第4夜

月日は流れた。

今日はクリスマス当日。

あなたは誰を想い、誰の隣にいますか?


桜歌さくらの隣には2人の影。

1人はあの時のバイトの先輩の姿。

そしてもう1人は桜歌の手を引く小さな影。

まだまだ小さな手。

3歳になる息子がいた。

さらに、桜歌のお腹は大きく膨らんでいた。

来年の春には娘が生まれる。


今日は息子に初めてのサンタさんが来た。

息子が初めて頼んだのはゲーム機。

保育園の友達が持っているからとずっと欲しがっていたものだ。

朝起きると頭の上に不織布の青い袋に入れて置いてあったそうだ。

「ねぇねぇ、サンタさん来た!開けていい?」

大喜びで騒ぐ息子に思わず2人は見つめ合い、そしてふっと笑顔になる。


今日の夜はチキンとケーキを食べる予定だ。

生まれた時から少食だった息子だが、最近はキッズプレートの1人前が食べられるようになった。

そのタイミングに合わせて買おうと2人で決めた。


妹が出来たら甘えん坊のお兄ちゃんはどうなるだろうと不安と期待でいっぱいだ。




おじいちゃんが亡くなったあと我が家は色々な書類ややることに追われた。

息付く暇もなく忙しなく動いていることもあり悲しさは少し紛れた。


遺品の整理をしていると1冊のノートが見つかる。

おじいちゃんが生前つけていた日記だった。

日記を書いているなんて聞いたことがなかったしおばあちゃんすら知らなかった。


そこにはおじいちゃんの夢が書かれていた。

『みんなが団らんできるような店を開いてみたい』

いくつかやりたいことが書かれていたが、これがすごく印象に残った。

ずっとサラリーマンをしていたおじいちゃんは引退後も店をしたいなんで1度も言ったことがなかった。


私は調理師の学校に通い、調理師となった。

初めは見習として有名店に就職し腕を磨いた。

1人前になるまでは何年もの時間がかかった。


そして古民家を改装し私はついに自分の店を開く。

そこはおじいちゃんの夢でもある団らんを意識してみんなで席を囲むようなテーブルになっている。

地域の人が気軽に来れるような値段設定、営業時間を意識した。

食材は地域のものを取り入れた。

ランチタイムにはママ友と、ディナーには学生の夜ご飯からちょっとしたデートにも使えるようにメニューも決めた。


雪の降る今日、クリスマスの日がプレオープンの日だ。

地域の人たちの感謝を込めてこの日を選んだ。

オープンのためにドアを開けると列ができていた。

今日がオープンと知ってメニューの書かれたチラシを持ってみんな駆けつけてくれていた。

オープンと同時に席は満席になる。

懐かしいみんなが集まりほっこりした気分になる。

「こういうとこ欲しかったんだよね」

「いやー懐かしいね」

みんなのその声がいちばん嬉しかった。

オープンからずっと満席状態でプレオープンは終わった。

「おじいちゃん、おじいちゃんの夢はこれで叶った?」




俺は大学受験を控えている。

転校生に驚いていた俺は高校であの町を出た。

寮に入り知らないことが沢山あった。

新しい友達も沢山できた。

もちろん地元も好きだ。

今でもよく地元に帰っている。


大学の進路を選択する時、俺は東京への憧れもあり東京の大学を選択した。

同じように東京に出る人が他に3人いた。

夏のオープンキャンパスは旅行気分だった。

高いビルに囲まれるキャンパス。

それだけでなんだかワクワクした。

キャンパスにいる人たちもみんな輝いて見えた。

こんな所に通いたい、それはオープンキャンパスで強くなった。


そこからはもう勉強の日々だった。

そして受験当日、母と共に東京へ向かう。

母も緊張しているようだった。

結果発表は遠いのでネットで確認した。

今でも自分の番号を見つけた時の喜びを覚えている。

何度も数字を確認し両親とハイタッチをして喜んだ。


期待と不安を抱えながら俺は東京での一人暮らしを始めることになった。

夢の大学生活に心を踊らせたのもつかの間、物価の高さに驚く。

俺はバイトを始めた。

バイトにサークルに忙しくも楽しい日々を過ごす。


11月初旬の学園祭、サークルから参加することになった。

俺は屋台の店番をしていた。

そこでふとよく知る名前を聞いた気がした。

「七瀬さー絶対彼氏いるだろ笑」

「えーほんとにいないですよー」

振り向いた時には声の主は見当たらなかった。

名前を聞いただけなのにドキドキした。

久々の緊張感だった。


それから俺はもしかしてとその事が気になって仕方なかった。

どこかで会えるような気がしていた。

しかし広大なキャンパスで小学校の時の1年間の記憶を頼りに探すのは至難の業だった。


何の気なしに俺はサークルの友達に七瀬さんの話をした。

すると驚くことに彼は同じ学部だと言う。

「もしその七瀬さんだったらそれめっちゃ運命じゃん」

と茶化す友達。

「べ、別にそんなんじゃねぇって」

と言いつつ気が気ではなかった。

「今度サークル連れてきてやるよ」

「え、いや、いいって」


そんな会話をした1週間後、本当に彼は七瀬さんを連れてきた。

そしてその七瀬さんはかつての七瀬さんだった。


2人は出会った瞬間意気投合した。

そしてそれからよく出かけるようになった。

12月になるとイルミネーションも見に行った。

すごく楽しいひと時だった。

そしてクリスマスの日、ついに七瀬さんは俺の恋人になった。



クリスマス、今日あなたは誰と一緒に過ごしますか?

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クリスマスの奇跡 紫栞 @shiori_book

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