ほら、僕霊能者ってことになってるじゃない



 オートロックのはずだが、大輔は鍵を持っているので意味はなかった。


 大輔の冷たい視線に、美弥は慌てて浩太から手を離した。

 はは、と笑う。


「早かったのね。

 ちゃんと行ってきた?」


 大輔は無言で大きな白い紙袋を投げてくる。


 キャッチすると、中から、ぱふんと漢方独特の匂いを含んだ空気が溢れた。


「よしよし、後で煮出してあげよう」

と美弥は笑う。


 咳き込みながら、浩太は起き上がってきた。


「早かったじゃん。

 僕のところにひとりで美弥ちゃんやるの心配だったんだろ?」


「なに言ってんの。

 あんたの好み、私とは違うじゃない」


 浩太の好みは一美みたいなタイプだ。


 まあ、さっきの女性も好みとは違うようだが……。


「それを言うなら、叶一さんの好みもは美弥ちゃんとは違うよね。


 叶一さんが学生時代付き合ってた子、何人か見たけど、全然美弥ちゃんとは違うタイプ」


 何人かってな、と思いながら、

「あのね。

 叶一さんは関係ないでしょ」

と美弥が言うと、


「じゃあ、なんでいつまでも結婚してんのさ」

と浩太は言う。


「……離婚届は持ってるわよ」


「でも、出してないじゃん」


 浩太にそう冷ややかに言われた。


 いや、確かに出してないけどさ。


 実は、この離婚届、もらったタイミングが悪すぎて、出しそびれてしまっているのだ。


「いやいや、危うく誤魔化されるところだったわ。

 今その話じゃなかったでしょ。


 なによ、この写真」

と美弥はそれを浩太の手から奪う。


 やはり間違いない。

 写真の男は、前田の会社の社長で、先程、遺体で見つかった八巻だった。


「もう~、仕方ないなあ」


 浩太はひとつ溜息をついてから言った。


「小久保ってじいさんからの依頼でさ」

「小久保?」


河原崎真かわらざき まことって男が今幸せにやってるかどうか知りたいって」


 そう言い、美弥の手にある写真を指差す。


「河原崎……八巻さんの旧姓か何か?」


「そう、養子に入って八巻なの。


 一応ほら、僕霊能者ってことになってるじゃない。

 あんまり突っ込んでも聞けないからさ。


 僅かな手がかりから大輔が、八巻家の跡取り娘のところに養子に入ってることを突き止めたんだ。


 古い年賀状一枚でだよ。

 凄いよ、あんたの旦那」


 そうか、最近見ない日があると思ったら――


 ってか、旦那ってなに、と美弥は赤くなる。



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