きつね先輩とたぬきちゃん

ジョーケン

第1話 

 休日、陸上部の練習を終えて食堂へ来てみると野球部の『きつね先輩』が見えて声をかけてみた。

 赤いきつね片手に一人飯中の様子だ。

「あれ? きつね先輩、寂しそうですね」

 きつね顔でいつも赤いきつねを食べているから、きつね先輩。

 先輩は口をとがらせて、細い目で視線を投げかけてくる。

「きつね先輩はやめろ。今日は部活休み。自主練終わって昼飯中。お前は?」

「私は今日の練習終わりです。……にしてもよく飽きないですね。先輩いつもそれですよね」

「安いしうまいし早く食えるからな」

「緑のたぬきの方も同じじゃないですか」

「きつねに入ってる油揚げがいいんだよ。たぬきの天ぷらも捨てがたいけどな」

 そういうと私の持ってきた緑のたぬきを箸で指す。

「ふーん、なら食べ比べします?」

 そういって緑のたぬきにお湯を注ぎ、向かいの席に座る。

「そういやなんで赤いきつねと緑のたぬきなんでしょ?」

「さぁな知らん」

「会話のキャッチボールが下手な人だなー。そんなんじゃ次のスタメン落ちますよ」

「うるせぇ」

「先輩、来年でもう三年なんですよね。進路とか、決まったんですか? スポーツ推薦狙ってるんですよね?」

「来年は受験があるからな。……ただ、推薦は厳しいって言われた。まぁ来年の成績次第だな」

「……そう、なんですか」

 気まずい雰囲気が流れていく。テレビでは冬の到来とあって特集記事で持ち切りだった。二人して、そうこう話していると、あっという間に三分経過を知らせるタイマーが鳴る。

「きつね先輩、半分っこしません?」

「なんだよ」

「いいじゃいですか。ちょっだけ」

「まぁいいけど」

 赤いラベルが目立つ皿をひょい、と貰う。、

 まだあったかい出汁が湯気を立ち上らせる。

 うどんを啜り、出汁を一口。全身に暖かい熱がめぐる感覚。

 撥ねておとがいについた出汁をぺろりとひとなめする。

「んー、きつねもおいしいですね」

 先輩の方もそばを啜って顔が上気している。ふぅ、とため息をお互い吐く。

 吐息がお互いの合間を埋めていく。

 そうして視線が合うと、先輩はすぐに皿を煽って汁を一気に飲み干してしまう。

「あー! 私のたぬきそば!」

「たぬきもたまに食うとうまいな!」

 ごちそうさま、といって先輩が席を立ちあがる。

「まだ残ってますよ」

「いや、いい。そっちはお前が食えよ。じゃあ俺練習戻るから」

 先輩はそそくさと荷物をまとめて食堂から去っていった。

 なぜだか頬の火照りが少しだけ、耳の方にも映っていたように見えた。

 食堂のテレビから、これから一層寒さが増すと天気予報が流れる。

 外はこれから寒さが増すけど、今年の冬は少しだけ暖かくなりそうな予感がした。

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きつね先輩とたぬきちゃん ジョーケン @jogatuji

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