第2話

白井マウナが自分に双子の兄がいることを知ったのは、高校二年生の新学期が始まったばかりの九月十日のことだった。九月に入るとハワイ島の気候は一年で最も安定した時期を迎える。スコールが少なくなり晴天の日が続くようになる。

この日はマウナの十七歳の誕生日だった。

それは、自らの意志で知り得た情報ではなく、母親の告白という形で知らされたのだった。

 この世の中に自分に双子の兄が存在するなんて、全く想像すらしたことがなかったマウナに、九月十日のマウナの十七歳の誕生日を祝う夕食の後、父親も含めた家族三人の団欒の最中に、なんの前触れもなく母親がこの話を切り出したのだった。

「マウナ、これは冗談でも、作り話でもなく、真実だと思って聞いて欲しいの」

 最初は母親からのバースデーのサプライズプレゼントかと思い、「何よ、急に改まって?」と笑いながら母親の顔を見た。けれど、母親はいつもになく真剣な顔をしていた。その顔は思い詰めているようにもマウナには見えた。

「えっ、何よ。そんな怖い顔をして、その話って僕にとって悪い話なの?」

「悪い話かどうかは、マウナ自身にかかっているわ。あなたがどう捉えるかで、良い話にも悪い話にもなってしまうの」

 いつも白黒をはっきりつけたがる母親にしては、珍しく曖昧な答え方をした。

「分かった。そう意識して話を聞くことにするわ。この話はもちろんパパも知っている話だよね?」

 寡黙というほどではないが、団欒の中心はいつも女二人の他愛のない話で終始していた。この日の夕食の時の父親は、いつもに増して言葉数が少なかった。

「もちろん、パパも知っている話だよ」

「家族の中で僕だけが知らなかった話、ということだね」

 マウナは言葉が喋れるようになった時から、自分のことを私ではなく僕と呼んでいた。僕と呼ぶマウナのことを、両親は一度も直すように指摘はしなかった。だから、十七歳の今でも自分のことを僕と呼んでいる。まあ、日本語を話すのは家の中だけで、家の外では全ての会話が英語なので、僕と私の使い分けは必要ないのだ。

 皮肉に取られないように注意しながら言ったつもりだったが、両親にはマウナの努力は通用しなかったようだ。

「マウナに秘密にしていたわけじゃないんだ。ただ、幼い子供が理解できる話ではないので、マウナが十七歳になるまで話すのを待っていただけのことだよ」

 こう説明をしたのは、母親ではなく父親の方だった。

「僕は、秘密にされていたことで、パパとママを責めているわけじゃないよ。反対に今日、その秘密を話してくれることに感謝をしているんだ。だから、僕の言った言葉でもし二人が傷ついたのなら、謝るのは僕の方だよ」

「いや、マウナに対して済まないという気持ちはあるけど、パパもママもマウナの言ったことで傷ついたりはしていないよ。だからそのことは気にしなくて良い」

 変わらず優しい表情を浮かべたまま父親が言った。

「はい、分りました。じゃあ、話を聞かせて、ママ」

 マウナは父親に向けていた視線を、母親の方に向け直した。

「実はね、マウナには双子のお兄さんがいるの」

 最初から、いきなり脳の理解能力を超える話が出てきたとマウナは思った。

「お兄さんが『いた』という過去形ではなくて、それは現在もどこかで生きているということなの?」

「そうよ、ちゃんと生きているわ」

 自分に兄がいる。この衝撃的で重大な事実を、両親はよく今日まで娘に対して秘密にできたものだ。さらには、兄が親元を離れてどこかで生きているということも、マウナには大きな衝撃だった。

 では、兄はどこにいて、どのような生活を送っているのだろうか? それにしても不思議なのは、兄の痕跡が我が家に全くないことだ。マウナが物心ついたあとの記憶の始まりとしては五歳くらいからだったが、この時にはすでに兄はこの家には居なかった。それに、今もアルバムやフォトブックに兄の写真は一枚も存在しない。

 でも、母親の話しでは兄はちゃんと生きているという。それならば、両親は私に内緒で今でも兄に会っているということなのだろうか?

「お兄ちゃんは、今、どこにいるの?」

 至極当然の質問をした。いきなり「兄が生きている」と言われても、「はい、そうですか」と簡単に納得できることではない。双子なのだから、兄も私と同じく今日十七歳になった。十七歳の兄は、逆にマウナという妹が存在することを知っているのだろうか。

「国としてはシンガポールよ。シンガポール本土ではなく、マレーシア領に近い小さな島だけど」

「シンガポール、しかも離島? お兄さんは、シンガポール人の家庭に養子に行ったの?」

 シンガポールに住んでいると聞いて、自分が物心つく前に、なんらかの理由でシンガポール人の家庭に養子にもらわれて行ったのだと考えるのは、至極当たり前の発想だとマウナは思った。

