すべては、笑顔と共に。
渋田ホタル
第1話一人暮らし
「ただいま」
大学を卒業して就職した会社。配属先が大阪だった。大学でも一人暮らしだったが、今までの友人達と遠距離になるのは、初めてだった。大学の同期の何人かも同じ会社に入社したが、彼らとは配属地域が別々になった。慣れない社会人生活で少し心細く寂しさを感じていた。それも一年過ごして慣れたが、会社勤めは疲れる。早く寝てしまいたいが、夕飯も食べなくては腹の減り具合からも眠れそうにない。
「なんだか、料理するのも億劫だな」
そんな時、日曜日に届いた実家からの荷物が目に入った。
「そういえば、野菜や作り置きの他にまだ入っていたな」
そう思い、ダンボール箱の中を覗き込んだ。
中には俺が好きなお菓子と赤いきつね、緑のたぬきが入っていた。なんでこの組み合わせなんだろうと思いつつ、これ幸いとやかんを火にかけた。
その時、テーブル上の封筒に気が付いた。荷物の中に手紙が入っていたことを思い出して手紙を読み始めた。内容は体調やお金の心配等、俺を心配するものだった。そして電話で、大阪の赤いきつねと緑のたぬきの味が、関西で味が違うことを話していたので、食べ慣れた関東のものを送るということだった。
確かに大阪に住み始めて、久しぶりに食べた緑のたぬきの味が違うことを不思議に思い、蓋の関西の文字を見て納得したことを話したのを思い出した。関西のダシを前面に出した味に驚き、関東とは違った美味しい味に感動をした。
話してはいないが、味の違いに友人や家族と離れての生活で感じる違和感や不安、寂しさを感じていた。
「見慣れた蓋に、なんだか嬉しくて懐かしさを感じるな。安心するな」
丁度お湯が沸いた音がした。それと同じく腹が鳴った。せっかくだし、食べ比べてみよう。関西と関東の食べ比べ。たぬき比べ。お湯を入れてあっという間の三分。
「見慣れた濃い目の色、そして澄んだ薄い色。いただきます」
慣れた関東のものを食べたが、やはり美味しい。すぐに関西を食べる。色味で味が薄い印象だが、ダシをしっかりと感じるため味がしっかりとしている。あっという間に食べた俺は、電子レンジでご飯を解凍した。その間に、残った両方のスープを鍋に入れて火にかけた。そこに解凍したご飯を入れ、沸き立ったところで溶き卵を入れた。残ったスープで簡単に雑炊を〆にする。これも好きだったな。その時、思い出したのは父との思い出だ。母がいないときに、妹とねだって近所の総菜屋で天ぷらを買ってもらい、豪華なカップ麺を作って食べていた。一本ずつの大きな海老天に、父はキス天で妹はちくわ天、俺は半熟玉子天をのせて食べていた。そして、残ったスープにご飯を入れて食べていた。
懐かしい気持ちでいっぱいだ。満腹を感じながら、携帯電話を開き実家に電話をかけた。
「もしもし、親父か?
どこか寂しさを感じていた気持ちは、すっかり温かく明るさで溢れていた。
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