≪第十三話≫
その日から僕は寝る間も惜しんでただがむしゃらに南へ向けて歩いた。
それがクーにとっての一番の報いだと信じて。
どれくらい、何日歩いただろうか。
何日か…いや、一ヶ月ぐらいか…。
歩いた日数もわからなくなり、食うものも食わずもうろうと歩いていた。
そして大きな町が見えた。
町が見え安心したせいか最後の力が沸いてきた。
そして町に着き、とある一軒の家の前で倒れた。
通る人は倒れた私の毛色を見て『なにあれ。』と罵声を浴びせ通り過ぎていく。
もう終わりかと思って目を閉じた時だった。
私が倒れた前の家から人が出てきた。
そしてダンボールに入れられ、その人の家の中に入った。
そこで意識は切れた…。
次、物音で起きた時、白衣の医者が私を見ていた。
この部屋の主らしき人は『起きたみたいね。わざわざ医者も呼んであげたのよ。』と言った。
医者はしばらく私を診、そして『大丈夫ですね。疲労と栄養不足だと思います。』と言った。
『よかったー。』と主は言った。
そのあとミルク粥をもらい、また寝たのだった。
次起きた時、白い雌のネコが私を診ていた。
「だれ?」私は言った。
「私はユリ。あなたは?」
「僕はチャゲ。」
「チャゲは体の具合、大丈夫なの?」
「ああ。疲れていただけさ。」
「そう!よかったー。」
何で私の体が大丈夫なだけでユリは喜ぶのか、私にはわからなかった。
ユリは昔、雑種のペットショップで売られていて主に買われたらしい。
生まれてから一度も外に出た事がないらしかった。
そのせいか私に外の話を聞きたがった。
私は惜しげもなく話した。
その時からだろう、私はユリに恋心を抱くようになったのは。
だいぶ調子が良くなり、外に出してもらえるようになった。
そんなある日のユリとの会話である。
「君も外へ出てみないかい?」
「出たい!でも主が許してくれないよ…。」
「頼んでみようよ。」
「どうやって?」
「玄関の戸を2匹でガリガリするのさ。」
といった具合でしぶしぶ外に出してもらった2匹。
「外の空気は違うね。」とユリ。
「ここの空気は都会だからかほこりっぽいよ。」と私。
「いつも外へ出てどこ行ってるの?」
「ほら、あの店さ。たこ焼きをくれるよ。」
「なにそれ。おいしいの?」とユリ。
「ああ。すごくね。」
と喋りながらその店に行く。
『ニャー。』と私。
『おー!佐々木さん家のチャコじゃないか。また食べに来たのかい?』と店主。
どうやら主が私の事を話したらしい。
私は『ニャー。』と答えていた。
『おや?連れかい?…ユリちゃんじゃないかい!』
「君の事、知ってるみたいだよ。」とチャゲ。
「ほんと?嬉しい!」
『はい!おまたせ!ユリちゃんも食べて食べて。』と進めてくる。
「どう?」と聞く。
「美味しい!こんなに美味しいもの食べるの初めて!」
と大げさに喜ぶ。
それが伝わったのか店の主人も喜ぶ。
その後、近くの公園に寄り、家に帰った。
その日の夜、私はなぜ北のへき地からこの地へやって来たのか初めて告げた。
「ネコの楽園…。」ユリが言った。
「君はそのことについて何か知らないかい?」
「うーん。わからない。」
「僕は明日からまた南に向かおうと思うんだ。」
「え?」
「それがこの間話したクーのためでもあるからね。」
しばらく考えるユリ。
そしていきなり「…うん。よし、わかった!」と言った。
「え?何がだい?」
「私も行く!」
「だめだ。危険な旅なんだよ。」
「だからって来た時みたくご飯も食べずにまたどこかで倒れるの?」とユリ。
「う…。」私は言い返す言葉がない。
「だから私も行く!」
「第一、主はどうするのさ。黙って出て行ったらそれこそ心配するよ。」
「…私は私。自分の生き方は自分で決めるわ!」
「そうか。なら明日の朝まで考えてごらん。」と、少し怒り気味の私。
「わかったわ。」とそ知らぬ顔のユリ。
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