「マウナ、誤解しないで。あなたのお兄さんは養子に行ったのではなく、その場所に望まれて行ったのよ」

「場所? お兄ちゃんの自らの意志で?」

「いえ、それはパパとママの意志よ。だって、お兄さんがシンガポールに行ったのは、二人が生まれて二日後のことだから。そんな赤ん坊に判断ができる能力はまだ備わっていないでしょう」

 母親はそう説明をしたが、生後二日目の我が子を遠くシンガポールに行かせる両親の神経が、マウナには全く理解できなかった。

「お兄ちゃんはなんという名前なの? シンガポールに行った時は生まれてすぐだけど、もちろん名前は付いていたよね」

「ええ、もちろんきちんと名前は付けたわ。パパとママで、二人の名前を懸命に考えてつけたのよ。お兄さんの名前はケアよ」

「ケア。双子の二人を合わせると『マウナケア』ということになるね」

 マウナケア。ハワイ語で白い山という意味だ。マウナケアはハワイ七島の中で最も標高が高い山だ。標高は4,205メートル。常に頂上付近に雪を蓄えていることから、「白い山」と、六世紀頃に南太平洋の島々からカヌーで、このハワイ島に移住してきたポリネシアンの原住民が名づけた山の名前だ。

 白い山と名付けるなら、マウナ「山」は、男の子である兄の名前に相応しいのではないかと、マウナは思った。でも、現実は、妹の私が「山」で、兄は「白」を意味する「ケア」なのだ。その疑問をマウナはそのまま口にした。

「確かにマウナの感じた通りね。でも、もし誰かが生まれたばかりの二人の赤ちゃんを見ていたとしたら、名前の由来をすぐに理解できたと思う。女の子は見るからに元気が良くて、生れて間もないのに逞しささえ身にまとっているようだった。そして、もう一人の男の子の方は、雪のように白く透き通る肌をして、今にも融けて無くなりそうな儚さを漂わせていた。それが、マウナとケアの名前の由来なのよ」

 母親の言う、雪のように白く透き通る肌をしている男の赤ちゃんを思い浮かべてみた。それは、降る雪が手の平に落ちてきた瞬間に、積もることもなく融けて消えてしまう悲しくて儚いイメージしか、マウナの頭の中には浮かんでこなかった。

 その雪と同じように、兄はシンガポールに消えてしまったのだろうか。

「お兄ちゃんは、どうしてシンガポールに行ってしまったの? 僕たち双子の兄妹は、こうして両親が揃って健在なのに、なぜ引き裂かれなければならなかったの?」

 自分に兄がいると聞かされた時、マウナにはこの質問をする権利が与えられたと思った。そして、予想されるこの質問にきちんと答える覚悟ができたからこそ、両親はマウナに対して、兄の存在を打ち明けても大丈夫だと考えたのだから。

「マウナの質問には、パパからきちんと答えるよ。マウナが十七歳になった時に、同じくケアも十七歳になる。この時に、マウナとケアの双子の兄妹のことを包み隠さず全て話すつもりでいたからね」

 父親は、マウナの目を真っ直ぐに見て言った。その声には、何かを宣言するような力強さと潔さがあるようにマウナには感じられた。父親の話しは、衝撃な言葉から始まった。

「二〇〇三年九月十日。このハワイ島ヒロの自宅で、ママは男女双子の赤ちゃんを無事に出産した」

「僕たちは、病院ではなくこの家で生まれたの?」

 気になったことはすぐに口にしてしまう性格のマウナは、すかさず質問をした。

「そう、マウナとケアが生まれたのは、病院ではなくこの家の、今はパパとママの寝室になっている部屋で生まれたんだ。どうしてハワイ島の自宅で出産をしたのかの、その理由についても質問がくる前に答えておこう。それはパパとママの意志ではなく、ある強い意志に導かれたからなんだよ」

 父親の言った最後の意味がマウナには全く理解できなかった。

「ある強い意志に導かれた」とは、全く穏やかな話ではない。この疑問も、マウナが質問する前に父親が答えてくれた。

「ある強い意志という曖昧な言い方をしてしまうと、却って解りにくくなってしまうから、これは、神様の導きだと言い換えることにするよ。神様の導きというと、マウナはスピリチュアルなことを想像してしまうかもしれないが。でも、これはまさしく神様の導きとしか説明がつかないことなんだ。これから詳しく説明をして行くけど、当然、話す途中で沢山の疑問をマウナは持つだろう。こうした疑問の一つひとつに丁寧に説明をして行きながら、マウナにはケアの存在の意義を理解して欲しいとパパは思っている。パパの考えをマウナは受け入れてくれるかな?」

