第3話トッピング
「
「ん?いや、これが目に入ったものでな」
そう言う彼の視線の先には、和風カップ麺が積まれた棚があった。
「茂さん、即席麺お好きだったんですか?あまり食べているのを見たことがなかったので、あまりお好きではないのかと思いましたよ」
「いや、そんなことはないよ。結婚する前はよく食べていたよ。俺は蕎麦が好きだから、和風即席麺があると知って、感動したのを覚えているよ。初めは、オヤジが仕事の帰りにひとつ買ってきてくれた、たぬきそばだったよ。それを家族五人で分けて食べたな。確か十歳頃だったな」
「そういえばお金がないときでも、毎月一回は家族で天ぷら蕎麦を食べに行きましたね。そのおかげか
「
「私はどちらかというと、うどんの方が好きだったんですよ。結婚してからは蕎麦も良く食べていますけどね。よくうどん作っていたの覚えていませんか?」
「あれは節約のためではなかったのか?!」
「もちろん、子供とあなたにたくさん食べてもらいたかったから作っていましたよ。それに子ども達もうどん作りが好きで、よく手伝ってくれたので楽だったんですよ」
「そうだったんだな。そうだ、お昼はこれにしよう。話していたら、食べたくなった」
「そうですね。そうしましょう」
「お帰りなさい。ちょうどよかった。お湯が沸きましたよ。」
「ただいま、そうかそれならお湯を入れておいてくれ。手洗いして着替えてくるよ」
そう言うと茂は、食卓に手に持っていた袋を置いて洗面所に向かった。
ピピピッと時間が経ったことをタイマーが知らせる。
「そっちはまだなんじゃないのか?」
「私の方に合わせて、お湯を入れたので大丈夫ですよ。そうしないと、私の方ができるまで茂さんは食べないでしょ?」
「よく考えているんだな。ありがとう」
「どういたしまして。さぁ、食べましょう。伸びてしまいますよ」
そういうと、二人はそれぞれのカップ麺の蓋を開けた。
「そうだ、これをのせよう」
「さっきあなたが買ってきたやつですね」
「あぁ、これとこれを君に。残りは私の分」
「私の好きな海老の天ぷらと舞茸の天ぷらね」
「俺は海老天とキス天だ。子ども達が小さい頃に天ぷらをこうやって食べた事を思い出したんだ。子ども達がこうやって食べたいって言ってきてね」
「まぁ、私はのけ者でそんな楽しそうなことを?」
「君が友人と出掛けているときの話だよ。君ともしたいと思っていたんだよ。だから、今日は特別仕様だよ」
「そんなこと分かっています。ちょっとした意地悪ですよ」
「そうか、それなら安心したよ。こっちも食べるか?」
「少しくださいな。こちらもいりますか?」
「あぁ、すこし分けてくれるか?」
「そういえば、翔が春休みに来るそうですよ」
「1人でか?」
「えぇ、アウトドア部に入ったみたいで、星が見たいそうですよ。誠達は忙しいみたいですけどね」
「そうか、翔が一人で来るのか。それは楽しみだな」
「そうですね。孫の翔も今年で十七歳ですから、時の流れは早いですね」
「そうだな。同い年で育って六十九年、結婚四十七年、誠は四十四歳、絵美は四十二歳…これからもよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
そうやって、天ぷらを足した赤いきつねと緑のたぬきを、ふたりは仲良く分け合って食べた。
すべては、笑顔と共に。 渋田ホタル @piroshikifu-wax
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