この物語は、圧倒的な暴力と緊張感があふれる、怪物のような作品だと感じます。我々読者は誰が味方か敵かも分からず、絶望や裏切りというハードな展開に直面しながらも、筆致の緻密さや心理描写の深さに引き込まれ、ページをめくる手が止まらなくなります。
登場人物たちの内面の葛藤や醜さ、彼らが抱える孤独と救いを求める微かな希望が、冷徹な状況の中で丁寧に描かれている点は見事です。物語全体が重くリアルな人間ドラマとして機能し、読み手の緊迫感と不安感を巧みに操っています。
言葉選びや情景描写も非常に豊かで、まるで映像が目の前に広がるような臨場感を読者に与えます。絶望の中にもひそむ、予期せぬ希望の兆しを感じさせるような巧妙なバランスが魅力的です。どんなに救いのない世界に見えても、その中に隠された人間の内面や、真の意味での「愛」「家族」といったテーマに気づかされます。
暗く重いテーマを扱いながらも、サスペンス小説としての技術や情熱、そして人間の本質に迫る文章は素晴らしく、読む者に多くの問いを投げかける作品だと思います。
名に反して幸が遠いヒロイン・近田幸子。ある事件をきっかけに、彼女の周囲を取り巻いていた狂気と愛憎が浮き彫りにされていく――
導入で「ん!?」となり、そのまま一気にラストまで駆け抜けてしまった作品。作者様の、物語に惹きこんでいく筆力が圧倒的です。
サブタイトルからして衝撃的な第1章は始まりに過ぎず、謎が謎を呼ぶストーリー、背景が明かされるごとに全ての登場人物に疑心暗鬼となり恐怖と不安が増していき……
錯綜を極めていく人間関係がどうなるのか気になりすぎて、もう止められない。
トラウマを抉ってくる描写は多いですが、ハマる人は確実にハマる。パンドラの箱を開けていく心境とはこういうものかも知れません。
上質な現代サイコホラー映画を満喫した気分でした。