「もちろん、受け入れるよ。たとえ、それが僕にとって辛い話になったとしても、決して僕は逃げたりはしない。このことを、パパとママに約束するよ」

「ありがとう、マウナ。とても素直で強い娘に育ったことを、パパは神様とママに感謝をするよ」

 父親の話しは、母親の妊娠が判明した時に遡って始まった。

 母美智(みち)の妊娠が判った時、両親が住んでいたのは、このハワイ島ではなく、日本列島の西側に位置する海辺の町だった。

 二人はお互いに強く惹かれ合い、誰一人の反対もない中で幸せな結婚式を挙げてから、その時すでに七年の月日が経っていた。しかし、二人が強く望み続けていた子供は、この七年間の間授かることはなかった。

 軽い悪阻(つわり)の兆候を感じて美智が病院に行き、検査の結果、「おめでたですよ」と医師に告げられた時、美智は医師の声が神の声だと思えたと、その日の夜に父譲治(じょうじ)に話したという。それほどに待ち望んだ妊娠だったのだ。

 妊娠三か月目に入った時に、悪阻がかなり酷くなり、美智が病院に診察に行くと、超音波検査で妊娠している子供が双子だということが判った

「待ちわびた分、一度に二人の子供を授かった」と、二人はさらに喜んだ。

 けれど、そんな喜びは長くは続かなかった。一向に収まらない酷い悪阻のために、食べ物を身体が受け付けず、日に日に痩せてやつれて行った美智は、とうとう入院をしなければならないほどに追い込まれてしまったのだった。

 入院をしてからは、酷い悪阻のせいで口から摂取できなかった栄養を、点滴で補い続けた。それでも、悪阻は入院してから二か月間も続き、やっと収まった時には妊娠は五か月目に入り、安定期を迎えていた。

 今日の検査で異常がなければ、明日は退院の許可を出しますと担当医師に言われて臨んだ検査で、二人は思ってもいなかった衝撃的な事実を告げられた。

 悪阻も無くなり、体調万全で受けた超音波検査で、双子の胎児の成長に大きな差があることが見つかったのだ。

「一人は全く発育していないのではないかと思えるほど小さく、正常に発育をしているもう一人と比べると、身体や頭の大きさが半分以下」という検査結果だった。

 この検査結果を聞かされた時、美智はショックのあまり、身体を大きく震わせ始めた。酷い悪寒が美智の身体に襲い掛かっているのだということは譲治にもはっきりと分かった。

 いっこうに身体の震えが止まらない美智の肩を、心配そうな顔をして抱き続ける譲治の姿を見て、本当はこれからがもっと肝心な検査結果の続き報告することを、医師は諦めざるを得なかったと翌日打ち明けた。

 マウナとケアの双子の兄妹が生まれたのは、ハワイ島ヒロの現在住んでいる家の寝室だった。では、日本の西側の小さな海辺の町で暮らしていた二人が、遠く六千キロメートル以上も離れているこのハワイ島で、なぜ出産をしたのかという理由をこれから聞くことになるわけだが、まさに、医師が話そうとしていた検査結果の続きが、二人がハワイ島で双子を出産することになるその大きな理由だったのだ。

 ただ、この理由を聞いた時、果たしてあなたはそれを素直に信じることができるだろうか。

 妊娠五か月目の超音波検査で、お腹の双子の胎児の成長に大きな差があると医師から告げられた後、ショックで一時的に体調を崩した美智の回復を待って、次の日の午前中に検査結果の続きを聞くことになった。

 昨日のショックからまだ完全には立ち直れていない美智だったが、双子の母親だという強い覚悟に支えられて、なんとか精神的に持ちこたえているという感じだったが、まだ、顔色は蒼白いままだった。

「昨日は奥様の体調を考慮して検査結果の報告を途中で中止いたしましたが、その続きをこれから報告いたします」

 冷静な口調で医師が言った。すぐに説明に入ろうとする医師を譲治が止めた。

「先生、これから説明を受ける内容は、昨日のように妻に強いショックを与えることはないでしょうか?」

 これ以上美智を精神的に追い詰めることは、胎児への影響が大きいので極力避けたいと考えての質問だった。

「ご質問にお答えいたします。ご主人のご心配は十分に理解できますので、これからの説明については、現在の奥様の体調を考慮して、まずはご主人にだけさせていただくのが賢明かと考えます。奥様には後でご主人から説明をしていただくのが良いかと」

 やはり医師からの説明を事前に止めたことは正解だったと譲治は思った。

「ご配慮ありがとうございます。では、勝手を申し上げますが、先に私一人で検査結果をお聞きいたします」

 看護師に付き添われて美智が診察室を出た後、医師が譲治の顔を真っすぐに見た。医師は美智が同席していた時とは別人のような厳しい顔に変貌していた。この顔を見た瞬間に譲治は「強い覚悟が必要だ」と自分に言い聞かせた。

