剣と少女とペドフィリア

蘭駆ひろまさ

剣と少女とペドフィリア

 オレの名前はクライド。


 とある王国の辺境の、ある村で門番をしている。

 そりゃもう辺境も辺境、この村の向こうには魔の森しかない。

 魔の森の向こうに広がっているのは、強大な帝国。王国とは敵対とまではいかないが仲は良くないから攻め込んでくる可能性はゼロじゃないし、商人にとっては工業が盛んな帝国の商品を運んでりゃ王国では高く売れるしひと財産になるだろう。


 そういう点では要所になりそうなもんだが、そうはならないんだな。

 なぜなら魔の森はとても広く、そしてそこに住む魔物は極めて強大。


 王都で有名なS級やA級の冒険者を、金に糸目をつけずに何人も雇えば通り抜けられる可能性はあるかもしれない。

 帝国だって、何十万もの精鋭を投入すれば何部隊かは突破できるかもしれない。


 しかし壊滅的な被害が出るだろう事は間違いない。

 だから、誰もやろうとはしない。

 だから、この村には誰も訪れない。


 そもそも、この村だってたいして広くも無い麦畑と何匹かの牛がいるだけの村だし、門番とは言っても門なんか無いし村全体をゴブリンでも壊せそうな村人が適当に作った柵でぐるっと囲っただけだ。


 ようするに、オレはヒマだった。


 毎日毎日、誰もこない辺境の村でぼーっと空を見上げて過ごしている。

 こんな仕事必要なのだろうかと思うが、何かあった時の為ということでどんな小さな村にも最低一人は門番や衛兵を置かなければいけない決まりらしい。まぁ、それで大した額じゃないが給金を貰っているんだから、いいんだけどね。


 だけど、その日は違った。

 何日ぶりだろうか、こんな村を訪れる人影があった。


 王国側から歩いてくる2つの人影。

 薄汚れたローブを着て杖をついた老人と、その手を握ってぽてぽてとついて来る6~7歳くらいの幼い女の子。

 老人は白く染まった髪と顎髭を長く伸ばしており、かなりの年齢を感じさせたが、背筋はしゃんと伸び足取りもしっかりしていた。一方その隣の女の子は貴族の子供かと思うほど整った顔をしており、背中まで伸びるこの辺りでは珍しい黒い髪はつややかな輝きを放っていた。そして身に着けた服装も上等な布で仕立てられた、一見して上等なものだと思う代物だった。


 どういう関係なんだろう、と思う。


 普通に考えると祖父と孫だろう。

 しかし身なりの整った少女と比べ、老人はあまりにも薄汚れていた。それに顔もあんまり似てない。どちらもおそらく王国人ではないだろう、この辺りでは見ない顔つきで少女にいたっては珍しい黒髪だ。

 しかも、訪れるのはこんな辺境の村。


 正直、とても怪しい2人だった。

 面倒は勘弁して欲しいんだけど。


「やあ、この村に人がくるなんて珍しいね」


 とりあえず気さくに声をかける。


「うむ、そうじゃろうな。来るまでほとんど人に会わんかった。わし達はちと所用があっての」


 老人は、答えながら通行証を出してくる。

 偽造ということはないだろうか、という考えが頭をよぎるが、オレに偽造を見分けるような目は無いしだいいち村の向こうの魔の森は通行証を偽造してまで行くような場所ではない。魔物がうじゃうじゃいるだけで、何も無いのだから。


「名前は?」

「わしはカズヤ・カンナギ。この子はハルカ・カンナギ」


 珍しい名前だな、と思った。


「可愛いお子さんですね、お孫さんですか?」


 その質問はそれほど深い意味は無かった。まぁ普通に考えたら孫だろうし、なんとなく聞いてみただけだった。

 なのに、返ってきた反応は激しかった。


「妻じゃ!!」

「はぁ?」

「だからこの子はわしの妻じゃと言っておる! 孫と言ったことを取り消せ!」

「ちょ、ちょっとお爺ちゃん!」


 老人は、連れている幼女を自分の妻だと顔を真っ赤にして主張し始めた。

 ハルカという幼女は羞恥のせいか顔を真っ赤にして老人の腕を引っ張った。


「妻じゃないよ、お爺ちゃん!」

「ハルカまで何を言っておるのじゃ! お前はわしの妻じゃと言うておるじゃろうが!!」

「ええ……?」


 恥ずかしそうな幼女と、怒りの形相の老人。

 

 妻?


