15 因縁の少女
*
家を出て数時間。終希の教えてくれたことを頭の中で整理しながら、目的地に向かって雪道をまっすぐ進む。行きとは違って足取りが軽くサクサク歩けた。
昨日リビングで過去を語った終希の表情はピクリとも動かさなかった。彼にとって一番大切な物を奪われてしまい、何かが欠落してしまったんだ。感情表現が苦手なのではなく、その術(すべ)を自分の名前ごと過去に置いてきてしまったらしい。
村から出てからはその……ババア……さん? の言う家を見つけ二人で暮らすことにしたらしい。それがあの家だという。壁に名前を彫ったのは家を見つけた次の日だった。
「そういえば、写真は見つかったの?」
「無かった」
特に興味がなさそうなのはきっと家に行かせるためのデタラメだと分かっていたからだろう。森の先に行くことが出来なかったG型達が村の外に痕跡を残せるはずがない。家の存在をどこで知ったのかが不思議なものだが、その理由も燃えて空に吸い込まれてしまったようだ。
火傷のせいで龍さんは左目が半分しか開かなくなり、目も悪くなってめがねをつけるようになったらしい。彼は火事の前と後で特に何も変わらなかったと終希は言っていたが、本当にそうだろうか。一つの見方では盲目になっているのと変わりない。もしそこにいたのが私だったら大切な物が一気になくなってしまって何も変わらずいられるとは思わない。
雪が薄くなり、歩くと足跡が茶色くなるほどになった。東京が近づいてきている証だ。
「ふう……」
日が沈んだ頃ようやく地平線まで広がる大きな街が見えた。ひとつきも経っていないのに、暫く見ていなかったような気がする。それくらいあそこが居心地良かったんだろう。あいつと馬が合わないことを除けば、緩やかな毛糸のような日々は絡まっていてもふわふわとすさんだ心を包み込んで、嫌なことを忘れさせてくれた。
円く広がった大きな街の外縁部は閑散としていて、以前は綺麗に並べられていたのであろう錆付いたバリケードが風で飛んで散らばっている。そんな物無くても誰も外縁部には用がないので、誰も並べ直そうとはしない。外に広がっている手つかずの森もその先にある旧世界の歴史も知らないまま世界はいつも通りの日々を送る。それもそれでいいのかもしれないけど、私はもっと色々なことが知りたかった。
「きっと帰るよ、終希」
ふと脳裏に浮かんだ瓦礫とむわっと吹き付ける風になんだろうと首をかしげ、地下鉄の駅に向かって歩き出した。
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