TARGET3 先輩
『灯りをつけましょぼんぼりにーお花をあげましょ桃の花ーごーにんばやしの…』
「あ、起きましたかぁ?夏海せーんぱいっ」
「んんっ!」
「あー、そうだ!うるさいからガムテープつけてたんだった!すみませーん」
ベリッ!
「っぷはぁ!はぁ、はぁ…ここどこなの?!」
「どこって言われて答えるようなお人好しじゃないですよー?どうします?痛いのと苦しいの!どっちで歪む先輩も見たいですけど…アハハっ」
椅子に縛り付けられ、先程まではアイマスクと、口にはガムテープが貼られていた。
アイマスクとガムテープが剥がされると、そこは見た事も無い倉庫だった。
そしてそこに居たのは、学校の後輩だった。
その後輩は、やけに鋭利な包丁と、何が入っているのかよく分からない注射器を手にしていた。
そしてひな祭りの歌を歌い続けていた。
正直何から何まで狂っている。
私が目覚めたことに気がつくと後輩は歌いながらにじり寄ってきた。
恐怖に震えが止まらなくなる。
涙目になりながら後輩に許しを乞うのは滑稽であったけど、それどころではなかった。
「許してください、何でもするから。」
「んーもう遅いんですよねーせーんぱいっ。先輩にはゆっくりと死んでもらいます。」
初めて橋口杏華(はしぐちももか)と夏海(なつみ)が出会ったのは文化祭だった。
杏華と夏海は3歳差なので本来在学中は出会うことがない。
でも、夏海は2歳下の彼氏がいた。
そのことを知っていた杏華はなんとか接触を試みた。
するとなんなく連絡先を入手することが出来た。
呆気なすぎて物足りないくらいだった。
夏海の高校時代は、相当なものだった。
学校には来ない、来ても授業は聞かない、廊下にたむろするし、スカートは極端に短く、髪の毛も派手に染めていた。
もう先生からも注意されないような生徒だった。
たまに注意してくる先生もいたが、うるさいと睨むと二度と注意してこなかった。
気に入らないことがあると周囲に当り散らし、いじめは頻繁に起きていた。
それでもリーダーシップがあり、学校に来るといつも友人に囲まれていた。
そんな夏海は人生に物足りなさを感じていた。
常につまらなかった。
何をしても思い通りに進むことに嫌気をさしていた。
周囲にもいつもつまらないと漏らしていた。
そんなある日変わった後輩から連絡が来た。
全然知らないし、聞いたことも無い子だった。
「あの、夏海先輩ですか?初めまして、私高校2年生の橋口杏華と言います。いきなりごめんなさい。少し相談したいことがあって連絡しました。もし見たら連絡下さい。」
誰だろう?と思ったが、面白そうだと思ってすぐに返信をした。
「どうしたの?」
「返事ありがとうございますm(_ _)m 私最近先生から性的に見られてる感じがして、友達に相談したら夏海先輩って伝説の先輩がいるから聞いてみたらって言われて、連絡しました。すみません、困りますよね、そんな…」
夏海は可愛い素直で使えそうな後輩だなと感じた。
そしてその悩み相談を引き受けることにした。
何度かやり取りを続け、文化祭で初対面することにした。
ちょうどいい、彼氏がまだ高校3年生で文化祭に行くと約束していたので、その前に会おうと考えた。
文化祭当日、約束通り杏華と夏海は初対面を果たす。
夏海は相変わらず派手な髪色に派手な服装をしている。
杏華は少し驚いた表情をしたがすぐに笑顔をみせた。
もちろん杏華の調査のおかげで、2人はすぐに打ち解ける。
そして、気分をよくした夏海は彼氏まで紹介してくれた。
文化祭以降、2人はよくご飯を食べに行くようになった。
問題の先生などそもそも存在しないのだから、その件は解決したことにした。
周りに真の友達と呼べる友達がいないと感じていた夏海はすっかり杏華に気を許していた。
それから半年が経ち3月に入った。
見せたいものがあるからと、学校に呼ばれた。
学校に入るのは怒られる気もして躊躇ったが、信頼している杏華の頼みということもあり学校に入る。
裏口から入り、待ち合わせ場所である体育館の準備室に向かう。
卒業式の間際ということもあり、体育館は卒業式の準備によって使える状況ではなく、部活も休みのようだった。
あまりにすんなり入れたことに驚きつつ杏華を待つ間卒業式の準備が済んだ学校を眺める。
まともに学校に来なかった夏海にとっても、懐かしく感じられた。
そんなことを考えている時、後ろから何者かに襲われた。
そして、気がつくと知らぬ倉庫にいた。
傍には杏華が歌いながら包丁と注射器を持って歩いている。
思考が追いつかず混乱していた。
目覚めたことに気がつくと、杏華は近付いてきた。
身動きが取れない私を見て笑顔で話しかけてくる。
話が頭に入ってこない。
私は必死に許しを乞うた。
しかしここで私は許されずに死ぬんだなという気がした。
「包丁よりこっちの方が痛みは少ないですね、先輩っ」
いつもより甘ったるい声でそういう杏華は楽しそうだった。
腕に鈍い痛みが走ると徐々に息が出来なくなった。
息が苦しいのに上手く吸うことが出来ない。
徐々に死に近づいていく恐怖だけが感じられた。
それを近くで笑顔で見守る杏華。
不気味さだけが残っていた。
最後まで彼女は楽しいひな祭りを歌っていた。
そうか、今日はひな祭りなんだなとぼんやり考えた時には既に息ができず、死ぬ間際だった。
「先輩とは普通に知り合いたかったです…すごく派手で面白い人だったのになー」
と話しながらそっと手首で脈を確認する。
「やっぱり呆気ないよねー人って」
倉庫に1人の声が響く。
そしてそのまま1人歩いていく足音だけが残った。
サイコJK 紫栞 @shiori_book
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