第3話

 話をするため務と瀬良が屋上にでると、粉雪はやんでいた。


 「おっ、陽がさしてる」


 雪雲のすき間から光の柱がふりそそぎ、雪の大地をきらめきで染め上げる。


 「夏目さんに告られてたよね」


 無言でうなずく務。


 「それが答え、それ以上は話したくない」


 務が首をふると白い息も左右にモヤった。


 「それと瀬良さんが僕を無視することは関係ないよね」


 普通は関係ある、関係ないと言い切る務に怒りより、あっけにとられる瀬良。


 「わかってなくて言ってるなら殴ってやりたいし、わかってて言ってるなら蹴り飛ばしてやる」


 「暴力は勘弁」


 こんなときでも爽やかに微笑む務に。


 「誰にでも優しく微笑むイケメンって、それだけで罪深い」


 言われて笑顔を引っ込める務。


 「誰にでも笑顔を振りまくほど、僕は博愛主義者じゃないけど」


 「二人を廊下で見たとき思ったの、外見と中身が牛丼並もりな女子には勝てる部分がまったくないって」


 務を放置して一人で話す瀬良。


 「んでさ、恥ずかしくなった」


 「恥ずかしい?」


 「園児みたいに好き好きアプローチしてることが、もっと現実見ろって、心の声に気付かされたの」


 しみじみ語る瀬良を、ジッと見つめてそのあと鼻で小さく笑う務。


 「なに笑ってんだテメエ」


 「テメエはやめれ」


 頭に血がのぼる瀬良をスルーして、今度は務の方が話しだす。


 「今さらな話だけど、瀬良さんは芸能人にでもなるつもり」


 「ハイ?なんないよ、芸能界やエンタメは見る方に徹するタイプだから」


 「だったら勝負するところが違う気がする、評価だって外見や学校の成績に偏ってる気がするけど、そんな小さなことにこだわる人だったとは、意外」


 「意外で悪かったわね、なにもわかってないよ務くんは、女子にとって外見や頭の良さはオスを落とすための重要な要素、外見並もりで頭はちゅうな私はそれだけで死活問題、優秀な遺伝子を残すための熾烈な女の争いでは、圧倒的に不利なわけ」