「では、検査結果の続きの説明をいたします。まずは、昨日の説明で双子の胎児間に大きな成長の差があることをお話しました。このことは覚えておられますか?」

「はい、もちろんよく覚えております。確か、成長が遅い方はもう一人の半分程度の大きさだということでした」

「その通りです。では、ここからがその説明の続きになります。まず、正常に成長しているのは女の子で、成長が遅れているのが男の子です。基本的に受精した時の細胞は全員が女子だと言われており、そこから細胞分裂により男子に変わると言われておりますので、細胞分裂しない分、胎児の状態では女子の方が強いと言われています。今回の検査でも極端なケースでそれが実証されているわけです」

「妻の妊娠は現在五か月目に入っていますが、出産までの残り五か月間の間に、遅れている男の子の成長は女の子に追いつくのでしょうか? 妻はこのことを大変心配しているのですが」

「大変辛い話をさせていただくことになりますが、男の子の成長が女の子に追いつくことはないと判断をしています」

「それは、どういう根拠に基づいての判断でしょうか?」

「実は、昨日の検査ではお腹の上からの超音波検査だけでなく、実際に子宮内の羊水検査や他の検査も同時に実施しています。その検査データーを総合し解析した結果での判断です」

「ということは、男の子は細胞レベルで異常が認められたということですか?」

 こう質問している時にも不安と恐怖で唇がけいれんし始めていた。口の中がカラカラに乾いて唾さえ飲み込めない状態になっていた。

「そうです。どれくらい異常なのかという詳細な内容をお聞きになる勇気はお有りになりますか?」

「どういう意味でそうお訊きになったのですか?」

「堕胎をされるなら、これ以上はお聞きにならない方が良いと私が判断をしたからです」

「堕胎?」

 せっかく授かった子供をなぜ堕さなければならないのか? そんなことなど絶対にさせない。

「堕胎するのは男の子の方だけです。女の子はあと五か月後には無事に生まれてきますので、ご安心をください」

 男の子の方は堕胎ありきの言い方だ。

「男の子の堕胎はマストですか?」

「マストというか、今の状況から判断すると、男の子の方はもうすぐお腹の中で死んでしまいます。そうなると、女の子の成長にも大きな支障が生じますので、堕胎の処置は一刻も早い方が良いと思います」

「先生、堕胎の処置は一刻も早い方が良いと簡単に言われますが、これは人一人の生命のことなのですよ。しかも私たち夫婦にとってはかけがえのない子供の生命なのです」

「勿論、ご主人の心中はお察ししますが、男の子が無事に生まれてくる可能性は、0パーセントに近いです。これは可能性の数値ではなく事実です。医師として断定することができる事実なのです」

「……納得ができません」

「そうですか。それでは、これは秘密にしておいた方が良いと考えていたのですが、私が事実だと言い切った根拠について、お話をします。聞くのに堪えられないと思った時は正直にそう言ってください。言葉にするのが辛かったら手を上げていただくだけでも結構です」

「はい、了解いたしました」

 話を始める前に、医師はデスクにおいてあったペットボトルの水をひと口飲んだ。

「簡潔に言います。男の子は奇形児だと判断をしています。しかも、かなり重度の奇形児です」

「奇形児……、ですか?」

 あまりの衝撃に、頭の中から全ての脳みそが消滅してしまったように、一瞬で思考能力を失ってしまった。

「これを見てください。胎児を精細に映し出した映像です」

 医師は、デスクに固定されたディスプレイのスイッチを入れた。ここに映し出されたのは人間の形をした二人の胎児だった。一人は、もう完全に頭と身体の区別がつき、目や手の指さえも識別ができた。けれど、もう一人の方は頭の形は判るが、身体の方はまるでクラゲのように透き通っていて布切れのように厚みがなかった。これが男の子の方だとすぐに判った。

「脳は正常に発達をしているようです。けれど、肺と胃はありません。内臓は心臓、小腸、大腸、それに肝臓と腎臓だけです。今は子宮の中でへその緒を通して母体から発育に必要な栄養分を与えてもらっていますが、もし出産できたとしても、肺がないので自己呼吸ができなくて、すぐに死んでしまいます。この状態で現在生きていることさえ奇跡だと言ってもいいくらいの状態なのです」

 医師は突き放すように言った。

「でも、脳は正常なんですよね?」

「そうです」

「この子は、母親を認識できているのですよね?」

「それはどうでしょうか?」

「脳は正常なのに、それでもこの子の生命を終わらせなくてはいけないのでしょうか?」

「このままでも、もうすぐ生命が絶えてしまいます。すでに、心臓の力が日に日に弱くなってきていますので。すぐにでも堕胎の手術をご決断ください」

「私だけの独断では決められません。妻と相談をしないと」

「奥様がこの映像を目にすることになりますよ。今の体調でそれをされますか?」

「……」

「手術の後、奥様が傷つかないような理由を病院の方で用意します。今は、正常に育っている女の子と母体のことを最優先にして、冷静な判断をしてください」

「予断を許さない状況だということは充分理解できました。けれど、せめて明日の朝まで時間をいただけないでしょうか。ひと晩考えて心の整理をつけたいのです」

「分かりました。明日朝一番までご返事をお待ちします」

「わがままを申し上げて済みません」

 立ち上がると一度頭を下げてから譲治は診察室を出た。

 個室になっている病室に戻ると、美智は小さな寝息を立てて眠っていた。美智のまつ毛に光るものを見つけた時、譲治は込み上げてくる感情を抑えることができなくなり、思わず病室を出た。そして、トイレに駆け込むと個室に入って声を上げて泣いた。