 60は軽く超えているだろう老人の妻が、6歳くらいの幼女? 幼女趣味ペドフィリアってやつ?

 大丈夫か? このじいさん。

 ボケてんのか?


「わたし孫でいいって言ったじゃない、お爺ちゃん! 兵士さん困ってるじゃない!」

「なにを言うか、ハルカ! お前はわしの妻じゃ! 誰がなんと言おうと、妻なのじゃ!」

「えーと……」


 オレの事など忘れたかのように言い合いをする老人と幼女。


 もしかして、孫でも妻でもないのでは?

 これは誘拐とかではないのか?


 そんな疑問が湧きあがってくる。

 貴族の娘を浮浪者の老人が誘拐して帝国に逃亡しようとしているとか?


 やめてくれよ? こんな田舎の村、近隣の街から応援を呼ぶのにも何日もかかるんだから、オレの手に余るような事態は勘弁してくれよ?


 孫だ妻だと言い争いをする2人をじっと観察する。

 言っていることは食い違ってはいるが、仲が悪いようには見えない。誘拐という線は無いか?


「お前、分かっておるのか! 妻じゃからの! しっかり記録しておくのじゃぞ!」

「ええーー……」

「お、お爺ちゃん、やめてよ……。恥ずかしい……」

「何が恥ずかしいんじゃ!」


 もう駄目だ、このじいさん。

 老害オブ老害。


 あー、もういいから早く行ってくれよ。


 などと考えていた時だった。


「クライドさん! 大変だ!」

「あん?」


 村人がオレを呼ぶ声がする。

 振り返り、絶句した。


「スタンピードだーーーっ!」


 オレの目に飛び込んで来たのは、こちらに逃げてくる村人と、その向こうから迫りくる魔物の群れ。

 その数は軽く100は超えるだろう。大小さまざまな魔物たちが、魔の森からあふれ出るように出現していた。


 ――魔物暴走スタンピード


 定期的に発生する魔物の異常発生。

 いま目の前の光景のように、魔物がどこからともなく大量に発生し群れを成し人里を襲う。ゴブリンなど弱い魔物も多いが、その暴力的なまでの数は一体一体の魔物の強さなどという基準を無意味なものにしてしまう。


 それはまるで洪水。

 圧倒的な数と質量であらゆる物を押しつぶし、命を奪う。最終的に魔物たちが疲れ果て、食べる物が無くなり共食いを始めるまで続く災害。


 思わず腰の剣に手を伸ばすが、その手は自分のものとは思えないほど震えていた。

 震える手と剣の柄がカタカタと音を立てる。


「お爺ちゃん……」


 ハルカという幼女が怯えたような声を出す。

 

 当たり前だ。

 兵士であるオレだって逃げ出したいのだから

 とはいえ、逃げる場所なんて無い。オレ達はあの魔物の群れに押し潰されるしかないんだ。


 しかし、今までオレがボケた幼女趣味だと思っていた老人は、一転して力強い言葉を発した。


「ハルカ、わしに任せろ」



◇◇◇◇◇



 僕の名前は神薙和也。


 こことは違う世界の日本という国で高校生をやっていた。

 僕は平凡な高校生活がずっと続くと思っていたんだけど、ある日僕と幼馴染の遥ちゃんは光に包まれ、気が付けば見たことの無い異世界に飛ばされていた。


 ラノベや漫画でよくある剣と魔法の世界。

 

 そして、僕はいわゆるチートスキルを授かり、人並外れた身体能力を手に入れた。

 ラノベみたいに活躍出来るのではないかとワクワクしていたけど、そんな気持ちはすぐに打ち砕かれた。


 言葉が通じない。


 知り合いなんていない世界で、一文無し。


 日本人の僕達には信じられないくらい野蛮な現地の人たちと、人間とみれば一直線に命を奪いに来る魔物たち。


 そして何より僕の心を折ったのは、遥ちゃんが6歳くらいの女の子の姿になっていたことだった。

 僕にチートスキルを授けてくれた女神様曰く、遥ちゃんにもチートスキルを授けるはずだったけども、異世界転移の際に時空の歪みに捕らわれ遥ちゃんに授けられたチートスキルはいくつもの欠片に分かれてこの世界の各地に散らばった。その際に遥ちゃん自身もいくつもに分かたれてしまい、遥ちゃんは小さな女の子になってしまった。