 瀬良の説明は思った以上に論理的だったが、務はいまいちピンとこず、小さな声で。


 「瀬良さんは薔薇とタンポポどっちが好き」


 務にしてはなんとなく幼稚な表現に瀬良は眉をしかめ。


 「一般的には薔薇の方が高価でえるんじゃない?」


 「一般じゃなく、瀬良さんの意見を聞いてる」


 考えたふりをして。


 「私はヒマワリが好き」


 「ひねくれてるな、それだよ、僕の言いたいのは」


 屋上に積もった雪の上を歩いて、フェンス越しにグラウンドを見つめる務。


 「薔薇もタンポポもヒマワリもそれぞれ個性が違う、そして生き残る方法も違うよね」


 「私は植物学者じゃないからわかんない」


 「学者じゃなくてもわかるよ、夏目さんは確かにキレイで頭もいいけど、瀬良さんは元気で周りを楽しませてくれる、これに優劣ってつけれると思う」


 「異性間の恋愛に元気で楽しいって要素いる?」


 「じゃあ、なんで瀬良さんは一般的にキレイな薔薇より、ヒマワリが好きなのさ」


 「説明が長い、うざい」


 「長くてうざいのは僕もわかってる、でもこの表現が一番わかりやすいと思って」


 肩をすくめてスマイルの務に、瀬良もつられて笑顔。


 「務くんの言いたいことはわかる気がするけど、幼いときから自覚してんのよね、元気で楽しいってことが恋愛感情には発展しないって、おバカなりに理解してきた」


 「どんな風に理解してきたかは聞かないけど、選ぶ基準はみんな違う」


 「ほぉ、だったら夏目さんより私の方を恋人として選んでくれる?」


 いつもの調子で軽く言ったつもりが、務の眼差しを真剣にした。


 「それって僕と付き合うってこと?」


 あまりの真剣な熱い眼差しに瀬良は耐えきれず、鼻とホホと耳までまっ赤にして背中をむける。


 「それが君の答えだよ、僕も今はそれでいい思う、時間をかけてお互いを長い目で見た方が、視野も広くなるしね」


 「ごめん」


 瀬良は確かに務に憧れている、しかしそれが恋愛感情にまで発展するのかと問われれば、答えが出ていない、それを目の前の務に見透かされたことが、自分でもショックな瀬良。


 気まずい空気を一変するため、瀬良はいつものようにふざけて見せる。


 「無視されてようやく私の存在の大きさに気づいたろ?」


 「まるでフラれた形の僕に、よくそんな憎まれ口を叩けるね、たいした性格だよ瀬良さんは」


 「必死かよってレクチャーに寝落ちしかけた」


 「ここで寝たら死ぬよ」


 「ところで夏目さんの告白はどうなったの」


 「話したくないんじゃなかったっけ」


 「人の噂は蜜の味」


 「具体的なことはノーコメント」


 「怪しいな」


 屋上扉まで進みドアノブに手をかける務。


 「怪しいのは君の目つきの方、だいたい僕と夏目さんが付き合うことになってたら、屋上でこんな風に女子と二人きりで話すなんてあり得ない」


 「本妻が夏目さんで、私がおつまみの愛人だったらアリうるっしょ」


 「瀬良さんはそんな価値観の僕に興味を持つんだ、がっかりだな」


 「安心して、私は務くんにとっておつまみの柿ピーでも我慢するから」


 「僕のイメージがどんどんゲス野郎に・・」


 そんなこんなで二人仲良く階段を降りていく。



 翌日も氷点下の朝に欅坂高校めざして歩く光矢務に、忍びよる影。


 「おはよう務くん、あなたの愛人Bだよ」


 瀬良の際どいおふざけにしばらく沈黙した務。


 「君を愛人にするようなお金は持ってないよ」


 「体で払いな坊や」


 「それは明確な憲法違反の発言だね」


 「昨日さぁ、ウチのチワワと散歩してたらさぁ」


 「すべって転んだ」


 「普通に散歩して家に到着したの」


 「これを聞かされる僕の立場は?」


 「雪でぬれたチワワの足を雑巾でふいて、ついでに肉球をもんでやったぜ」


 「チワワちゃんが気の毒」


 「それがさ、チワワの目がもっとやってって快楽ってんの、からさぁ、ウリウリ攻めてやった」


 「楽しそうだね」


 「お餅をストーブで焼いてたらね」


 「うん、その話は教室に入ってからみんなと聞くよ」


 「それまで保温しておきますか旦那」


 雪道の登校中、ようやく日常にあってほしい状況を取り戻した務の心はポッカポカになり、この時間が長く続けばいいと思いながら、表門をくぐるのであった。



 おしまい。


 

 番外タイトル『お餅を焼いたらどうなった?』編。


 瀬良「砂糖醤油で食べたの」


 務「焼いた後のエピソードが抜けていきなり結論?話のネタは過程を無視したら台無し」


 人物Z「そもそも何を砂糖醤油で食べたのか」


 瀬良「柿ピー」


 人物Z「さすがは古月さん、斬新でチャレンジャーだ、そのケモノっぽさにホレボレする」


 人物A「ダマされてるぞ、純真無垢な体育会系男子」


 眉子「なんの話?」


 瀬良「柿ピーは人類を救うかについて、ディスカッションしてた」


 耳子「クリームコロネは駄菓子かスイーツかについて、私もディスカッションしたい」


 瀬良「クリームコロネは断然主食、私は務くんにとって間食かんしょくの愛人B」


 人物Z「光矢ぁあああ!!貴様ぁあああ!!」


 務「お後がよろしいようで」


 眉子「愛人だって」


 耳子「キャいん!だったら私は光矢くんの愛人Cに立候補する」


 人物Z「おのれぇぇええ!一人ならず複数の女子をつまみ食いするとはぁああ!!」


 人物A「ほどほどにね、光矢くん」


 瀬良「私は柿のタネだから耳子はピーナッツ、キープの眉子は胡麻つぶ」


 眉子「誰が胡麻つぶだ、本気で怒るよ私は」


 人物Z「俺は胡麻つぶでも我慢するぞ」


 眉子「知ってる人物Z、ゴリラは人間の女子とは付き合えないこと」


 瀬良「ひゅうひゅうだね、ハムスターとゴリラのカップル成立」

  

 眉子「あんた瀬良、いっぺんめるよ」


 人物Z「ハムスターでも俺は全然いいぞ」


 務「お後がよろしいようでと言ったよね、もういい加減にして」


 ちゃんちゃん!


 本当におしまいっす。

 

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大人な彼をゲットする 枯れた梅の木 @murasaki123

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