第11話 もう一度海へ
移動になった話を聞いてから
二ヶ月後
彼は空港から東京へ発って行った
空港で見送りたかったけど
絶対に泣くのがわかっていたから
前の日に
何時ものように
喫茶店で待ち合わせをして
海が見たいとわがままを言って
海へ向かった
車の中では
私も彼も何一つ言葉を交わさずに
ただ黙って
流れ行く海岸線沿いの景色を
見つめるだけ
目線を横に移せば
幾度となく見つめた
彼の横顔
手を出せば届くこの横顔が
明日から
手の届かない場所になる
だから
ずっと見つめていよう
だから
もっと見ていよう
そんな私に気付いた彼は
そっと左手を差し出して
私の右手を握りしめてくれる
あったかい、、
忘れないよ
この手の
このぬくもりを
海へ着き
真っ直ぐな海岸沿いの道を
手を繋いで歩いてく
海の方では
季節外れのサーファーたちが
波乗りを楽しんでいた
海の風が少し寒いね
フェニックスの木が揺れている
そんなことを言いながら
彼は
私の体をギユッと
強く強く抱きしめた
その時
私の中で堪えていた何かが
どっと溢れて
声になって
私は泣いた
泣き止むのを
待っていたかのように
彼は
ごめんねと
優しくキスをする
海の波の音が
私の耳に
繰り返し繰り返し
囁いていたのを覚えてる
また会えるよ
また会えるよ、と
元気でいてね
その一言だけを
やっと言えた
まだ春浅き海の側で
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