第32話
既存のMMORPGに対してフルダイブVRの明確な優位な点は、ステータスの数値の不利をプレイヤースキルでカバーができる点にある。
例えどんなに低レベルで格上の敵を相手にしたとしても、時間さえかければ理論上は勝利することができる。
だが、プロディアはそうではない。
どれだけレベルを上げようが、プレイヤースキルを磨こうが、そんなことお構いなしに容赦無く死を突きつけてくる印象しか感じられなかった。
そもそもプレイヤーが上げることのできるレベルの上限は100。
前提としてまずレベルの暴力は通用しない。
加えて仕様なのかは分からないが、本来であれば見えるはずのHPゲージが表示されていない。
というかHPが設定されているかどうかも怪しいところだ。
「これ……逃げられるのかな?」
ポツリと呟いた自問に脳が無理と即答する。
バトルリザルトが出現していないのでまだ戦闘中判定だろうし、全速力で逃走を図ったとしても光の奔流に飲み込まれる未来しか見えない。
さっきから人間が害虫に向けるような殺意がプロディアから痛いほど突き刺さっている。
ソウジンを微塵も脅威と思っていないが、だからといって視界に映った以上は決して逃しはしないという意志がひしひしと伝わってきていた。
断言できる。
今のソウジンでは、どれだけ足掻こうが勝機は皆無だ。
いや、仮にもしソウジンのレベルがマックスの100で充実した装備を整えていたとしても、結果が変わることはないだろう。
それくらい実力の差は歴然だった。
だからといって、諦めて無抵抗のまま倒されるのは何か違う。
どうせ散るしかないのなら、今出せる全力をぶつけてから玉砕したい。
腹を括り、ソウジンは上空にいるプロディアを睨め付ける。
するとソウジンの視線に気がついたのか、プロディアが翼を羽ばたかせ、ゆっくりと地上に降りてきた。
間近で見るプロディアは想定していたより一回り大きく、全長はおよそ25メートル近くある。
あまりの巨大さに気圧されそうになるが、地面を強く踏み締めぐっと堪える。
そして、手裏剣を投げ放つべく腕を振り上げた瞬間――プロディアが大きく口を開けると、僅かな溜め動作の後に極大な黒い光のブレスが放たれた。
「オーバーロードっていうのは、NPCたちの間で噂されているメチャメチャつよつよエネミーのことだよ。サービス開始当初からプレイヤー間でも色々情報は出回っているんだけど、運営のイジワル〜〜〜な調整のせいで未だに討伐報告は出てないんだよね」
「なるほど。通りであんなに強かったんだ」
朧冥龍プロディアとの邂逅から約30分後。
無事にHPを全損させ拠点送りとなったソウジンは、ギルド拠点に帰ってきていたロビンからドラテ内におけるエネミー講座ユニークエネミー編を受けていた。
「オーバードはフィールドを歩いているとたまに見かけるんだけど、オーバーロードは完全にランダム出現だったり、特定の条件を満たさないと会うことすらできないから、実物を目にしたプレイヤーはあんまり多くないんだよ」
「じゃあ、俺があそこでプロディアと遭遇したのは……?」
「んー……事故みたいなものかな。道を歩いていたら晴れてるのに空からピンポイントで雷に打たれたみたいな感じの。まあ、とにかく災難だったね」
「事故かあ……」
そう言われてしまうと納得せざるを得ない気がする。
実際に戦ってみた結果、プロディア一言で表すとしたら生ける災害だと、ソウジンはそう強く感じていた。
出現するのに何の予兆も規則性もない。
なのに現れた瞬間に出くわしてしまったというだけで、プレイヤーは成す術もなく葬られることが確定する。
もうその場に居合わせた自分が悪い、という結論に至るレベルだった。
それでもソウジンは我ながら頑張った方だとは思っている。
初撃のブレスは咄嗟にスケープゴートドールを使用したことで九死に一生を得ただけでなく、絶え間なく頭上から降り注ぐ光の奔流を避け続けて3分は耐え切ったのだから。
最終的には時間が経過するにつれて一度に落ちてくる光の奔流が増えたせいで、逃げ道がなくなってデスしてしまったのだが。
その間、与えたダメージは0である。
ソウジンの火力不足や防御力が高いとかそういった理由ではなく、そもそも攻撃自体が通らなかったのだ。
投擲も斬撃も可能な限り当て続け、何なら半ばヤケクソで煙玉も投げつけてみたのだが、どれもプロディアに命中した途端、プロディアの身体から霞むようなエフェクトが発生すると同時にすり抜けてしまっていた。
本気で倒すことがあったとしても、あの無敵ギミックを解除しなければ、まず勝負にすらならないだろう。
「ちなみに私たちもプロディアと遭遇したことがあるんだよ」
「え、そうだったの!?」
「ギルドを結成したての頃に一度だけね。いやー、今思い出しても散々だったなー。最初に上空からいきなり降ってきた光でドラちゃんが消し飛んで、その後地上に降りてきたプロディアにレッドが考えなしに突っ込んで返り討ち。それでうーたんともう1人はブレスで蒸発して、ラッキーで生き残った私もソウジンくんと同じようなやられ方をして、はい、全滅☆ って感じで今でも苦い思い出です」
言いながらロビンは目元でピースをして決めポーズを作ると、すぐに哀愁漂う顔に変えて肩を竦めてみせた。
「へえー、でも皆んなが倒される姿はなんか想像できないや」
「お、言ってくれるね〜! けど、それくらいオーバーロードは強いってことだよ。でもでも、いつか絶対にリベンジしてやるつもりでいるから、その時はソウジンくんも一緒にプロディアに挑もうね!」
「う、うん!」
「よーし、目指せ打倒プロディア! おー!」
声高らかに拳を突き上げるロビンに続けてソウジンも「おー」と小さく拳を上げる。
こうして、いつ達成できるか目処すら立っていないが、ソウジンの中で新たにプロディア討伐が目標として加わるのだった。
Dragon Tale Online〜汎用性を極めた均等振り初心者NINJAの冒険奇譚〜 蒼唯まる @Maruao
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