決断をしなければならない。しかも、それはNOということが許されない決断だ。

 思いっきり泣いた後、譲治は再び病室に戻った。ドアを閉める音に気付いて美智が目を覚ましてしまった。

「ごめん、起こしてしまったね」

「夢を見ていたの。お腹の中で、男の子が『たすけて』と泣きながらお願いするのよ」

 それは夢ではなく、現実なんだよ。男の子はもうすぐ美智のお腹の中からいなくなってしまうんだ。子供を愛する思いの強さが子供の運命とシンクロして、予知能力を生み出してしまったのだろうか? 夢の中身があまりにもリアルでタイムリーだ。

「昨日のことがあったから、少しお腹の中の子供に対して過敏になっているんじゃないか? だから、男の子の夢を見たんだよ」

 譲治はそう言って美智の頭を撫でた。

「ううん、そうじゃないの。この子は必死で私に助けを求めているの。ボクだけ遠くに行きたくないって泣きながら訴えているのよ」

「……」

 つい先ほど医師から宣告された、「奇形児」と「堕胎」の二つのキーワード。これと美智が見た夢が完全にオーバーラップする。これをただの偶然とスルーしてしまう訳にはいかない。

「美智、さっき見た夢のことをもう少し詳しく僕に教えてくれないか?」

 譲治は優しくそう促した。美智はこくりと頷いたあと身体を起こした。この体勢に合うように譲治がリモコンでベッドの背の角度を上げた。これに背中を預けるようにして美智は夢の続きを話し始めた。

「暗くて狭い中に男の子はいた。とても小さいの」

「一人でいたのか? 双子の女の子は一緒ではないのか?」

「女の子の方は、明るくて広い場所にいるの。手足が自由に動かせる広々とした場所。男の子はこの暗くて狭い場所で泣いている。ここから出たいと泣き続けている。ここから出て、もっと自由にのびのび動き回って、もっと大きくなりたいと願っているのに、狭い場所に閉じ込められてしまい、大きくなれないでいる」

「夢の中では二人は別々の場所にいるのか?」

「そうよ。明と暗。女の子はずっと明るい光を浴び続けている。植物が光を浴びて光合成を繰り返して成長して行くように、すくすくと成長している。男の子は暗い場所で、光を遮断することで育つモヤシのように、蒼白くひょろひょろとしか成長しない。いやできないでいる。閉じ込められている殻を破って、明るい場所に行きたいと思っている。けれど、身動きが取れなくてどうすることもできない。夢の中で男の子はそう訴えているの」

 夢の中の男の子はどんなメッセージを妻に送ろうとしているのだろうか? 狭い殻に閉じ込められているから成長ができないと訴えているのだろうか? それとも双子なのに女の子と離れ離れになっていることを悲しんでいるのだろうか?

「さっき、男の子が必死で美智に助けを求めていると話してくれたよね。ボクだけ遠くに行きたくないって泣きながら訴えているって。それは、どういうこと?」

 頭の中に「堕胎」の二文字を思い浮かべながら譲治は訊いた。

「男の子が言っていた、『遠くに行く』という意味は私にも分からないの。でもね、『助けて』と男の子が泣くたびにお腹に激痛が襲ってくるの。まだ、経験はしていないけど、陣痛ってこんなに痛いのかなと想像させるほどの痛み。痛みが襲ってくるたびに、この子は私のお腹の中から出て行こうとしているのではないかと思えて、悲しくて不安な気持ちになってしまうの」

 もし、この状態の中で美智に何も知らせずに男の子の堕胎手術を決行したなら、間違いなく美智はその罪の重さと心の傷から立ち直ることができなくなるだろう。譲治はそう思った。

