XX【バレンタイン】


「お兄ちゃん! これ!」

「ん?」


 それは一段落ついた時のこと。いつものように炬燵に入ってゆっくりしていたら雫が何か紙袋らしきものを渡してきた。


「なにこれ?」

「ふふ!」

「なにわろてんねん……」


 紙袋の中を覗くと、可愛らしいデザインの長方形の箱で一つ入っているのが見える。それを取り出してみるとほんのり甘い香りがする。


「……ん?」

「開けて開けて!」

「お、おう」


 そう急かしてくるので言われるまま綺麗に包装されているその可愛らしいデザインの箱を開けてみれば、中には小さなチョコレートが数種類入っていた。甘い香りはこれか。


「チョコレート……?」


 はて? 何でチョコレート? と思ったもののそこで俺は思い出す。そう言えば今日は2月14日だった。

 デジタル時計を見れば時間とその下に日付が表示されており、2月14日と表示されていた。


「バレンタイン?」

「そうそう! ふふ。お兄ちゃんの渡すためのこの間買ってきたんだ」


 嬉しそうに話す雫。うん、可愛い。


「お兄ちゃん、くすぐったい……」


 なるほどなあ……妙にコソコソしていたように見えたがバレンタインのチョコレートだったか。ついつい嬉しくなり雫の頭を撫でる。


「本当は手作りしたかったんだけど、ちょっと難しかったから市販の何だけどね」

「いや、嬉しいよ、ありがとう、雫」


 そう言ってやると更に嬉しそうな顔をする。

 ……バレンタインのチョコレートなんていつぶりだろうな。5年前よりも前かもしれないな。まだ両親が居て雫も居た時。


 雫は今も居るけど……知っての通り雫は5年前に東京を凍り付かせてそのまま一緒に凍ってしまってたし、雫の事自体記憶から消えていたのだ。


「……」


 気持ちよさそうに目を細める雫を見る。

 5年前というか……首都凍結を起こす前の時と変わらない見た目。時すら凍らせてしまうというとんでもない魔法の影響で雫の容姿は15歳の時のままだ。


「あ……」


 俺が手を離すと名残惜しそうな表情をする。

 雫の身体は15歳のままではあるが、扱いとしては20歳となっている。凍っていた5年間がなくなるという訳でもなく、雫は15歳の姿のまま成人してしまったのだ。


 ……。


「お兄ちゃん!?」

「ごめん。ちょっとだけこのままで」


 やってしまった。

 俺は雫の身体を引き寄せ、抱きしめる。いきなりのことで雫も戸惑っているものの、しばらくすると落ち着いたようでそのままされるがままになっていた。


 今の俺の身体もだいぶ小さいが、雫よりは大きい。5年間の思い出もないまま成人……それはどうなんだろうな。


「……」


 しばらく沈黙が続く。

 何の抵抗もしない雫を見て、大丈夫なのかと心配になるものの……そう言えば雫は昔から俺に好意を持っていたことを思い出す。

 いや、俺も流石に兄だし妹の気持ちとか何となく分かってる。それに答えてやることは出来ないけど、俺自身も雫のことは好きである。シスコンっていうの自覚はあるからな。


「お返し、しないとな」


 沈黙が続く中ようやく発した言葉がこれである。

 雫を離してやれば、これまたさっきと同じように名残惜しそうな顔をする。特に嫌がってないからまあセーフか?


 いやアウトだろ、という声がどっかから聞こえた気がする。


 これは何かお返ししないといけないな……空白の5年を埋めることは出来ないが、これから色々と思い出を作ることは出来る。


 ……。

 お返しならホワイトデーかな? いやでもよく考えたら今の俺って男ではないから、今日なのか?


 よ、よし……買ってこよう。











 その後、当日に買いに行った俺だがどこもかしこも売り切れになっており、何店舗か回ったところでようやく残っていた1つを購入したのはまた別の話。

 雫とフルールには笑われてしまったが、それでも雫は嬉しそうに受け取ってくれたので良しとする。


 ……一応、ホワイトデーにも考えておこうかな。そう思うのだった。




END


_あとがき_


という訳で兄(姉)と妹のバレンタインの日の出来事でした。

読んで下さりありがとうございました。

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