第5話 ブレスレット

最悪の映画デートの後

私は彼に連絡をしなかった

彼の方からも

何の連絡もなかったので

このお付き合いは

こんな形で

こんなにあっけなく

終わってしまうものだったのかと

重苦しい気持ちになるけれど

知らなかった彼の一面を見て

早く知ったのは良かったのだと

思い込もうとしていた


それから数日が過ぎたある日の午後

家のインターホンが鳴る

家族は留守だったので

「はーい」と私が出ると

そこに立っていたのは

彼と男友達の二人だった

突然の訪問に

驚きを隠せない私は

震える声で

でも

怒りを込めて

「何かご用ですか」と聞いた


ごめん

本当にごめんなさい

あの日申し訳ないことをしたと

君に謝りたくて

許されるとは思っていないけど

君の顔を見て話したかった

あの日君に会いに行く前に

親父と喧嘩をして

ムシャクシャした気持ちのまま

君に会いに行ってしまった

君には何の関係も無いのに

八つ当たりをしてしまって

大人気ないことをしてしまったと

君が立ち去った後

すごく後悔したよ


あの日のデートは

初めてのデートだったの

ドキドキして

嬉しくて

楽しみを込めて待っていたのに

あの態度は酷いよ

私、ずっと苦しかった


ごめんね

たくさん傷つけたよね

本当にごめん


その時

隣にいた男友達が

「紹介した俺も謝るわ

本当にごめんね

こいつ、あの日から

ずっと後悔しているから

許してやってくれないか?」と言う


本当に後悔しているの?

またあんな態度を取らないとは

言えないでしょ?


これから先は

そんなことはしないと約束するよ

だからもう一度

チャンスをくれないか


彼の顔を見たら

本当に申し訳なさそうに

詫びる顔をしていた

きっと私は

始まったばかりの恋を

終わらせたくなかったのだろう

喫茶店で会った時に

小さな恋の火は

点いていたのだから

「今回は許す

でも2回目は無いからね」


彼は

パッと頬を赤くして

「ああ、許してくれるの?

嬉しいよ。ありがとう!」と笑った


そして

ガサガサとポケットの中を探ると

小さな箱を取り出した

「これ、お詫びのしるしと言ったら何だけと」

「えっ、私に?

開けてもいいの?」

「ああ」


小さな箱の包み紙を剥いで

蓋を取れば

入っていたのは

小さな誕生石の付いた

ブレスレット

小さなオパールが

虹色に光っていた


こうして

新なスタートを切った私たち

この恋が

私にとって

一生忘れられない宝物になることを

その時は思いもしなかったのだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る