第31話

 あれから少ししてソウジンは、ギルド拠点から農耕の村へと戻り、次の拠点に向けて冒険を再開していた。


 次に目指す拠点は”第1BCベースキャンプ”。

 その先にダンジョンが待ち構えており、その手前の拠点名は全て第◯BCで統一されているらしい。


「ダンジョンかぁ。どんな感じのところなんだろう」


 これはソウジンの勝手な印象だが、等間隔に松明が設置された石造りの回廊というイメージがある。

 ダンジョンと名のついたゲームアプリのCMによる影響かもしれない。


 街を出てしばらく道を進み、ヨゾラがいた丘の辺りまで辿り着いた時だ。

 右方向から足音がしたかと思った次の瞬間、黒い影がソウジンの喉元を狙って飛びかかってきた。


 同じようなことが数日前にも起きていたからか、ソウジンは冷静に後ろ飛び退いて回避する。


「――っと、前のようにはいかないよ」


 攻撃を外した黒い影はそのまま真っ直ぐ進んで距離をとった後、ソウジンの方へと振り返った。


「……やっぱりウルフか。となると、近くに仲間がいるよね?」


 すぐに周囲を見渡すと他に前方に1匹、後方に1匹のウルフが待ち構えている。

 計3匹のウルフの群れは三角形を作るようにしてソウジンを取り囲んでいた。


 ソウジンは即座に手裏剣を構え、ウルフの攻撃に備える。


 トウテツと酷似しているのであればウルフの行動パターンは、喉元を狙った飛びかかり、足元を狙った噛みつき、それと前脚での引っ掻き攻撃の3種類だ。

 パリィを狙うとしたら、予備動作が大きく空中で身動きの取れなくなる飛びかかり一択、他は距離を詰められないようにクイックステップと立ち回りで対処する。


 最初にさっき攻撃を仕掛けたウルフが距離を詰めてくる。

 飛びかかりなら間合いに入る直前に一旦動きが止まるのだが、その気配はない。


 となると、足元への噛みつき、もしくは引っ掻き攻撃のどちらか。

 どちらにせよソウジンのやることとしては、反対方向に足を運ばせ、攻撃の範囲外に逃れつつ、他のウルフの追撃への準備となる。


 これもトウテツの行動パターンだが、群れで行動している場合、連続で攻撃してくるか、同時に攻撃してくるか見極める必要がある。

 ただ、今のウルフの行動でトウテツとパターンが一緒だと踏んだのか、ソウジンは左右の手裏剣をまだ動いていないウルフに向ける。


 すると今度は、前後にいるウルフが同時に飛びかかりで攻撃を仕掛けてきた。


 案の定、モーションもトウテツと酷似しているが、動きは若干ウルフの方が遅い。

 フィールド上に出現するエネミーのレベルがエリアに生息するエネミーよりも低く設定されているせいだろう。


 群れの数も少ない上に違うエネミーの邪魔もない。

 そうなるとトウテツの動きに慣れたソウジンにとって、ウルフの飛びかかりをパリィするのは簡単な作業だった。


 とはいえ流石に2匹同時にパリィで受け流すのはリスクが高いので、前方にいるウルフに意識を集中させ、爪が身体を捉える直前で手裏剣で受け流す。

 手裏剣の刀身と爪が触れた瞬間、前方にいたウルフが勢いそのままに後方から襲いかかってきているウルフへと突っ込んでいく。


 互いのウルフの頭部同士が激しくぶつかり合うと、HPゲージの半分近くが削れ、更に頭上には5、6個の星型のエフェクトがクルクルと円を描きながら浮かんでいた。


 このエフェクトは状態異常”スタン”によるもので、頭部に強烈な打撃攻撃が加わると発生することがある。

 無論、プレイヤーもこの状態異常になってしまうことはあり、スタンになると10秒近くの間、勝手にふらふらとした状態で棒立ちになるので、頭部に対する攻撃は注意しなければならない。


 ともあれ、これでウルフ2匹の動きは止まった。

 この僅かな猶予の間に、噛みつきを仕掛けてきたウルフを一気に仕留めにかかる。


 レベルも装備も技量も足りている今なら、ゴリ押しでも倒せるはず。

 いつの間にか距離を取っていたウルフの元に近づこうとして――


「――避けて!!!」


 どこからか聞こえた叫び声に導かれるように、ソウジンは即座に後ろに振り返ると同時に、ハリウッドダイブさながらに全力で体を投げ出しながら、クイックステップを発動させた。


 刹那、上空からソウジンが立っていた場所に黒い光の奔流が降り注ぎ、周囲の地面もろともウルフを全て消し飛ばした。


「……え、何が起きたの!? というか、さっきの声は誰が……?」


 急に一転した様子にソウジンは混乱を隠し切れない。

 というか、誰であっても急にダメージ判定のある光の柱が落ちてきたら平静でいられないだろう。


 とりあえず光が落ちてきた方向――上空を仰いでみる。


 そこにいたのは禍々しい青黒い光を纏う漆黒のドラゴンだった。

 スフィンクスやペガサスのように体の下に四肢が真っ直ぐと伸び、背中には大きな翼が生えている。


 離れているので正確な大きさは分からないが、恐らく全長は20メートル近くあるように見える。

 見ているだけで破滅を連想させるようなそのドラゴンには見憶えがあった。


 大きさこそ違うが、すぐ近くの丘で眠った時の夢で出てきたドラゴンと姿がそっくりだった。


「――プロディア」


 ドラゴンの全貌を視界に捉えると、エネミーの情報が開示される。


 オーバーロード『朧冥龍プロディア』――Lv.130。

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