XX【買い物リターンズ】


「あ、奏さん!」

「ん?」


 雫に再び買い物に行きたいと頼まれ、俺たちはこの前行ったショッピングモールへとやって来ていたのだが、そこで聞き覚えのある声に足を止める。

 この前の買い物で買ったものはアンノウンのせいで台無しになってしまったので、俺も俺で買い物に行く気はあったからな。


 声のした方を向けばそこには前にこれまたこのショッピングモールで出会ったあの時の女の子が二人立っていた。


「お姉ちゃん、この子たちがもしかしてこの前言ってた……」

「うん。前にナンパされていたところをちょっとね」


 すぐ隣に居た雫の質問に俺は答える。

 この前の買い物よりも更に前……まだ雫が居なかった時と言うか助けられてなかった時に来た時に出会った二人の高校生……香菜と葵だ。

 あの時はナンパのお礼って事でフードコートで奢ってもらったんだけど、今思い返してもやっぱり女子高校生に奢られる成人男性って言うのは嫌である。


「あの時はごめんなさい……ちゃんなんて呼んじゃって」

「んー? 気にしてないからいいよ、大丈夫。もう過ぎた事だしね」


 当時の事を思い出しているのだろう。香菜が謝って来る。全く気にしてなかったと言えば嘘になるけど既にもう過ぎた事なので今更である。


「えっと、そちらは……妹さんですか? さっきお姉ちゃんと呼んでいましたし」


 そんな中、葵が雫の方を見て私に聞いてくる。


「初めまして。お姉ちゃんの妹の氷音雫こおりねしずくです」

「お、おー……は、初めまして。私は柊香菜ひいらぎかなです」

「えっと私は望月葵もちづきあおいです」


 雫の自己紹介に二人とも驚いている様子だった。


「えっと……雫さん? って呼べばいいのかな」

「あのすみません……差し支えなければ教えてもらいたいのですが雫さんのご年齢は?」


 俺みたいな事例があるから二人とも慎重と言うか、何だか不安そうだった。うん……二人にはまた悪いけど、その不安は大当たりである。


「えっと今年で20になりました」

「「……!?」」


 二人は俺と雫の顔を交互に見ながら口をパクパクさせていた。


「うん……何か二人ともごめん」

「い、いえ!?」


 俺はこのナリで25歳であり二人よりも結構な年上である。身長もあの子たちよりも少し小さいし……そして雫については俺よりも小さいので当然、二人よりも更に小さい。

 それで20歳……つまり成人していると言う事を知ったら誰でも驚く。俺も何も知らないで聞いたら驚く自信がある。


「えっと奏さんたちは買い物に来た感じですか?」

「うん。実はこの前にも雫と買い物に行ったんだけど、その時運悪くアンノウンが出現してね……その時買った物は台無しになっちゃったし買い直しと言った感じかな」


 何だか気まずい感じになってしまったが、しばらくした後に葵が切り出してくれる。


 あの時は本当に運が悪かったと思う。買い物中にアンノウンが出現……それ自体は別に珍しい事ではないが、その後にレベル5の上位とされたあのアンノウンも出て来た訳だ。

 雫も避難したものの避難所が襲撃を受け、雫も怪我をしてしまったし。捻っただけで済んだのは本当に良かったと今でも思う。


「それは災難でしたね……」

「あはは、本当に」


 魔法少女として戦った事については当然ながら話さない。そんな会話をしていると、ふと雫と香菜の方を葵は見ていたので俺も見ると何だかすぐに打ち解けたのか、お互い何かを話しているのが見えた。


「流石は香菜ですね……すっかり仲良くなってます」

「あ、やっぱりそう言うタイプの子かー」

「奏さんの予想は当たってると思います。彼女どこか阿保っぽいところはあるんですけど、クラスの中では結構なムードメーカーみたいな存在ですよ」

「阿呆っぽいって……」

「まあそう言うところも可愛いんですけどね」

「へー……」


 最初合った時から何となく、そう言うタイプの子さは感じていたがどうやら間違ってなかったようだ。ああいう子が一人でも居るのと居ないのとではクラス内の空気も全く異なるだろうし。


「葵は香菜の事好きなの?」

「!? い、いきなり何を言い出すんですか奏さん」

「大丈夫? 顔赤いよ?」

「き、気のせいですよ」

「……仲良さそうだったしそうなのかなって」


 大人しい雰囲気だったのに、そう慌てる事もあるんだなあと思いつつ葵を見る。


「小さい頃から一緒でしたからね」

「そっか」


 幼馴染と言うやつだろう。

 生憎と俺にはそう言った相手は居ない。まあ同級生で同クラスの悪友は居たが……今は確か工場で働いているんだったかな?

 この姿になってからまだ連絡は取ってないんだけど……お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと同じ感じになってるのかな。


 あの騒動の後に覚悟を決めてお祖父ちゃんとお祖母ちゃんに電話をかけたんだけど、どうも俺が元から女だったと言う認識になっていたのだ。何か複雑な気分だったけど、変に思われるよりはマシかな。

 近いうちに祖父母の家に行く予定である。もちろん妹の雫も連れて行くつもりだ。因みに祖父母も雫についても認識していたので良かった。


 未だによく分からんな。




□□□




「お会計7790円になります」


 葵たちとは別れ、一通り買うものを買い、レジに持って行きその金額を支払う。

 思ったより買ってしまったみたいだ。まあでも冷蔵庫の中身は前に雫の言ったようにすっからかんと言っても過言ではないので仕方がない。


 マイカゴの中に大き目の保冷マイバッグを入れており、その中に店員さんが買ったものを入れてくれる。

 便利だよなー……。


「大分買ったねー」

「まあ仕方がないだろ」


 レジカートを押しながらそんな会話をしつつも俺たちは自分の車へと向かう。流石に結構買っちゃったのでこれを手で持つのは少しきついものがあったのでレジカートを使っている。

 どうも身体自体の力も女性並みになってしまってるみたいだ。男の時であれば、このくらい簡単に持ち歩けたはずなのになあ。一応男って言うのもあって力はあったのだ。

 周りにに比べればそこまでではないが……少なくとも今よりは力があった。変身すればまた違うんだが……。


 こんな人目のいっぱいある場所で誰が変身できると言うのだろうか。それにただの荷物持ちだけに変身するって何だと言う話だ。そもそもあまり目立ちたくないって言うのに。


 既に騒動に巻き込まれたと言うか自ら巻き込まれに行ったのもあって結構目立っているけどな。あくまであれは魔法少女フリーズ・フルールとしてだが。


「これだけあればしばらくは持ちそうだね」

「だな」


 今回は何事も無く買い物を済ます事ができ、車に買った物を積む事が出来た。まあそんなしょっちゅう騒動が起きたら身が持たないが。


 あの騒動は落ち着いているがやはりアンノウンと魔法少女たちの戦いは終わらない。数は減っているものの、それでもまだアンノウンは出現しているんだしな。

 俺たちはあの一件から全く変身していないのだが……まあそこまで脅威の高いアンノウンが出て来てないから魔法省所属の魔法少女でも普通に倒せるからなんだけどな。


 今のところはまた平和に戻ったと思う。


 とは言え……まだ全然安心できないよなあ。嫌な予感こそしないがそれでも、何だかちょっと胸騒ぎに似た何かを感じる事がある。


 そこまで気にするレベルのものでもないので特に気にしてないのだが。頭の片隅には入れてあるけど。


「じゃあ帰るか」

「うん!」


 そう言って俺と雫は車に乗り込み、そしてショッピングモールを後にするのだった。



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魔法少女フリーズ・フルール! 月夜るな @GRS790

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