美弥ちゃんの男の基準って、あの時代遅れの武士みたいな……

「浩太、ちゃんと食べてる?

 また痩せてるし。


 眉も細すぎ」


 母親のようなことを言い出す美弥に、浩太は眉をひそめる。


「眉関係ないじゃん。

 美弥ちゃんの男の基準って、あの時代遅れの武士みたいな大輔なんだもんな。


 ――あれ? 大輔は?」


「漢方薬局。

 薬切れたままにしてたみたいだから、行ってきなさいって言ったの。


 あそこの先生、気功もやるしね」


「また胃が悪いの~?

 ストレスの元を断たなきゃ駄目でしょ、やっぱり」


「なにが悪いのかしらね~」

と言う自分を浩太が見ているのに美弥は気がついた。


「……私?」

「他に理由ないじゃん」


「あーあ、こんなに散らかしちゃって」


 急に視線を床に落として言い出す美弥に、

「またそうやって話そらす~」

と浩太は顔をしかめてみせる。


 だが実際、さっきの女性が書類もファイルもなぎ倒して、撒き散らしていったらしく、散乱していた。


「あら?」


 一枚の写真が目にとまり、美弥はそれが引っ付いている書類ごと拾い上げる。


「この四角い顔の人……」


 慌てて浩太がそれを取り返す。


「浩太、それって」


「僕はなにも話さないよ。

 守秘義務だよ、美弥ちゃん」


 間違いない。

 河川敷で遺体で発見された、前田の会社の社長、八巻やまきだ。


「でも、それに付いてる書類、うちの書式よね?

 じゃあ、調べて作成したの、大輔じゃない。


 守秘義務関係ないわよね、うちの仕事でもあるんだから」


 大輔があのとき、じっと写真を見ていたわけはこれだったのか、と思いながら、美弥は浩太が背に隠した書類と写真を取り上げようとする。


 逃げようとする浩太をデスクに膝で壁ドン(?)し、押し倒さんばかりの体勢で美弥は言った。


「吐きなさいよ、浩太」


「なんでだよ。

 美弥ちゃんとこ、結局、八巻さん探しの依頼受けてないんだろ?

 関係ないじゃん」


「そうなんだけど。

 でも、目の前を事件が行ったり来たりしてると気になるじゃない」


「……なにやってんだ、お前ら」


 あら? と振り向くと、開いた戸口に大輔が立っていた。



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