 女神様が言うには、全ての欠片を集めれば遥ちゃんは元の姿に戻り、チートスキルも取り戻せるのだとか。

 チートスキルは無いよりはあった方が良いって程度だけど、僕は元の遥ちゃんに戻らせてあげたかった。


「わたしの為に和也君が無理しなくていいよ」


 遥ちゃんはそんな風に言ってくれたけど、ぜんぜん無理なんてしてない。

 僕はずっと遥ちゃんが好きだった。好きな子が、そんな理不尽な目に合うのは我慢できない。


 とはいえ、そこからは苦難の連続だった。


 言葉を理解しこの世界に慣れ、生活の基盤を整えるのに10年かかった。


 冒険者として名を上げそこそこのお金を貯めて、王国の各地に行けるようになるまで10年。


 スマホもネットもない世界で、分かたれた欠片の在処を解明するのに10年。


 新幹線も飛行機もない世界で、各地を巡りいくつかの欠片を集めるのに10年。


 気付けば僕は、老人になっていた。


 その間、遥ちゃんの外見はまったく変化が無かった。

 欠片は全て揃わないと駄目みたいで、いくつか集めても特に変化は無い。そして、僕が歳を取っていったように普通は自然に歳を取っていくはずだけど、遥ちゃんは全く成長しなかった。


 いつまでたっても幼い女の子のまま。

 一方で、僕は老人の姿になってしまった。


 どんどんと衰えていく身体。


 でも立ち止まる訳にはいかない。

 僕は遥ちゃんをもとに戻してみせる。必ずだ。


 いま目の前で、魔物のスタンピードが沸き起こっていた。

 僕たちは帝国にも遥ちゃんの欠片があるらしいという情報を手に入れて、帝国へと渡る途中だった。立ち寄った村の門番と言い合いをしている時、魔物のスタンピードが発生したのだ。


 ちら、と手を繋ぐ遥ちゃんを見る。

 幼いその顔は不安と恐怖に染まり、不安げにこちらを見上げていた。


「お爺ちゃん……」


 遥ちゃんが僕を呼ぶ。

 彼女はいつからか、僕をお爺ちゃんと呼ぶようになった。僕は遥ちゃんと夫婦のつもりなんだけど、常識的に考えて老人と幼女の夫婦なんておかしいのは理解している。だから変に思われないように、彼女は僕を『お爺ちゃん』と呼ぶことにしたらしい。


 僕は納得していないけど、遥ちゃんは呼び方を変えるつもりはないみたいだった。

 一応僕も周りに自然に見えるような言動にしているつもりだけど、それでも遥ちゃんの事を自分の孫だと言うつもりはない。


 遥ちゃんは僕の奥さんだから。


「ハルカ、わしに任せろ」


 手に持つ杖の先を右手で握りしめ、ぐいと引く。

 すると杖の中から現れるのは、仕込み刀になっている刀身。


 杖をそのへんに放り投げ、取り出した仕込み刀を低く構える。

 僕が冒険者として活動し始めた時、放浪の女冒険者に教わった剣術の構え。


「邪魔になるからの、下がっておれ」


 青い顔で震える門番に声をかけて下がらせる。


 そこへ襲い掛かってくる魔物の群れの先鋒。


九十九杠葉流つくもゆずりはりゅう 絶界・さざなみ――」


 つぶやき、すれ違いざまに刀を振るうと魔物達が鮮血を吹き出し倒れてゆく。

 僕が教わった九十九杠葉流はこの国では珍しい刀を使う流派で、アニメや漫画で日本刀に憧れたこともある僕としては違和感なく受け入れることが出来た。絶界・漣という技は一刀一刀は軽いが一瞬でいくつもの剣閃を走らせる技で、今の様に数だけは多い相手にはうってつけの技だ。


