異世界転移に何を持って行きますか?

喰寝丸太

異世界転移に何を持って行きますか?

 面接の結果はたぶん駄目だろうな。

 またお断りメールかも知れない。


 メーラー開くのがおっくうだ。

 気分転換にネットの性格診断でもするか。


 おっ、良さそうなのがあったぞ。


 『異世界転移に何を持って行きますか?』だって。

 どれぐらいの単語に反応するんだろうな。


 ぽちっとスタート。

 いきなり異空間に拉致られた。

 見渡す限りに白い空間に多数の人が居る。


 各人の目の前には端末が一台。


 『異世界転移に何を持って行きますか?』と表示されている。

 うわっまじもんだ。

 選択を間違ったら死ぬな。

 『質問いいですか?』と打ち込む。

 『なんでも人に聞かないと行動出来ない駄目人間なんでちゅか』と表示された。


 むかっ。

 ムカついたが質問を受け付けない事は分かった。


 『ドラ○もん』と入力。


 『地球に実在する物に決まっているでしょ。馬鹿なの。低能なの。夢見るお子様なの。幼稚園からやり直したらぁ』と表示が。

 むかむかっ。

 なんで馬鹿にされないといけないんだ。


 『日本』と入力。

 『馬鹿なの。そんな大きな物を持って行ける訳ないでしょ。ほんと低能ね。猿にも劣るわ。三階建てのビルぐらいが常識なのが分からないの』


 むかむかむかっ。

 喧嘩、売っているんだな。

 よし買ってやる。


 実在する物で大きくない物で持って行けない物。

 それなら意表を突けるかも知れない。

 それは持っていけません、すみませんでしたと言わせたい。

 そうすればさっき馬鹿にされたのを見返した気分になれるだろう。

 もしかしたら地球に返してくれるかも。

 そんなのがあるかな。

 考える事しばし。


 『影』と入力。

 『どんなもんよ。影を二つ持たせてやったわ』とメッセージが現れ、俺は森の中に居た。


 転移させられたな。

 森の中なら、食料を選んだ方が正解だったか。


 周りを見ると、6人の人間がいて、多種多様な物を持っている。

 自動小銃、携帯用ミサイルランチャー、戦車、枕、日本刀、コンビニなんてものもある。

 みんな色々な語句を入力したんだな。


『君達にはこれから死んでもらうわ。悪いわね、暇つぶしなの。間抜けな死にざまを見せてね』


 と頭に声が響く。


 邪神か何かの暇つぶしの標的にされたみたいだ。


「なぁ、協力し合わないか。俺は泰斗たいとという者だ」


 坊主頭でミサイルランチャーを担いだ屈強な男がそう言い始めた。

 協力しあうのには賛成だな。

 いがみ合っていてもどうしようもない。


「何仕切ってるんだよ」


 日本刀を持ったリーゼントの男がいちゃもんを付けた。

 どこにでもこういう奴はいる。


「名乗れよ」

「それが仕切っているというんだ。俺は戸狩とがり。なあみんな、俺に仕切らせろよ。悪いようにはしないぜ」

「リーダーを決めないか。俺は春屋はるやだ」


 手ぶらの男がそう言った。

 賛成の言葉が上がる。


「仕切りやがって。でも良いぜ。多数決だ」


 投票が始まり、泰斗たいとがリーダーになった。

 役割も決まった。

 近接攻撃は戸狩とがり

 遠距離攻撃は戦車の持ち主の佐藤さとうと銃を持っていた古谷ふるたにがやる事になった。

 補給は何にももっていないように見える男の春屋はるやがやる事になった。

 春屋はるやはコンビニの所有者だった。


「お前、見たところ何も持ってないな。そっちの女は枕か」


 と泰斗たいと


「使えそうにない奴は追放しちまえよ」


 と戸狩とがり


「僕みたいに何か持ってきたはずだ。すばり地下シェルターだとみた」


 と春屋はるや


「そんな物はない」

「じゃあ、コンビニの食料は分けられないな」

「冷蔵庫の電源は切れている。傷み易いやつから食っていこう。こいつらにも与えてやるんだ。その後は働きに応じてだな」

「リーダーがそう言うなら」


「追放は可哀想だからお前達二人は斥候だ。偵察任務を与える」

「しょうがないな。やるよ」

「分かったわ。やります」


 俺、俺は何にも持ってないと言ったら、斥候を任された。

 死んで来いというみたいだ。

 だが斥候の仲間は一人いた。

 所持品に枕を持っている根古ねこさんという女性だ。


「私達、生きて帰れるかしら」


 心配そうな根古ねこさん。


「疑問なんだけど、根古ねこさんは何で枕なんか入力したんだ」

「ネットサーフィンしながら寝落ちしたのよ。なので白い空間は夢だと思って、枕ぐらい寄越せって入力しちゃった」


 何となく泣きそうな顔で根古ねこさんはそう言った。


「夢だと思った奴は何人かいそうだから気にする事はない」」

「そうよね。失敗じゃないわよね」


 これからどう行動しようかと議題が上がった時に、バサバサと羽ばたく音がして空が陰った。

 舞い降りたのはドラゴンとしか言いようのない真っ赤な巨体だった。


「ぎょわぁぁぁぁ」


 ドラゴンの声が辺りに鳴り響く。


「ふん、こんなの見掛け倒したぜ」


 戸狩とがりが突撃する。

 ドラゴンの足を日本刀で斬るが、ドラゴンにダメージが入っている様子はない。


 ドラゴンはうるさそうに足を動かし、戸狩とがりを蹴飛ばした。


「がひゅ」


 戸狩とがりが蹴り飛ばされて来た。

