緑の配信者と赤いリスナー
一色瑠䒾
第1話
とある急に冷え込んだ初冬の夜。
やっと残業から解放され、重い足取りで帰宅した。休日前夜を迎えた優斗は、軽く食事を済ませ、空になった赤いラベルのカップ麺をゴミ箱に捨てると、そそくさと食後の淹れたてのコーヒーを片手に2階の自室へと階段をあがる。100%満充電済みのタブレット端末を片手にベッドにゴロリと寝転んだ。
そそくさと晩飯を簡単にすませ自室に上がって来たのには理由がある。それは推しである女性Vライバー(バーチャル配信者)『美鳥野らくん』のゲーム配信の時間である21時に間に合わせるためだった。彼女はV(バーチャル)ライバー事務所『シューティングスター』に所属し、デビューすると、3日でフォロワー数20万人に達する驚異的な大型新人であった。優斗はたまたま見かけた彼女の初回ライブ配信で、自分の配信スタイルとよく似ていた事もあり、親近感が沸くと高評価ボタンを押し、すぐにチャンネル登録もしていた。
ちょうどゲーム進行もキリのついた一時間後、ゲーム配信を終えスパチャ読みに移り、合間の雑談は質問コーナーとなって盛り上がっていた。
「では、次の質問ですね。レイスさんから『らくんさんは推しさんとかいるんですか?』あー。そうですね、私がVを始めようと思うキッカケになった方がそうです。私はその推しの方に憧れてVになった…と言うか…ホントは職場で私に色々と教えてくださったり、良くして頂いている憧れの先輩が実は人気配信者と知ってしまったからなんですよねー。私はその先輩が尊過ぎてアプローチに踏み出す勇気がなかったんです。でも、Vであればその内、コラボとかで推しと気軽に話せる機会もあるのかなって…邪でごめーん草」
優斗は彼女の初回配信で配信スタイルの他、イントネーションや口調など、職場で気になっていた後輩の子と重ねて見る事が多かった。が、今の発言で後輩の彼女だと悟った。いや、彼女のVアバの名前が決定打だった。
「えーっとコメントですね、ドンキーさんから『らくんさん、恋する乙女してますね』って、あー恥ずかしい! 質問に真面目に答えるんじゃあなかったよぉー。あー、顔があついよぉー! はぁ、次の質問ね、スガキヤさんから『その推しの名前を教えてください』えー。それ言ったら、身バレしちゃうしー今、この配信見てたら困るー!答えませーん!草」
優斗は彼女に少し悪戯をする事にした。自分のVアバターの名前をレッドフォックスにしたのは、深夜残業でお腹をすかしていた時、共に残業をしていた後輩の子が夜食にと買ってあったカップ麺『緑のたぬき』をお腹の音をさせながら、譲ってくれたのが印象に残っていたからだ。
「では、次の方はと、え?…赤いきつね…さんから『緑のたぬきありがとう』…え? うそ? 先輩?!」
彼女は少し取り乱したが、普通を必死に装い配信を終えた。
優斗は彼女にレッドフォックスのアバター名でコラボ申請のDMを送った。
緑の配信者と赤いリスナー 一色瑠䒾 @iShiki_rUi
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