第16話:桜ひなこ、死す
コンピ研とのいざこざを治めた翌日の放課後。
生徒会室の扉を開けるとそこには――血まみれの桜が、うつ伏せで倒れていた。
右手のあたりには血で書かれたKZという英字が残されており、おそらくダイイングメッセージと思われる。
俺はそんな彼女を踏み越え、
「よう」
「はい」
白雪といつもの挨拶を交わし、副会長の席に着く。
「今日も書類整理か?」
「えぇ、後もう少しなので頑張りましょう」
それからしばらくの間、二人で黙々と書類の確認作業を進めていると……。
「なんでノーリアクション!?」
桜はそう言って、勢いよく立ちあがった。
「同じ生徒会の仲間が、血だらけで倒れているんですよ!? どうして
「包丁の
「非ニュートン
「無駄に超ハイスペック……っ」
桜は悔しそうに歯を食い縛った後、人差し指をビシッとこちらへ向けた。
「とにかく、私は怒っているんです!」
「怒ってる?」
「何故でしょうか?」
「昨日! 放課後! 生徒会室!」
彼女は単語を並べ立て、子どものように頬を膨らませる。
「……あー……」
なるほど、そういうことか。
昨日――体育委員会の顔合わせを終えた桜は、生徒会室へ向かったのだろう。
しかしタイミング悪く、俺と白雪がコンピ研へ行っている時間と重なってしまい……そこはもぬけの殻。
待てど暮らせど二人は帰って来ないので、彼女は仕方なくトボトボと
まぁ大方の流れは、こんなところだろう。
「すみません。昨日はちょっといろいろありまして、桜さんのことを失念していました」
「悪い、
「え……ぁ、いえ……。別にそこまで真剣に怒っているわけじゃないので……大丈夫です」
思いのほかまともな謝罪が来たためか、桜はしどろもどになり、あっさりと許してくれた。
「次からは気を付けますね」
「そんじゃ仕事に戻るわ」
俺と白雪はそれぞれの席に着き、書類の確認作業を再開する。
「要望書のチェック、終わったぞ」
「相変わらず、速いですね。では次に――」
「う、うぅ……なんかモヤっとする!」
桜は我慢ならないといった様子で
どうやら今日は絶好調のようだ。
「結局のところ、お二人は昨日どこへ行ってたんですか!?」
「コンピ研だ」
「ちょっとトラブルがあったんですよ」
「コンピューター研究部でトラブル……? いったい何があったんです?」
それから俺と白雪は、簡単に事情を説明した。
「なる、ほど……二人で楽しくゲームをしていたんですね……っ」
俺の話、ちゃんと聞いてた?
桜は
「……私、ちょっと焦っているんです」
彼女は張りのない声でポツリポツリと語る。
「お楽しみ熱のせいでスタートダッシュに失敗。体育委員会の顔合わせもあって生徒会の仕事にも不参加。白雪さんと葛原くんはどんどん仲良しになっていくのに、なんだか一人だけ取り残されているような気がして……」
「桜……」
「桜さん……」
頭すっからかんのIQ3。
俺は桜ひなこのことをそんな風に評価していたが、彼女は彼女でいろいろなことを考え、思い悩んでいるようだ。
「桜、あのな――」
俺がフォローを入れようとしたそのとき、
「っというわけで……ドン!」
彼女は突然、宇宙のイラストが描かれた怪しげな雑誌を取り出し、
「お互いの理解を深めるため! やりましょう! 心理テスト!」
何やらまた、おかしなことを言い始めた。
前言撤回、やっぱりIQ2だわ。
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