いつわり。
アルゴン。
第1話
こんばんは。
あたしの名前はヨウコ。
今風に、若い人に分かりやすく説明するのなら『異世界転生者』って奴ね。
こちらに来る前の体は、その世界の高潔な血をその身に流した、自分で言うのは何なんだけれども、
けれども、前世では父王の血の連なったものは全員女。つまり、ありふれた男尊女卑が基本のその世界では、私は王になる欲望を持った男児がいる外戚から疎まれる、女王になる可能性のある王女として育てられた。
そして、たぶんだけれども毒殺された。
朝食のスープを飲んだ後から具合が悪くなって、そのまま記憶が途切れている。最後に見た、私が信頼していた侍女の悲しそうなそれでいて恐れを抱いているような顔から犯人を憶測する。ああ、彼女は敵対派閥の大物に血縁関係があったのかしら。
気が付いたら、ヒノモトという国で農民の子として生を受けていた。
そして、この『ニホン』という国は、大きな戦争後にありがちな狂乱の後、大きな発展を遂げた。私は自分の身に宿ったこの世界には無いチカラ。魔力と呼ばれているものに近しい。を周囲に気づかれないように慎重に使い、自分の生活圏を広げ、快適にするように努力した。
結果。私は、本能に赴くままに好みの男性(何故か容姿や経済的成功には興味は湧かない)にアプローチをして、普通の人間と婚姻し、子を儲けた。
第一子である娘はどういう訳か私の以前の種族である妖狐族の特徴を受け継ぎ、見目麗しく育った。そして、多くの浮名を流しつつ、私の夫よりも少し劣る、ただ容姿が良く、愚鈍な金持ちと
第二子である息子は、旦那に似て、覇気も能力もほどほどのいい男に育った。
メスとの交尾に奥手なのは知っていたが、そろそろ子づくりの適齢期が過ぎそうなので、娘の伝手でつがいをあてがうつもりだ。
その息子だが。
いい歳になったのにも関わらず、毎年、実家である私の巣にやってくる。
今年の正月もまた息子がやってきたのだが、何を思ったのかインスタントのそばを買ってきた。緑のたぬきだ。
私はため息を吐いた。
父親と同じで私の好みを理解していない。
私はこちらの世界で違和感なく生活できるように、なるべくこちらの人間の風習を事細かに調べて実行するようにしてる。
年越しそばもその一つだ。
細長いそばを食べることによって、来年も細く長く…という趣旨があるという。
ああ、くだらない。
願掛けよりも、美味しいものを食べて活力を得るほうがよほど効率的だろうに。
私は断然赤いきつね派だ。
あの油を多量にまとったお揚げをスープに浸して食べるときの愉悦といったら比較する対象物すらないと思われる一品だ。前世では一国の王である父ですら赤いきつねより美味しいものは食べていなかったように思う。
私の人生目標はそばのような細く長くではなく、スープをたっぷり含んだ油揚げを巻いたかのような太く短いものなのだから。
地球で過ごす日々は、とても素晴らしい。
ちなみにこちらの『ニホン』、人間を欺くくらい賢いきつねは警戒されるらしい。赤いきつね。なるほど、いいネーミングセンスだ。
私は第二の人生を謳歌している。
いつわり。 アルゴン。 @argon0602
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