番外編 バレンタイン
今日はバレンタイン。
いつもは何となく女の子たちがお菓子作りの話をして男の子たちが少し浮き足立っている様子を見ているだけだった。
でも高校生になって初めて作ってみようと思った。
あげる相手は育ての親であるおばあちゃん。
両親は子供の頃に離婚して共に仕事しているがそれ以上に奔放な性格ゆえ子育てができずネグレクト状態だったところをおばあちゃんが助けてくれた。
恩返しがしたいなんて大層なものでは無いが、周りに便乗してみたいと思った。
まずチョコを買うところからだがなんせ初めてのことだし元々甘いものを買う習慣がないのでここまでチョコの種類が多いと思っていなかった。
製菓用なんてものまである。
こうなったら出来合いのものでも買おうかと手に取るが今年は作ろうと決めたのだからと考え直す。
スマホでポチポチ検索をしながらようやく作るものと必要な材料を調達する。
家に帰るとおばあちゃんはこたつで横になって幸せそうに眠っていた。
今がチャンスとキッチンに向かうが普段料理もしないせいで何がどこにあるのかさっぱり分からない。
でもこれで起こしては意味が無いと必死に探す。
そうは言ってもたかがキッチンなので、範囲は狭くすぐに必要なものが見つかった。
「よし、まずはチョコを溶かす…」
どうせ溶かすのにと思いつつ動画では割っていたので一応割ってみる。
数秒ごとにかき混ぜながらレンジにかける。
既に面倒くさくて後悔ばかりしている。
「はぁーやっと溶けた。結構時間かかるんだ。次はー…これを流して…」
説明を見つつやりつつじゃなかなか進まない。
だんだんと苛立ってくる。
そんな気持ちを抑えつつ作業は進んでいく。
「これで冷蔵庫に入れて…え、6時間?!」
正直どうせ料理なんてフルーチェやパンケーキミックスのように入れて、混ぜて、終わりだと思っていた。
こんなに大変だなんて女の子たちは毎年よくやるなぁと感心してしまう。
でも少しだけ冷やしながら完成を楽しみにしている自分もいた。
何とか夕飯の時には間に合いそうだ。
今はおばあちゃんとの二人暮しなので、おばあちゃんの喜ぶ顔が早く見たかった。
まず驚く顔も見てみたい。
やっと夕飯の準備に取り掛かるおばあちゃん。
「よっこらせ、あらもうこんな時間なのね。杏華(ももか)ちゃんも帰ったなら教えてくれれば何か作ったのに。お腹すいたでしょう?って疲れてるのね。」
楽しみにしている間に杏華はいつの間にかおばあちゃんとこたつで寝てしまっていた。
夢の中ではお兄ちゃんとおばあちゃんと3人で楽しくバレンタインを過ごしていた。
とても楽しい夢だった。
2人が杏華の作ったチョコを美味しいと食べてくれる夢。
これが現実だったらどんなにいいだろう。
そう思いながら夕飯のいい匂いが鼻腔をくすぐり目が覚める。
「杏華ちゃん、起きた?夕飯できたよ」
おばあちゃんに呼ばれて向かう。
美味しそうな白身の煮付けと白米が湯気をたてている。
「んーいい匂い。さすがおばあちゃんだよね。今度料理教えてよ!今までずっとおばあちゃんが作ってたから。」
「簡単だからきっとすぐに作れるようになるよ。教えてあげようね。」
2人で食べた煮付けはとても美味しかった。
食べ終わると待ちに待ったお披露目タイムだ。
「おばあちゃん見て!生チョコ作ってみたの!」
完成したチョコをおばあちゃんのそばに持っていく。
「あら、これ杏華ちゃんが作ったの?すごいわねー。おばあちゃんこんなに美味しそうなの作ったことがないよ。本当にすごいね。」
おばあちゃんが微笑むと嬉しくなってこっちまで笑顔になっていた。
「食べよ食べよ!」
切り分けてお皿に乗せて渡す。
「あら、すぐに口の中で無くなっちゃうのね。柔らかくて、甘くてすごく美味しい。」
「今日ね、バレンタインだからおばあちゃんにと思って作ってみたんだよ!喜んでもらえてよかったー」
「それでお鍋が出てたのね。ふふふ」
「え、あれ?あ!流す容器探しててお鍋どかした時にしまうの忘れてた!ってことはもしかして気がついてたの?」
「どうかしら?」
と言いつつ煮付けのお皿を見るおばおちゃんは確信犯だったようだ。
魚を冷蔵庫から取り出した時にもちろん見つけただろう。
でもまさか自分にとは思わず黙っていたようだった。
2人でその後も楽しく話しながら生チョコはあっという間になくなった。
その前に苦労して作ったことなんてすっかり忘れて、また作ってもいいかなと考えながら、こんな幸せな日々が長く続く事を祈っていた。
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