 医師から受けた検査結果の説明と、男の子だけの堕胎について話す決心をした時に、まるで譲治の心の中を読んでいたかのように、美智が言った。

「お腹の中から男の子が、ボクを連れて逃げてと言っている。泣きながら私に頼んでいる。痛い! お腹が痛い」

 呻くように声を振り絞って美智が言った。そのまま痛みに耐えられなくて、お腹を抱えてうずくまってしまった。

「美智、大丈夫か?」

「痛い……」

 襲ってくる激痛に美智は声も出せないようだ。

「分かった、君を連れて逃げるから、これ以上お母さんを苦しめるのは止めてくれ」

 譲治が美智の腹部に向かってそう声をかけると、嘘のように苦痛に歪んでいた美智の表情が一瞬で笑顔に変わった。

「あなたありがとう。男の子も『ありがとう』を伝えて欲しいと言っているわ」

「美智、すぐにこの病院から出て行こう。この子も、連れて逃げて欲しいと言っているんだろう」

「今すぐなの?」

「そうだ。このまま病院にいたら辛い決断をしなければならなくなる」

「男の子もここから出て行くことを望んでいる。望んでいるのは男の子だけじゃなくて、女の子の方も」

「これから退院することを病院に伝えてくる。この間に退院の支度をしてくれないか。一人で大丈夫か?」

「大丈夫、お腹の子供たちが応援をしてくれているから」

 譲治は病室から出ると、真っすぐに先ほど検査結果の説明を受けた診察室に向かった。

「先生、家内と話をして男の子は堕胎しないことに決めました」

「どういうことですか? 男の子は、このまま放置していても間もなく確実に死んでしまうのですよ。それからの手術だと奥さんの身体に余計に大きな負担がかかってしまいます。医師としてはそのご判断は到底容認できません」

「僕たち二人が息子を絶対に死なせません」

「何を根拠にそのような無謀なことを言われるのですか? 堕胎の手術は一刻でも早い方がよいというのに。すぐに考え直してください。一時の感情に流されてはだめです。これから、私が奥さんを説得に行きます」

「もう結構です。僕たちは、たった今、この病院を退院します」

「退院の許可は出せません。男の子がお腹の中で死んでしまえば、奥さんと女の子の生命さえ危なくなってしまうのですよ。そのことをきちんと理解されていますか?」

「失礼します」

「待ちなさい! あなたの行為は狂っているとしか思えない」

 診察室から飛び出した譲治の後を医師がすぐに追ってきた。院内携帯で病院の関係者に応援を求めている。このままだと退院を阻止されてしまうかもしれない。他の病院関係者が到着する前に病室から出ていかなければ退院を強行するのは無理だ。

 譲治は急いだ。原則病院内は走ってはいけないことになっているが、そんな悠長なことを言ってはいられない。譲治は走った。けれど、一歩遅かった。病院関係者がその前に病室の前に到着した。

「無茶をしては困りますよ、白井さん」

 追いついた医師にそう言われた。

「間に合わなかった」

 心の中で美智、いや子供たちに謝った。

 医師がドアを開けた。

「えっ?」

 驚くことに病室には誰もいなかった。もぬけの殻になっていた。すでに、美智は病室から姿を消していた。

「なんと無謀なことを」

 医師は病院の出入り口を全て閉鎖するように指示を出した。

「このままだと、奥さんの身体が危ないです。ご主人から奥さんに連絡をしてください。すぐにここに戻ってくるように、早く」

「連絡を取る手段はありません」

 譲治はそう答えた。

「先生、白井さんの姿を見かけた職員の話では、すでに正面玄関から白井さんは出て行ったそうです」

 携帯で職員と話をしていた看護師が、そう報告をした。

「なんで止めなかったんだ」

「本日が退院の日だと思ったそうです」

「何をやっているんだ! 貴重な研究材料なんだぞ。こんなすごい奇形児なんてもう二度と出会うことはないかもしれないに」

 感情的になり理性を失った医師の口から、つい本音がこぼれ出てしまった。執拗に男の子の堕胎を勧めた、本当の理由を知ることになる。もし美智が夢を見ていなければ、罪もない子供の生命を奪うことになっていた。息子は自らの力で自分の生命を守ったのだ。

「先生、僕の大事な息子は、あんたの研究材料なんかじゃない。あんたがやろうとしたことは、医師の立場を悪用した犯罪だ」

「あんな奇形児を生んでしまえば、あなたたち夫婦は必ず後悔する。すぐに男の子のことを持て余してしまうのは目に見えている。だから、私が代わりに処分をしてやろうと思ったのに」

 最後まで言い切らないうちに、譲治の固い拳が医師の左の頬に命中した。この衝撃で医師は尻もちをついた。

「この一発は、お前に対する息子と親の怒りだと思え。お前など医師の資格はない」

 そう言い捨てると譲治は病院の出口に向かってゆっくり歩き出した。

 病院を出たタイミングで美智から携帯に電話がかかってきた。

「今、どこにいる?」

「病院から大通りに出て左の曲がった所にあるファミリーレストラン『B』にいるわ」

「分かった、すぐに行く。体調はどうだ?」

「大丈夫。子供たちが守ってくれたから」

 譲治がファミリーレストランに到着した時には、すでに午前十一時になっていた。ランチタイムが近づいてくるにしたがって来店客が増えてくる。どこで誰に見られるかは分からないので、すぐに店から出た。

