左前

村良 咲

第1話 左前

 私は仕事柄、着物のことには多少の知識があるのですが、

最近、とあるミスコンテストに関することで、『?』と思ったことがあります。


 浴衣や小紋などの、生地全体に柄のある着物を仕立てるとき、柄の見え方として気にする言葉で、『右後ろ左前』という言葉があります。それは、両袖のどこに主な柄を持ってくるのかという、位置のことで使います。


 つまり、袖の『右後ろ』側に一番見栄えのいい柄を持ってきて、次に柄の意識を持ってくるのが左後ろではなく『左前』にという意味です。


 そしてそれと同じで、右の後ろ身頃、左の前身頃に主な柄をという意味で使います。


 そんなわけで、私の意識の中には着る時にも『右後ろ左前』という言葉が常に頭にあったのです。着る時には左側を上にするという意味で捉えていました。


 最近のミスコンテストで日本代表の方が着ていたものが、着物に見立てることができる衣装だと話題になった時、ネットでは、「左前は死に装束なのに」という言葉を目にし、私の頭の中は、『?』が浮かんだわけです。なぜなら、前述したように、私の頭の中には『右後ろ左前』という言葉があったからです。


 つまり、私には『右前が死に装束』という言葉の認識だったのです。着る時には右を上にするという捉え方です。


 そう、これ、よく考えたら、『同じ着方』なのです。


 ああ、そうか……ここに書き込んでいるみなさんは、正面から見て左前が死に装束なのだと言っているのだ。そう思ったわけです。


 ですが、そこでふと思ったわけです。


 もしかしたら、私の認識の方が間違っているのではないか。ということを。なぜなら、あまりにも多くの方が「左前は死に装束」と書いていたからです。


 そう思った私は、知りたいことは何でも教えてくれる魔法の小箱、このネットという小箱の中で検索してみたのです。


 はい。どこのサイトでも「左前は死の装束」だと書いていました。


 あらら……


 私は仕立てるときの『右後ろ左前』という言葉を知っていたから、『そう思い込んでいた』ということなのでしょうね。思い込みって、怖い。


 でも、言い訳をするわけではないのですが、着付けをしている方の中にも、『左前』という言葉を使う人がいるというではありませんか。着る人から見て左が上という意味で使っているのです。でもそうですよね、作る時に『右後ろ左前』と言うのですから、着る時にもそう使う人がいても不思議はありませんよね。


「左前は死に装束じゃんね」


「え?右前が死に装束だよ」


 …さて、これ、いかに…

 

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左前 村良 咲 @mura-saki

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