愛ゆえの殺意
通行人C
第1話
彼は帰ってきてすぐ、私が作ったご飯を食べて、お風呂に入って寝てしまった。なんとなく疲れているようだった。彼の寝顔は、相変わらず可愛くて、少し眺めてから、私は彼が食べたあとのお皿を洗い始めた。皿洗いをしながら、夜という静かな空気にあてられてか、なんとなく、彼もいつかは死んでしまうし、その原因は、必ずしも寿命だとは限らないことを考えていた。彼が事故で死ぬ可能性もある。重い病気にかかって死ぬ可能性もある。でもそれは、原因が私ではない死で、私が原因ではない理由で死んでしまう彼が、この上なく憎らしく思えた。
皿洗いも終わり、自分も寝る支度をして、彼の隣に入る。ベッドは、同居するときに、彼がこれにしようと言って絶対に譲らなかったセミダブルだ。彼の選んだベッドで、彼の隣で眠れる幸せを噛み締めながら、同時に、先程考えていたことを思い出した。私の隣で、安らかな寝顔を見せる彼は、どうしようもないくらい可愛くて、憎らしくて、私の中で「好き」が溢れた。
ああ、好き。あなたのことが好き!大好き!!どうしても好きなの!愛してる!!だから、私の手で死んで。私のために死んで!
彼の上に被さり、手を彼の首に伸ばす。
そのとき、彼が寝返りを打った。眠りが浅かったのか、私の気配を感じたのか、彼が薄く目を開けた。
「ん、どうした?」
その言葉で、私は我に返った。素早く手を引っこめる。
「眠れないのか?」
彼はそれに気づかず、寝ぼけた声でそう言った。
「ううん、もう寝るわ。」
そう言いながら、私は彼の上から退いて彼の隣に再び入った。
「愛してる。」
私は、彼への愛を確認するように言った。
「ああ、俺も。愛してるよ。」
彼はもうすでに目を閉じて、半分寝ながら、ごにょごにょとそう言った。
私は彼を殺そうとした。でも、頭では、そんなことをすれば、彼とはもう会えなくなることを知っていた。それでも殺そうとした。それは彼を愛していたから。でも今は、彼ともう少しこうやって生きていたいと思う。
寝ている彼の手をそっと握る。彼の手は温かかった。私は彼の手を握ったまま、静かに眠りに落ちた。
愛ゆえの殺意 通行人C @DandelionZinnia
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