 打撲以外に怪我はないようだ。

 体を確かめながら戸狩とがりは立ち上がった。


「こんなの聞いてない。俺は逃げるぞ」


 戸狩とがりは一人で逃げ出した。

 あっけにとられる俺達。


 戸狩とがりがある樹のそばに差し掛かったところ、突然、現れた緑の鬼が持っている棍棒で戸狩とがりを滅多打ちにした。

 見ると俺達を包囲して緑の鬼がいる。

 緑の鬼はドラゴンにはけして近づこうとはしてない。

 こいつらライオンのおこぼれを貰うハイエナって所か。


「銃を撃てよ。馬鹿野郎!」


 佐藤さとうが叫んだ。

 古谷ふるたにが発砲を始める。

 弾はドラゴンのウロコで弾かれた。


 佐藤さとうが戦車に乗り込んだが、戦車はピクリとも動かない。


 戦車が目についたのだろう。

 戦車をドラゴンが尻尾で薙ぎ払った。


 戦車は二転三転して転がりひっくり返って止まった。

 おい戦車、出番なしかよ。

 まあ、一般人が操作できるとは思えないがな。


 古谷ふるたにの銃声がしなくなった。

 どうやら弾切れのようだ。


 俺の肩を叩く奴がいる。

 振り返ったら泰斗たいとだった。


「ドラゴンの背後で気をそらしてくれ」

「嫌だよ」

「君は恥ずかしくないのか。物資で貢献が出来ないのに指を咥え見てるだけか。もし何もしないでドラゴンが退治されたら、君達二人には食料を配給しない」


「くそう。やればいいんだろ。根古ねこさん、腹を括ろう」

「やるしかないのね」


 俺達はドラゴンの後ろに回り込んだ。


「ドラゴンのばかやろう! この老害!」

「掛かってきなさい! 私の枕が火を吹くわ!」


 ドラゴンは振り返った。

 これで良いんだろ。


「後ろに立つなよ。ミサイルを撃つぞ」


 泰斗たいとがミサイルを撃った。

 白煙を上げたミサイルがドラゴンに当たり大爆発。

 やったか。


「ぎぇええ」


 ドラゴンは無傷である。

 だが、怒ったようだ。

 叫び声が俺達を絶望に叩き落とす。

 ちくしょうミサイルも駄目か。


 ドラゴンがしっぽで俺と根古ねこさんを薙ぎ払いにきた。


 俺は根古ねこさんを突き飛ばし、這いつくばった。

 ドラゴンの尻尾は俺の頭上を通過。

 ふぅ、冷や冷やさせやがる。


「大丈夫?」

「ああ、何ともない」

「命を助けられたわ。ありがとね」


 そして、尻尾でコンビニの屋根が飛ばされた。

 中に避難していた春屋はるやが慌てて逃げ出す。


 ドラゴンが息を大きく吸い込むのが見えた。

 不味いな。

 ドラゴンの口の中に炎が見える。


 根古ねこさんが俺を突き飛ばした。


「家族に報せて……」


 根古ねこさんが火だるまになる。


根古ねこさーん!」


 良くもやってくれたな。

 許さん。

 俺は涙を流しながら、ドラゴンを睨んだ。


 目を凝らすとドラゴンの体に隙間みたいな物が見える。

 奥には脈打つドラゴンの心臓が。

 どうやら俺は特殊な能力があるらしい。


 仇討ちだ。

 コンビニで盗んでおいたカッターナイフを手に突撃する。

 ドラゴンの体の隙間にするすると入り、心臓をカッターナイフで切り裂いた。

 ドラゴンの心臓は血を吹き、ドラゴンは息絶え絶えになり、そして死んだ。

 緑の鬼が逃げて行く。


『なぜ!? なぜ、生き残っている!?』


 驚愕の邪神の声。

 ふと地面に目をやると俺に二つの影がある。

 これのせいで生き残れたようだ。

 太陽が一つなのに影が二つなんて有り得ない。

 あるとすれば三次元を超えた存在って事だな。

 理解はできないが、なんとなく分かる。

 三次元の物を四次元から見ると隙間だらけで、色々と不可思議な事が出来るんだな。

 どうやら四次元人間になってしまったようだ。


「影が二つあるからだろ」

『分身がミスをしたの。現実には無い物を与えるなと言っておいたのに』

「いや影は現実に存在するだろ」

『完璧な私がミスなんて。嘘でしょ。神である私が……。存在定義が覆される。体が崩壊していくぅ』


「君達二人は英雄だ。コンビニの物は自由に使ってくれ」

「そんな物の為に戦ったんじゃない」


 言っても仕方ないな。


「そうか。だが、ありがとう」

「お礼なら根古ねこさんに言ってくれ」

「もちろんだ」


 そうだ、根古ねこさんはどうなっている。

 俺は根古ねこさんに駆け寄る。


根古ねこさん、さぞ熱かったろう」


 根古ねこさんの体を起こす。


「ひゅう」

「まだ息がある。何か助けるための手がないのか」


 伝説なんかだとドラゴンの血は特殊な力があると読んだ事がある。


「待ってろ。今、助けてやる」


 俺はドラゴンの体の隙間に入ると、心臓の周りにある血を手ですくった。


 そして根古ねこさんに口移しで飲ませた。

 根古ねこさんは光輝き、焼けただれた肉が盛り上がり復活。


「また、助けられたみたいね」

「キスしてすまんな。なんでも言ってくれ。俺に出来る事ならする」

「そうね。恋人になってもらいましょうか」

「そうか。恋人か。恋人ぉぉぉぉ!」


「返事は?」

「イエスだよ。これからよろしくな」


 異世界に何を持って行くか聞かれたから、影と答えたら、異世界で恋人が出来た。

 邪神よ、ざまぁみろ。

 俺は幸せだ。

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