 とはいえ、数が多すぎる。


九十九杠葉流つくもゆずりはりゅう 朧百夜おぼろびゃくや――」


 再度技を振るう。ばたばたと倒れてゆく魔物たち。


「ガアアアアアッ!」


 目の前で、角を生やした巨大な熊のような魔物が爪を振り上げる。


九十九杠葉流つくもゆずりはりゅう 天ツ風あまつかぜ!」


 叫び、下段から刀を振り上げると、旋風が巻き起こり熊の魔物をずたずたに引き裂いた。


「……くっ」


 そこで、足がかくんと折れる。

 

「はぁ……はぁ……」


 息が切れる。

 チートスキルで強化された僕の身体は、十数年前ならこの程度で疲れたりしなかったんだけど、最近はすぐに疲れて動けなくなってしまう。

 

 まだまだ魔物はいるというのに!


 僕の後ろには遥ちゃんがいるっていうのに!


「――和也君!」


 遥ちゃんが叫んだ。

 ちゃんと名前で呼んでくれたのは、何年ぶりだろう。


「和也君、負けないで!!」


 その声を聴くと、自然と笑みが浮かぶのを感じる。


 負けられない。


 ああ、負けられないな。


 そうだとも。ああ、そうだとも。


 遥ちゃんは僕が守る。


「九十九杠葉流免許皆伝、神薙和也、参る!」


 刀を握りしめ、地面に水平に構える。

 あんなに疲れていたはずなのに、不思議と身体には気力が満ちていた。


九十九杠葉流つくもゆずりはりゅう 奥義――紫電百頼しでんひゃくらい天虎てんこ!!」



◇◇◇◇◇



 わたしの名前は美咲遥。


 日本で女子高生をやっていた。

 幼馴染の神薙和也君とは、友人以上恋人未満という関係。わたしの誕生日の前日、和也君は「明日、誕生日にプレゼントを渡すときに伝えたいことがある」なんて言ってきた。


 やっと聞きたかった言葉を聞けるのでは、という期待。


 そんなかっこつけなくても、今言ってくれればいいのに、といういじわるな気持ち。


 そして、もしかしたら聞きたくなかった言葉を聞かせられるのかもしれないという不安。


 色々な感情を感じながら、私は「待ってる」と言った。

 でもその日、わたしと和也君は光に包まれ、気が付けば見たこともない場所にいた。一面に広がる草原や森、和也君がやってるRPGみたいなモンスターが闊歩し、そして鎧や剣を身に着けた人達がモンスターを討伐していく。

 そんな世界。


 眩暈がした。


 さらに悪いことに、わたしは小学校低学年くらいの女の子になってしまっていた。

 わたし達をこの世界に招いた女神様が言うには、わたしも和也君みたいにチートスキル?というものを授けてくれる予定だったみたいだけど、手違いでその力が分裂してあちこちにちらばってしまい、その影響でわたしは小学生になってしまったらしい。


「僕がかならず遥ちゃんをもとに戻して見せる」 


 和也君は、わたしの好きな真面目な顔でそう言う。

 でも、誕生日に聞かせてくれるはずだった言葉はおあずけになった。


 ちょっと残念だけど仕方ない事だと思う。

 それどころではなくなってしまったからだ。


 なにせここは日本じゃないし、なんなら地球ですらない。当然周りの人の言葉なんて分からない。

 和也君は「翻訳チートくらい常識だろ」とかぶつぶつ言ってたけど、そこからは本当に苦労した。言葉が分からないだけでも大変なのに、ここは魔物がそこらへんを普通にうろついていて、命を奪い奪われてが日常的に行われている。日本じゃ交通事故で人が死んだりしたらワイドショーで大々的に取り上げられたけど、この世界じゃ人が死ぬことは日常茶飯事。だれだれが風邪をひいた、くらいのノリで人の死が語られる、そんな世界。


 和也君は毎日毎日、安物の剣を持って冒険者ギルドって所に出かけて行った。

 そこで薬草なんかを取りに行ったり、魔物を討伐したりしてお金をもらうのだ。でも和也君は普通の高校生。いくらチートスキルをもらって人より強くなったといっても、命の取り合いなんて出来るはずがない。


