第4話 最悪のデート

それから二週間後に

私と彼は初めてのデートの約束をした

お決まりのコース

映画を見に行くことになった

何の映画を見たっけ

映画の題名は忘れてしまったけど

ラブストーリーの映画だったのは

ほんの少しだけ

覚えてる


映画館の前で待ち合わせをして

私が先に着く

異性を待つことが初めてで

すごい胸がドキドキして

緊張で身体中が

小さく震えて

どうすれば良いのか

自分でも分からなかった


10分程待った時

信号を待つ彼の姿が見える

急いで駆け寄るでもなく

無愛想な感じで歩み寄る彼に

私は違和感を抱いた

「待たせてごめん」

「入ろうか」

喫茶店で会った時とは

まるで別人のように

笑顔もなく

会話もそれだけで

彼はさっさと映画館に入って行く

あまりの違いに戸惑い

どうしてなんだろうと思いながらも

何も言えないまま

付いて行くしかなかった


館内の座席に座れば

彼は相変わらず不機嫌な様子で

足を前の椅子に

投げ出すように掛けて

腕組みをして目を閉じ

話すことすら出来ないまま

上映のブザーが鳴る


私が

ラブストーリーの映画の内容を

覚えていないのは

その時の彼があまりにも衝撃で

私は何か間違ったのかと

ずっと自分の心と

問答を続けていたからかもしれない

上映中

彼は最後まで

眠っていただけ

私にとってその時間は

苦痛以外の何者でもなかった


映画が終わり

映画館の外に出た私たちは

あの喫茶店で食事をする予定だったけど

先に行こうとする彼を呼び止め

「私、ここで帰るね」と

声をかけた

「えっ?」

立ち止まる彼をそのままに

私は真っ直ぐバス停まで走る

心の中を

重い重い暗闇が

覆い被さっていくようで

苦しくて苦しくて

彼の傍に居たくなくて

その場所から離れたかったのだ


最悪だ

最悪だ

何なのこのデート

溢れる涙を堪えきれずに

その場を走り去る私を

彼は

追いかけて来なかった

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