てに勝利した。


「つ、強い……」


「こ、こんな……こんなことあるわけが……ッ」


 白雪は目を丸くし、柚木先輩はワナワナと震える。


 俺の直感像記憶は、視て覚えることに特化した力だ。

 あれだけ何度も白雪と柚木先輩の1VS1を間近で見れば、材料は十分。

 先輩の攻め方と避け方の癖を記憶し、自分が使う銃の反動パターンさえ覚えれば、ほぼ全ての弾を相手の頭に叩き込めるというわけだ。


「ち、チート……! 不正機器コンバーター! 電脳世界の犯罪者!」


 柚木先輩は涙目になりながら、罵倒ばとうの限りを尽くすが……。


「いや、ここの機材一式、全部コンピ研のものじゃないですか……」


 チートプログラムをインストールしていないのは当然のこと、不正機器を使っていないのも、こちらの手元を見れば明らかだ。


「む、むぐぐ……っ」


 何も言えなくなった先輩が、悔しそうにプルプルと震えていると――コンピ研の部員が、彼女の袖をちょいちょいと引っ張った。


「ゆ、ゆず先輩……。ちょっとこれを見てください。この人のアカウント名、もしかして……っ」


「アカウント名がどうし……『Kzくず』……!?」


 柚木先輩は驚愕に目を見開いた。


「も、もしかしてクズくん……。GRカップ初代優勝チームの『無気力な死神』――Kzさんなんですか!?」


「あー、まぁ一応……」


 その大会は確か……知人の某有名配信者に『一生のお願い』と頼み込まれて、仕方なく出たやつだ。


 すると次の瞬間、コンピ研の部員たちがざわつき始める。


「嘘、ほんとに!? あのKzくずさんが、うちの学校に……!?」


「どうりで強いはず……」


「あ、握手してもらえないかなぁ……っ」


 コンピュータールームが騒然となる中、


「すとーっぷ! 配信者は身バレNG! 誇り高きコンピ研の部員であり、Kzくずさんのファンガールであるのならば、落ち着いた行動を心掛けてください!」


「「「す、すみません……っ」」」


 柚木ゆずき先輩は無駄なカリスマ性と統率力を発揮し、見事に混乱を治めた。


Kzくずさん……いえ、クズくん。コンピ研は私の極近ごくちかしい友人のみで作った部なので、身バレの心配は絶対にありません。その点はご安心ください」


「それはどうも」


 俺がKzの名前で活動したのはGR大会の一回だけだし、別にバレたところで、そんなに困るものでもないと思うが……。

 気を回してくれたことについては、ちゃんと感謝しておこう。


「ところでその……。実は一つ、ご相談したいことがあるのですが……」


「予算なら出ませんよ?」


「いえ、そうではなく……。今度私の『ユズリンちゃんねる』で、コラボしていただけませんか?」


「すみません、俺は配信者じゃないんで」


 丁重にコラボの依頼をお断りした俺は、白雪と共にコンピュータールームを後にするのだった。


 生徒会室への道中――。


「――葛原くん、今回は助かりました。ありがとうございます」


「あぁ、気にすんな」


 別に大したことはやってない。

 ただちょっとアペで遊んだだけだ。


「私はこれまで『ぴーしーげーむ』というものに、全く触れてこなかったのですが……。あれは中々、面白いものですね」


「そう言えば白雪、結構のめり込んでいたもんな。最後の方なんか台パンしそうなぐらい――」


「――あ、あのときの私は、忘れてください……っ」


 白雪はそう言って、顔をあからめた。

 彼女は肌が白いから、恥ずかしがったときなんかは、とてもわかりやすい。


「こ、コホン……っ。それで、その……もしまた機会がありましたら、今度は一緒に遊びませんか? げーむ」


「……あぁ、それもいいかもな」


 こうして俺と白雪は、いつか一緒にゲームで遊ぶ約束を交わすのだった。

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