お茶会とは

 色々なコーヒーを堪能し終わったけど、結局レイシアちゃんは初めに飲んでいたブレンドに落ち着くことになった。


 どれも美味しくなかったわけではなく、単純に飲み慣れていて一番落ち着く味なのがブレンドだったとのこと。

 それと「このブレンドは、思い出がありますので……」と、恥ずかしそうに口にしていた。


 思い出といっても、初めて飲んだ味……という思い出しかないような気がしたけど、そこは突っ込まなかった。大人ですから。


「それで、以前話していたお茶会の件ですが……」


 ブレンドに落ち着いてすぐぐらいに、レイシアちゃんがいよいよその話を切り出してきた。


「「待ってね! 明日までには必ず、魔女さんから外出許可をもらってくるから!」と仰っていたので、その後が気になりました」

「大丈夫、無事に外出許可をもらうことができたよ」

「そうですか……よかったです」


 初めはめちゃくちゃ却下されていたけどね。

 よく分かんないけど、とりあえずお茶会には参加することができる。


「でも、ごめんね……色々と返事遅れちゃって」

「それは構いませんよ。私としては、タクトさんが来ていただけるだけで嬉しいですから」


 レイシアちゃんがにっこりと微笑む。

 その寛容さとあどけなくも美しい笑みは、まさに天使と見紛うほどだった。


(こんな人と結婚できる人は幸せだろうなぁ……)


 どうりで婚約話が殺到するわけだ。

 モテる要因がこれでもかと理解できる。


「それで、あの時は宣伝できるから勢いで「行きたい!」って言ったけど、そもそもお茶会って何をやる場所なの?」


 正直、僕の中でのお茶会は昔漫画で見た「ひゅ……ダージリンは格別ですわ」って言いながら紅茶を優雅に飲むというものしかない。

 完全に偏見で空想ではあるものの、社会に触れさせてもらえなかった異世界転生者にはこれぐらいでしか知らないのだ。


「別に、特段大層なもの……というわけではありませんよ? 学園での親しい友人を招いて、雑談したり紅茶を飲むだけですので」

「友人っていうのは、全員女の子なのかな?」

「そうですね、男性の友人もいることにはいるのですが、お茶会とは基本女性がするものですから、今回は女性のみです」

「ふむふむ」


 簡単に言ってしまえばちょっとお上品にする女子会みたいなものだろう。

 なるほど───


「ということは、可愛い女の子だらけの場所に狼が一人送り込まれるわけだね」

「狼!?」


 だって、花園の中に飢えたミツバチが入り込むような構図じゃないの、これ?

 エイフィアはまだいいかもしれないけど、僕は性別が明らかに違う。


 そして、僕はあまり外に出たことがないため女性と接する機会がない。

 更には、生まれてこの方彼女がいたこともない僕は、高ぶる欲求をあり余らせている。

 つまり───


「飢えています」

「ダ、ダメですからね!?」


 僕の正気を取り戻そうとしてくれているのか、レイシアちゃんは慌ててカウンターから身を乗り出すと、僕の額をペシペシしてくる。


 ……同じ女の子でも、エイフィアとは随分対応が違うなぁ。


「(う、飢えているということは、そういうことなのでしょうけど……いえ、ないよりかはいいのですがっ! 他の女性は嫌です!)」


 対応は違うけど、耳に届かないほどの声でブツブツと何かを喋っているのはかなり気になる。


「まぁ、冗談だよ。流石にレイシアちゃんの迷惑になるようなことは絶対にしないから」


 レイシアちゃんの厚意で宣伝の機会をくれるのだ。

 ここでレイシアちゃんの友人に何かをして迷惑をかけるなんて、それは人としてダメなことだと思う。恩を仇で返すような行為だ。


 ……いや、女の子に何かをすることだけでも人としてはダメなんだけどね。


「い、一応……お誘いする友人は全員が貴族ですので、にはあまり変なことはしないように……」


 レイシアちゃんもその貴族様なんだけど、どうして自分以外なんだろう?

 もちろん、レイシアちゃんにも変なことしないけどさ。


「分かったよ。とりあえず、レイシアちゃんとお喋りすることで飢えた僕の心を癒すことにするね」


 僕は冗談めかしてレイシアちゃんに向かって笑う。

 すると、レイシアちゃんも僕の顔を見て同じように笑った。


「ふふっ、それぐらいで癒すことができるなら、いくらでもお付き合いしますよ」

「それは嬉しい。お礼に、今日はお菓子を作ってきたから、それもサービスしよう」


 僕はカウンターの下から、布で包んだクッキーを取り出す。

 僕が「手作りだよ」って言うと「意外と多芸なのですね」と言われた。


「じゃあ、結局僕はそのお茶会でカフェオレを出せばいいんだね」

「そうなりますね」


 紅茶を出してしばらくして使用人みたいにカフェオレを出す。

 それか、初めからカフェオレを出すのかな?


 いずれにせよ、僕は機を窺ってカフェオレを皆に出すだけだ。

 ……頑張って、新商品の宣伝をしないと。


「ちゃんとタイミングになったら呼びに来てくれるのかな? それとも、離れた場所で待機?」

「いえ、お茶会に参加するのですからタクトさんも私達と同じ席ですよ?」

「はっはっはー! 冗談が上手いなー、レイシアちゃんは!」


 僕が女の子達の空間でお茶をするだって?

 さっきは「飢えてる」、「変なことをするかもしれない」とか言ってたけど、僕みたいな陰キャが女の子の空間に放り投げられたら気まづくて肩身が狭くなっちゃうよ。


「???」


 だがしかし、レイシアちゃんはきょとんと首を傾げるばかり。

 何を言っているのこの人? という言葉が聞こえてきそうだった。


「……本当に言ってる?」

「はい」

「Really……?」

「り、りありー?」


 英語は通じていないみたいだけど、どうやら本当にそのつもりらしい。


「い、いやちょっと待ってよ! 確かにカフェオレを宣伝はしたいけど───」

「ふふっ、タクトさんとのお茶会……楽しみです」


 僕は出かかった言葉を飲み込む。

 何故なら、レイシアちゃんの笑った顔がとても「楽しみにしている」のだと伝わってきたのだから。


「えぇー……」


 背景、お父さんお母さん妹よ───


 タクトは、花園に踏み込むことになるみたいです。







「そういえば、エイフィア様は今日はいらっしゃらないのですね」

「昨日嬉しそうにお酒を一人で飲んで、今は二日酔いで倒れてるんだ」

「…………」


 本当に、残念な子には困ったものだ。

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