第2話湯気

「それじゃ、各自暖かい恰好をして観測始めるぞ」

 部活動でキャンプに来ている。地元の物を食べつつ、夜には天体観測をする事が目的だ。今は目的の天体観測が始まって少し経ったところだ。

かける!こっちに椅子持ってこいよ!」

「はい!行きます!」

 二つ年上の部長で、三年生の飯田先輩だ。後輩にも優しく、どこか話のしやすい雰囲気のある兄貴的先輩だ。アウトドアが好きらしく、入部のきっかけも飯田先輩がとても楽しそうに新入生歓迎会で話しているのを聞いたからだ。体験入部で行った日帰りキャンプが、楽しくて入部した。

「どうだ?冬のキャンプでの観測」

「寒さは余裕です。それに星がキレイで感動しています」

「何言ってんだ?これからだよ、寒くなるのは。とはいえ、暖かい飲み物もあるし、ストーブ付きのテントもある。寒くなったらテント行けよ」

「わかりました。それにしても、先輩は計画の段階からすごく楽しそうにしていましたけど、冬キャン好きなんですか?」

「おう、そうだ!なんといっても、冬は空気が澄んでいてな…」

「まったく、何言っているの!適当なこと言って!」

 怒っている眼鏡をかけた彼女は、副部長で女子部員の水野先輩だ。飯田先輩とは幼稚園からの幼馴染で、女子部員のまとめ役をしている。

大翔 ひろとはこう言うけど、本当は冬に外で食べるカップ麺が好きなだけなのよ。小学校の時なんか、二十一時にカップ麺とお湯の入った水筒を持って、うちに来たときは驚いたわよ。しかも、親に黙って来たから大騒ぎになったんだから」

「確かにそれも好きだ!いや正直に言えば、部活動で一番好きだ!だが、キャンプも天体観測も好きだ!それに あおいだって好きだろ?」

「騒がないの!わかったから、私も好きなのは認めるわよ!」

 二人の騒がしさに他の部員だけではなく、近くのキャンプ客もこちらに注目している。

「飯田と水野、静かにしなさい」

 いつも通りの言い合いをしている二人を先生が注意をする。それに対して、先輩たちは反省し謝罪をした。いつも一緒にいて、時にはこうやって仲良く言い合いをしている。

「ということで、俺はカップ麺タイムとするが二人はどうする?」

「もう、お腹空いたの?」

「夕飯も十九時には食べ終わっているんだぜ。それに一日中動いていたからさ。葵と翔もどうだ」

「確かに、少し空きました。俺も食べます」

「まぁ少し、お腹減った気がするわ」

「そうか。適当に持ってくるから、お湯の準備しておいてくれ」


「それじゃ、いただきます」

カップ麺ができ、三人で食べ始める。

「葵、半分やるよ」

 飯田先輩はそう言うと、半分にしたかき揚げを水野先輩のカップに入れた。

「ありがとう。それじゃ、お揚げ半分あげる」

 二人はトッピングを交換した。

「ありがとうな。どうした?翔」

「懐かしいと思いまして。それにしても二人は本当に仲良いですね」

「幼稚園からの仲だからな。ところで懐かしいって?」

「いや、俺と妹が小さい時に両親がよくお揚げをくれたんです。そして、俺と妹は両親にかき揚げを半分にしてあげていたんです。あとから知ったんですが、父はたぬき派だったらしいです」

「優しい両親ね」

「はい。俺も妹もそうやって食べるのが好きだったんです。父は蕎麦派だったらしいんですが、それに合わせてくれていたみたいで」

「俺と葵みたいだな」

 飯田先輩は、笑いながら自覚なく言った。その言葉を聞いてなのか、寒い中の赤いきつねの熱なのか、水野先輩の頬はほんのり赤く、メガネは湯気で曇っていた。

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