第3話

「美里さん、このお土産屋の写真の右側の子。雛菊さんなんじゃないかな」

 竜造寺から、写真つきのメールが来たので見てみると、

『富山めいぶつ、梨ごれん』という店で店員をしている子は間違いなく雛菊だ。


「ありがとうございます! 竜造寺さん!」

すぐに電話をかけた。


「あの子にプロになってもらわないと、俺が困る。初めて年下の子供を尊敬したんだからな」

 竜造寺らしい、ニヒルで格好いい台詞だ。

 美里は、富山億部にあるその店に向かう。


「ここだよね・・・?」

 のどかでひんやりした空気。

 二階建ての建物の一会が土産屋のようだ。

「ごめんください」

 美里は声をかける。

「うん? もう、店じまいだで」

「いえ、雛菊さんですよね・・・? ええと、責任者の雛菊修一さん・・・?」

 老人はピンと来たようだ。

「帰ってくれ」

「待ってください! お孫さんに会わせてください!」

 美里は必死で言った。


「どうして、電話をすぐに切ったんですか!? 瓜子さんに用があったのに・・・申し遅れました、『Vダッシュ』というレーベルの美里です」

 そこに、瓜子が大きなリュックを背負ったままでやってくる。

「爺ちゃん、電話を切ってただか? なんで、そんなことをするダス」


「けっ、なあにがレーベルだ・・・? あんたのトコのサイトは読ませてもらったが・・・あんなもん、本とは言えねえべさ!」


「そ、それは・・・ウチの本に問題があるということをおっしゃるのですか?」


「あんなもん、全部エロ本でねえべか! それに、ほとんど全部投稿サイトから出てきたモンだと聞いているべさ! 大体、全部『スキル』だとか『チート』だとかどれもこれもおんなじだ! こんなトコから出版しても何にもならん! ・・・オラにも分かってるべ。本当は、瓜子には才能があるんだ」


「そうです・・・瓜子さんの『サクヤの晴嵐』はとんでもなく面白いものでした・・・本当にあんなのは十年ぶりの・・・」


「じゃあ、もっと立派なレーベルから出す方がいいだ! こんな全部同じ本出してるトコでなく、集英社とか講談社とかのもっとエエとこがあるだ!」


「爺ちゃん、失礼だっぺ! 折角、来てくれたのに!」


 美里は口をつぐんでいた。


「・・・雛菊さん、失礼ながら、物を書いていたことはありますか?」


「・・・んだ?」


「いえ、非常に出版業界に詳しいようでしたので」


「・・・おらあ、これでも文学部の院まで行ってるだっぺ」

そう言う。

「ええ? 爺ちゃんがあ?」


「・・・実際、傍から見て『全部同じ』に見えても仕方がないのかもしれません。今の業界は」

 美里は語り始めた。


「それでも、なんとかしてみんなでいい作品を作ろうとしているんです・・・! そこに瓜子さんが来てくれた・・・多分、『サクヤの晴嵐』だったら、一般文芸からでも出すことは可能だと思います。きちんとハードカバーで」


「んだべ! その方がええだ」


「どれくらい、書いていましたか・・・?」


「・・・・」

「オイラあ、じっちゃんのも読んでみたいだあ」


「くだらんわ!」

 修一は吐き捨てる。


「くだらなくないっぺ、一生懸命書いたんだっぺ!?」

 瓜子はそう言う。


「・・・・百本くらい書いた。ミステリー、冒険、恋愛、刑事、医療・・・一本も、どこの選考も通ったことねえっぺ・・・くだらん・・・オラの本なんぞ、くだらん・・・」


「じっちゃん・・・そんなにやってたんだか!? オイラあ、知らなかった・・・」


修一はにこりと笑う。


「いや・・・いいんだあ。才能は・・・お前が全部持ってたんだ、瓜子・・・! おいらにはねえ、作品の才能だ! 努力とか根気とか全部、ウソだ! 創作物は才能が99%だ! おらにはようく、分かってる! 瓜子の傑作を、こんな『スキル』とか『レベルアップ』だとか、ゲームみたいな漫画みたいなのと一緒に出版するこたあねえ!」


「爺ちゃん・・・」


「もっといい一流の出版社を当たるだ! オラが探してやる・・・!」


 美里は言った。


「・・・では、この『サクヤの晴嵐』・・・一日でいいので、私に預けてもらえませんか・・・?」

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「なろうぜ系」でないと出版できない世の中だから スヒロン @yaheikun333

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