第14話 ほつれていく糸

帰り着いてから

電話をしようと

スマホを握りしめるけど

胸に広がる不安と

嘘であって欲しいと願う気持ちが

心臓の鼓動を早めて

スマホを握る手を震わせ

やっとの思いでコールする


何度目かの着信音が

彼の声に代わる


もしもし


耳に響く声は

こんなに優しいのに


もしもし

あのね

友達があなたの姿を見たと言うの

あなたが東京にいるはずの時に

この街で見かけたと言うのよ

人違いだよね

あなたじゃないよね


そうかあー

見られていたんだね

ごめんごめん

東京に来た友達が帰るときに

寂しくなって一緒に帰ってきたんだ

帰ったんだけど

二日目には戻ったから

君に会う時間も無かったし

だから連絡しなかったんだ

ごめんね


だったら

ゴールデンウィークが終わってすぐに

帰っていたって

連絡してくれることだって

出来たじゃない

何も言わないで黙っているなんて

酷いよ


うん、ごめん

本当にごめん、悪かった


何故この時

帰ってこれて良かったねって

短くてもこの街で

時間が過ごせて良かったねって

楽しい休暇が過ごせて良かったねって

彼の気持ちを思い遣ることが

出来なかったのだろう

何故この時

楽しい休暇として

思い出に残るはずだった彼の思いを

汲み取ることさえ

出来なかったのだろう

それが出来ていたら

もっと違う結果になっていたのかな

でも出来なかったんだ

私の感情を彼にぶつける以外

何も、、


それからのメールは

日常的な

定型文のような

温かさを忘れたような


仕事が忙しくなったから

毎日は送れないよと

そんなメールが届くようになる


心の綻びは

一本の糸がずっと

元に戻れないまま

どんどん広がっていった

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