 和也君は、毎日傷だらけで疲れ果てて帰ってきた。


 血だらけで帰ってきたことも、一度や二度ではない。


 私は、毎日泣いてばかりだった。

 和也君が苦しんでいるのになにも出来ないのが苦しくて仕方がない。幼い身体が恨めしい。わたしにもチートスキルがあったら少しでも和也君の助けになれたのに、この幼い身体はなんの力も無い。


「遥ちゃんが危ないことをする必要はないよ」


 和也君はそんな風に言ってたけど、好きな人が苦しんでいるのにそれを助けてあげることが出来ないのは苦しすぎる。


 それでも、月日がたつと慣れてきて怪我をして帰ってくることは減ったし、貯金だって出来るようになった。そうなると次は和也君はわたしを元に戻す方法を探し始めた。

 教会にけっこうなお金を払って受けた神託によると、わたしのチートスキルの欠片を受けた魔物は凶暴化して周りに重大な被害をもたらすようになるのだとか。わたしはわたしの一部がそんな風に周りに迷惑をかけるのは嫌だったけど、和也君はわたしの欠片がどこにあるのか分かりやすいのは不幸中の幸いだと言う。


 そこからある街を襲っていた狂暴化した魔物を倒して、欠片を取り戻した。


 だけど、わたしはこれまで通り小学生のような姿のままだった。

 チートスキルを取り戻して強くなったりもしていない。あいかわらずなにも出来ない子供のまま。


 どうやら全ての欠片を取り戻さないと、わたしはもとには戻れないみたいだった。


 わたしは、この辺りで自分の心が折れるのを感じた。

 和也君はその時40歳を超えていた。一方わたしは6歳くらいの子供のまま。歳の差は仕方ないとしても普通に成長はしそうなものだけど、いつまでたってもわたしは子供のままだった。これでは誰がどう見ても親子にしか目見えない。十代で結婚することが当たり前のこの世界では、祖父と孫でもおかしくはない。


 わたしはもう、和也君の恋人にはなれない。


 和也君はそれなりに名を知られた冒険者になっていて、綺麗な女の人に言い寄られていたのを何度も見たことがある。女の人達はわたしを和也君の子供だと思うから、「私が新しいお母さんになってあげようか?」などと言って笑いかけて来た。


 やめて!


 やめて!


 わたしは和也君の恋人になるの!


 でも、それが難しいことも分かっていた。

 だから、和也君に何度も言った。他の女の人と付き合ってもいいよ、と。高校のころ早熟な友達から男の人はをしないと辛いらしいという事を聞いたことがあったから、街で客引きの女の人の所へ行って来てもいい、と言ったこともあった。


「馬鹿にするな!」


 和也君はそんな風に怒った。


「僕が必ず遥ちゃんをもとに戻して見せる!」


 嬉しかった。


 涙が出るほど嬉しかった。


 でも、同時に辛くて仕方が無かった。

 この身体では和也君の恋人にはなれない。和也君の愛を受け止めることだって出来ない。


 塞ぎこみがちになったわたしを心配したのだろう。

 ある日突然、和也君は結婚式を挙げると言い出した。


 結婚式??


 最初何を言ってるのか良く分からなかった。その時の和也君は初老といっていい歳で、どう考えてもわたしと結婚するような歳ではない。わたしも、恋人とかそういうことを考えると辛くなってくるので、和也君の孫だと周囲には言うようになっていた。


「遥ちゃんは僕の妻だ!」


 そう言って、田舎の小さい教会でお金を積んでささやかな結婚式をあげてもらった。

 都会の教会では、和也君が幼女趣味だとか思われてまともに取り合ってくれなかったからだ。


 そこでわたしは和也君とミスリル製の結婚指輪を交換した。

 この世界では結婚指輪という風習は無いので、職人に特注で作ってもらった特別製。


 あふれてくる涙を止められなかった。


 嬉しい。

 

 ありがとう。


 ごめんね。


 様々な感情がぐるぐると回る。

 でも人前では恥ずかしいから「お爺ちゃん」と呼んでしまう。一度呼び方を変えると、名前で呼ぶのはなんだか恥ずかしい。


 でも、いいの。


 薬指を見下ろすと、そこにあるのは銀色の輝き。

 それを見ると、嫌な気持ちは吹き飛んでしまう。わたしは和也君の奥さんになれたんだから。

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剣と少女とペドフィリア 蘭駆ひろまさ @rakunou

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