「このまま自宅に帰るのは避けた方が良いと思う。病院の関係者が先回りしている可能性もゼロではないから」

「私もその方が良いと思う」

 美智も同意をした。

「とりあえず、少し離れた場所にあるホテルに一旦落ち着こう。その後のことはそれから考えよう。一気に色々なことが起きたから疲れただろう?」

「気遣ってくれてありがとう。でも、すごく調子がいいの。病院を出ると決まってから体調が急激に回復してきたの」

 その言葉が強がりではないことは、顔色の良さやこぼれる笑顔からも窺い知ることができた。

 二人は店の前でタクシーを止めると、シティーホテルの名前を告げた。

 ホテルにチェックインして部屋に落ち着いた後、少し休んでからホテル内のレストランで昼食をとった。殆ど食べ物が喉を通らなかった昨日が嘘のように、美智の食欲は旺盛だった。

 食事を終えて、美智はオレンジジュースを、譲治はコーヒーを飲んでいる時に美智からこう訊かれた。

「譲治さんは、ハワイに行ったことはある?」

 全くこれまでの流れとは繋がらない脈絡のない質問だった。

「学生の頃に友だち数名と遊びに行ったことはあるけど」

 質問の意図が解らなかったので、首を傾げながらそう答えた。

「それはホノルルがあるオアフ島?」

「ワイキキビーチとかがある島だよ。貧乏旅行だったから他の島には渡らなかった。本当はハワイ島に行ってキラウエア火山を見たいと思っていたんだけど、経済的な理由で実現しなかった」

「その夢、叶えることができると思う」

「どういうこと?」

「お腹の子供たちがハワイ島に行こうと言っているの」

「ハワイ島? いきなりそう言われても現実的には無理な話だよ。第一、ハワイ島には知り合いもしないし、伝手もない。それに、見ず知らずの土地に行ってもすぐに仕事を見つけることはできないので、路頭に迷ってしまうのがおちだ。それに、今勤めている会社をいきなり辞めるわけにはいかないだろう」

 美智のハワイ行きの提案があまりにも突飛すぎて、真剣に考える気にもなれなかった。この日は美智の勝手な思いつきだろうと聞き流していた。

 この日はホテルに泊まり、次の日、美智をそのままホテルに残し、譲治だけ朝早くに一度自宅に帰ると着替えて出勤をした。譲治は、地元の旅行代理店に勤務していた。担当部署は経理だった。忙しく外回りをする営業とは違い、一日中いや一年中事務所の中だけで働く内勤だった。

 出社すると、すぐに社長に呼ばれた。勤務する旅行代理店は地方の県庁所在地に本社を置くが、県内に五つの支社を持つこの地区では最大手の旅行会社だった。譲治が勤務するのは本社で、支社も含めた全社の経理業務を本社で統括していた。

「異動をお願いしたいと考えている」

 社長室に入った譲治に、ソファーを勧めながら社長がそう告げた。

「どの支社でしょうか?」

 異動は五つある支社以外には考えられない。支社には経理専属ではないが、総務も兼務する経理部員が在籍している。この部署への異動だろうと勝手に考えていた。

「いや、支社ではなく、海外に支店を開設することを考えているで、そこに行ってもらいたい」

「それはどこの国のどの地区ですか?」

「ハワイ州のハワイ島だ」

「同じアメリカ合衆国でも、ニューヨークやロサンゼルスではなくハワイですか。しかも、ホノルルではなく、わざわざハワイ島を選ばれた理由をお訊きしてもいいですか?」

「ニューヨークもロサンゼルスもホノルルも、さんざん多くの観光客が行き尽くしているから目新しさが無くなっていて、今さら多くの観光客を呼び込むことは難しいだろう。けれど、日本人にとってハワイの人気は不動だ。そこで、まだ日本からの観光客が足を踏み入れていない観光地を考えた時、ハワイ島に軸足を置いて日本からの観光客を呼び込むことを考えたわけだ」

「それは素晴らしい着眼点だと思います。ハワイ島支店にオープニングスタッフとして赴任することに異論はありません。ところで、支店長はどなたがされるのですか。日本から赴任する方か、あるいは現地で採用でしょうか?」

「白井君、君に支店長をやって欲しいと思っている」

「えっ、私ですか? 私は入社以来経理畑一本できていますので、支店長への抜擢は身に余るほど光栄なことですが、現実としてそれは無理です」

「やる前から、勝手に自分の限界を決めてしまうのは、私は良いことだとは思わないなあ」

 確かに社長のいうことにも一理ある。

「赴任するとしても、現在妻は妊娠をしており、赴任が出産の時期と重なるタイミングなら、私は妻の出産に立ち会うことを最優先にしたいので、最初からお断りいたします」

「奥さんは今、何か月目に入っているのだ?」

「五か月目です」

「安定期じゃないか。だったら安定期のうちにさっさとハワイ入りをした方が良いな。善は急げというしなあ。今夜にでも奥さんを説得してくれ」

 奥さんと「相談してくれ」ではなく、奥さんを「説得してくれ」だった。すでにこの段階で譲治がハワイ行きを了解したものと社長は思い込んでいるようだ。

 地方の旅行会社が海外に支店を新設する。しかも、その場所がハワイ州のハワイ島。さらには経理担当だった譲治が、このハワイ島支店の支店長に任命された。

 これをただの偶然と捉えることが譲治にはどうしてもできなかった。あまりにもタイミングが合いすぎるのだ。昨日、妻の美智からハワイ島行きを提案された。この提案は美智自身が考えたことではなく、お腹の子供たちからの提案だという。

 入院した病院の医師の陰謀を暴いたのもお腹の中の子供だ。そして、今回のハワイ島行き。馬鹿げた現実味のない話だと取り合わなかった。けれど、一夜明けたらこのハワイ島行きが急に現実味を帯びてきた。

「導かれている」と強く感じていた。そして、悩んでいた。このまま、導かれるままに身を任せてもいいのか? この導きは果たして家族の幸せな未来に繋がっているのか? それとも破滅に向かおうとしているのか? 

 ホテルに戻り、今日もホテル内のレストランで夕食を取っている時に、譲治から転勤の話を切り出した。切り出すタイミングを図っていたら結局食事を終えて、お茶を飲んでいる時になってしまった。この話をすると美智はどんな顔をして驚くだろうか? 色々なシチュエーションを想像しながら話した。

「知っていたよ。この子たちが教えてくれたから」

 呆気なくそう言われた。驚くはずだった美智は平然としており、驚かせることを心配して話をした譲治の方が、美智のリアクションに逆に驚いてしまった。

「譲治さんが今の旅行代理店に就職したのは、私と知り合う前でしょう」

「そうだね。大学を卒業して最初に勤めた商社を辞めた後だから、美智と知り合う半年前に今の会社に転職をしたからね」

「その時から決められていたことらしいよ」

「決められていたこと?」

 正直美智の言っていることが理解できなかった。

「そう、子供たちが言うには、譲治さんが今の旅行代理店に転職して、私と知り合って結婚した後に双子を妊娠する。そして、ハワイ島に新設をする会社の支店に赴任する。この道筋はすでに決まっていたことだということ」

 美智はこんなスピリチュアルめいた話を平然とした顔のままで言った。そんな顔を見ていたら、一瞬自分の妻が全く見覚えにない他人に見えてきた。

「美智も僕と付き合う前からこのことを知っていたのか?」

「まさか、譲治さんと知り合った時にはどこに勤めているかも知らなかったでしょう」

 美智は大きく首を横に振りながらそう否定した。

「美智と出会い、結婚をし、双子を妊娠し、ハワイ島で出産をすることは、すでに定められていた運命で、この運命に導かれて僕たちはハワイ島に行くということなのか?」

「子供たちの話ではそういうことになるよね」

「ハワイ島に行くことが定められた運命だというなら、その目的はなんなのか。子供たちが生まれた後にどんな未来が待ち受けているのか。それを考えると怖い気持ちになってしまう」

「もし、この定められた運命に私たち二人の子供たちが大きく関わっているのなら、譲治さんが感じている怖さよりも、もっと幸せな未来だけを思い描きましょう。わざわざ、遠く離れたハワイ島に行くのだから」

 子供を宿し母親になった時から女性は強くなるというが、今の美智の姿を見ていたらそれは大きく頷ける。でも、ハワイ島に行く前にきちんと話しておかなければならないことがある。母親に助けを求めた男の子のことだ。

「美智、僕の話を冷静に聞いて欲しい。昨日、医師から報告を受けた検査結果の続きの話だ」

「分かった。覚悟をして聞くから話して」

 美智のこの言葉を受けて譲治は、医師から報告された検査結果の続きを話始めた。あとから考えれば、男の子のことを自分の研究材料にするために、今すぐにでも堕胎することを譲治に決意させたかった医師の説明は、男の子が奇形児だということをあまりにも誇張していた。誇張された部分は譲治の判断で割愛し、真実だと思われる内容だけをつないで説明した。

「脳は正常に発育しているのよね?」

「それは間違いないようだ」

「生まれてきて、人を愛することができるなら、例えどんな姿であろうと私はこの子を自分の子供として愛することができる。だから、このまま、お腹の中で大切に育てて、無事に生んであげたい。母親としてそれが最も大事なことだと思う」

 美智はひと粒の涙も見せなかった。母親としての強い覚悟がその表情から感じ取れた。

 ハワイ島支店への赴任は、怖いぐらいに順調にアメリカ合衆国の家族同伴での就労ビザが取れて、二〇〇三年五月の中旬には日本を出発。

 そして、同じ年の九月十日 午後十一時に白井譲治、美智のもとに双子の赤ちゃんが誕生をした。

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